ネタキャラはネタキャラでしかないのか!? 2
絶壁を疾走するテンテン。
その速さは尋常でなく、風切るように上を目指す。
偵察隊はもう頂上へついた頃だろうか。
東の絶壁は西の絶壁にくらべれば、その距離は半分にも満たない。
その西の絶壁も半分を過ぎたあたりで前方に雲が広がっているのが見えた。
それはゲームの時と変わらない光景である。
そのままテンテンは雲へと突っ込む。
雲の中はまとわりつくような湿気があって、ひやりと冷たい気がする。
凄いスピードでそこにつっこんだものだから、水滴が顔に当たって、雨の中にいるようだ。
それでもかまわず走り続けるとやがて雲が切れて太陽が顔を出した。
同時に絶壁の終わりが見えてくる。
終点で体をひねり、きりもみをするように横に回転させながら天地の変更を体に無理やり馴染ませる。
綺麗に着地を決めると、絶壁の上に広がる荒れた台地がテンテンの目に飛び込んできた。
内功はさほど減っていないし、途中で敵に遭遇したわけででもなかったから消耗はしていない。
そのはずなのに、何故かテンテンは少し疲労感と息苦しさを覚えていた。
しばらく、深呼吸をして息を整えていたテンテンは、けれどすぐにその理由に思い当たった。
それもそのはず、テンテンが降り立った大地は絶壁を登りきった、"龍の骸"の中でも標高は高い方に属する台地だから、その分空気も薄い。
「なるほど、こういうところも現実味があるのか。」
テンテンはそう呟いて、そこにあぐらをかくように座り込んだ。
そうして息を整えつつ、両手で印を結んでいく。
印を結ぶのはおまじないみたいなもので特に意味はないのだが、テンテンはそのほうがなんとなくそれっぽいし、それを行い易い気がしていた。
――運気調息
軽功とともに得る事のできる技の一つで、自分の呼吸を整え、集中し、体を流れる脈を正常に戻す事で内功を回復させる技である。
その他にも、時間はかかるもののゲーム内では瀕死からの回復ができるわざとしても知られていた。
今、テンテンはその運気調息を行って、絶壁を登る際に消費した内功を回復させようとしていた。
呼吸を整えながら何度も印を組み替えていく。
その度に、体の経絡が活性化し、内功が回復していくのがなんとなくわかった。
「はっ!?」
まもなく内功が回復しきるというところで、テンテンはカッと目を見開いて横へと飛びのいた。
さっきまでテンテンを居た場所へ、小さな火球が猛スピードで飛来し、地面をえぐるとともに爆発する。
「くっ…」
その爆発は小規模とはいえ、地面をえぐり、土や石をつぶてにして周囲に撒き散らす。
直撃をさけたはいいものの、そのつぶてがテンテンを襲って、僅かに体をかすめていった。
すぐさま火球が飛んできたと思しき方向へ視線を移すと、そこでは小型の竜が宙を舞い、テンテンへ向けて大きく口を開いている。
その口元には既に火球が生み出されていて、すぐにでもテンテンへむけて打ち出されようとしていた。
テンテンは軽功を発動させて地を蹴る。
同時に火球がまたもテンテンが元居た地面をえぐった。
台地の地形はゲーム時のまま変わりがない。ここへも良く来ていたテンテンは地形も熟知しているが、今テンテンへと火球を放つ赤い肌の竜はここではみられないものだった。
レッドワイバーンと呼称されている赤い肌をもつ竜。攻撃は見ての通り小さな火球を凄い速度口から吐き出してくる。
小型、とはいえ、その大きさは人間を裕に越えて、テンテンの体の5倍以上はある。
にもかかわらずその行動は機敏で、軽功で走り抜けるテンテンに向かって空中で方向を変えながら的確に火球を放ってくる。
当たりはしないものの、火球が地面をえぐるつぶてがテンテンに多少なりとも痛みを与える。
空中から狙い撃ちにされるものだから、テンテンからは手が出せない。
かといって、下手に空に飛び上がったところで、軽功に空中での攻撃方法はない。
それに元々地を這う動物の一種である人間のテンテンでは、空中戦を挑んだところで向こうに分がある。
今は、テンテンは被害を最小限に抑えながら逃げるしかない。
テンテンは良く知る地形をジグザグに巧みに疾走しながら、レッドワイバーンの火球から逃れる。
敵もさるもので、次第に狙いが正確になってきていた。
しかしながら、テンテンの足の方が敵の移動速度よりも幾分速い。じわじわと距離を開けてテンテンは走った。
もう少し走れば次の高台へと続く裂け目に到達するというところで、一つの不安がテンテンを襲っていた。
ここから逃れても、次の高台が安全だという保証がない。
むしろ待ち構えた竜に挟み撃ちにされる可能性だってある。
どうするか、ゆっくり考えている余裕はない。
後ろからはレッドワイバーンの翼をはためかす音が近づいてきていた。
「ええい、ままよー!」
テンテンは意を決して、叫びながら空中へと躍り出た。
大きく空へと飛び上がり、一瞬滑空して体勢を整えると、今度は両足で空中を蹴るように、一度折り曲げた両足を空中へと勢い良く伸ばした。
「飛翔ーー!」
叫びと共に、テンテンの体はそこからはじけるようにして、まるで弾丸のようなスピードで空を切り裂くように飛んでいた。
そのまま目的の高台まで一直線に軌道を描いた。
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東の絶壁を登りきった偵察隊。その人数は酔いどれ"榊"を含めて8人いる。
どの人物も軽功を修得しており、さらには素手や関連スキルに特化しているためその攻撃力は高い。
しかし、テンテンと違って攻撃力が高い分、内功は低めだ。
絶壁を登りきった彼らは、脱落者がいない事を確認すると、テンテンの示したポイントへと疾走、滑空し向かっていく。
先頭を青い中国風の服を着た男――副官が走り、しんがりを榊が務める。
軽功を使う人間が一列に並び、そして滑空していく様は、渡り鳥を連想させる。
最初のポイントで、予定では内功が少な目の3人が警戒と連絡役として残り、残りの5人は軽功を駆使してなるべく高い場所へと走り、そこから背骨の状況を確認するという手はずになっている。
何のトラブルもないまま最初のポイントへとたどり着いた8人は、予定表にそって行動を始める。
三人がそのポイントである高台と周辺の様子を確認するために散り、残りの5人は更なる高台を目指して移動する。
周辺警戒をしている三人からのコールにより、榊は異常無しとの報告を受けていた。
三人はそのままポイントの警戒にあたり、榊からの偵察終了のコールと共に元来た道をたどって"龍の口"東へと戻る。
榊たち5人はさらなる高台から、二人一組に分かれ、北西と南西へ向けてぐるりと背骨を一望したのち、西の高台で合流。
榊は先行し、テンテンと合流を図る予定だった。
テンテンの情報どおりに高台を経由しながら5人は西を目指すことになる。
途中に敵がいたとしても、空中戦にならなければこの面子であれば問題ないだろう。
榊は他の4人を順番に見ながら無言でうなずく。
それを合図に5人は各方面へと散らばっていった。
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まるで隕石のように、一直線に地面へ向かって落ちていく一筋の光。
その光は土と土煙を巻き上げ地面へと衝突した。
その衝撃で、小さなクレーターのように地面がえぐれている。
中央には、小さな人影があった。
「ほんとに衝突するところだった…」
ぱらぱらと肩に落ちる土の破片を手で払いのけながら、立ち上がる人影。
テンテンだ。
えぐれた周囲の地面を見て、テンテンは口の端からぺろっと舌をだしてバツの悪そうな顔をした。
「やっちゃったてへぺろー」
やってみて、そんな事をしている場合ではない、とテンテンは後ろを振り返った。
遠くにさっきやってきた高台が見え、その上空にはあのレッドワイバーンの姿も見える。
しかし――
「あれ?」
執拗に追ってきていたワイバーンは、さっきまでテンテンがいた高台の上空で翼をはためかせながらその場に静止してこちらをみているものの、追ってくる様子は無い。
火球を飛ばそうにも射程範囲ではないのか、攻撃してくる気配も無い。
しばらくテンテンを睨むようにしてみていたレッドワイバーンだったが、やがて踵を返すように後ろを振り向いて飛び去っていってしまった。
「どういうこと?」
思わず首をかしげてしまったテンテンだったが、しかしすぐに思い直して辺りを警戒する。
レッドワイバーンが追いかけてこない理由はわからないが、ここにもまた同種の危険がないとは言えない。
だが、敵の姿はないし、さっきのレッドワイバーンのような翼の羽ばたきも聞こえない。
とりあえず今は安全らしいと確認をとったテンテンは再び運気調息をはじめる。
さっきは邪魔が入ったが、今度こそしっかりと内功を回復させる事ができそうだ。
テンテンは運気調息を行いながら、これまでの短い間に起こった出来事を考える。
そこにいるはずのないレッドワイバーン、そして逃げた自分を執拗に追いかけてきたものの、今いるこの場所まで逃げてきてみれば、それ以上は追っては来なかった。
レッドワイバーンは本来は"龍のはらわた"付近でうろついている上位のモンスターで、テンテンの記憶では、背骨フィールドに出現した事はなかった。
ましてや口との境目であるあの場所にいるわけがない。
そして途中まで追いかけてきたにも関わらず、去っていったのは何故か。
圧倒的に情報は足りないが、いくつかの推測を立てることは出来る。
そこまで考えて、テンテンはジオたちに一度連絡を入れる事を思い出し、コールする。
「ジオくん。レッドワイバーンがいた。」
「え?あれってはらわた近くにしかいないんじゃ?」
「そうだけど、でもいたんだよー」
「やっぱり前の通りってわけじゃないんですね。大丈夫だったんですか?」
空を闊歩するモンスターたちには、プレイヤーからの攻撃方法は限られてくる。
低空を飛行しているような敵であれば問題は無いのだが、さっきのレッドワイバーンのように高く飛行し、その高さから攻撃してくる敵には弓や魔法などの飛び道具が無ければ満足に戦えない。
敵の羽に損傷を負わせ、地面に落ちてきたところでようやく対等に戦えるのだ。
「まぁ、どうにか逃げ切れたよ。ゼルくんと一緒に龍の口に来た時は弱い奴で試してたからわかんなかったけど、上位モンスターはちょっとやばいかも。」
「ふーむ。」
「とりあえずやるだけやってみるけど…」
テンテンはちらりと、自分で作ったクレーターを横目で見る。
「あ、そうそう、これは予想なんだけど――」
テンテンはレッドワイバーンから逃げ切った時の状況から、ゲーム時のようにモンスターにはテリトリーがあるのではないかという予測をたてていた。
それをジオに報告する。
「テンテンさん、でもそれだと"口"にモンスターの数が少なかった理由が説明つきませんよ?」
「あー、それなんだけど、もしかしたらモンスターを統率してるやつがいて、その命令でテリトリーを割り当ててるってのはどうかな?」
「ふむ…推測の域はでませんけど、ありうるかも。でも、そんなことできるモンスターなんてこの辺にいましたっけ?知恵でも力でも"龍の骸"のモンスターを統括できるような…あ!」
テンテンが推測の先に思いついたことに、ジオも至ったようだ。
ジオはこういうとき、察しがいいというか、普段から色々考えをめぐらす癖があるようだったけれど、こういうときは話が早くて助かる。
そんな風に思ってテンテンはふっと笑った。
「そう、私はね、もしこのモンスターたちが何者かに統率されていて、背骨を封鎖しているとしたら、一つだけそれが出来そうな奴がいると思ったんだ。」
「いや、でもまさか…」
「ジオくん。ちょっと厄介かもね?」
「それが本当ならそれは相当厄介だと思いますよ?」
何が起こるか、何が起こってもおかしくない異常な状況の中で、ならばそれは起こるべくして起こるのかもしれない、とテンテンは自嘲気味に笑ってその名を呟いた。
「カンシーン…」




