ネタキャラはネタキャラでしかないのか!? 1
ぞろぞろとテレポーターに向かって歩いていく人々。
その中にはNPCの姿も見える。
ジオ達プレイヤーはテレポーターに触れると行き先を示すコンソールが表示されるが、この世界を現実として生きているNPCはどのようにして行き先を決めているのだろう。
ジオはテレポーターに乗って移動していく人達を見ながらそんな疑問を覚えていた。
"龍の骸"の入り口である"龍の口"付近に設置されてあるテレポーターに、多くのプレイヤーが集結していた。
調査隊として有名プレイヤー達に声をかけられたもの、そうでないもの様々いる。
中にはこの人だかりを狙って商売をしようと露店を開く者も居た。
多くの人で賑わう"龍の骸"テレポーター前。
既にいくつかの簡易式の天幕が張られ、その中の一つに、"酔いどれ"や"サムライ"などの有名プレイヤー達が集まって、なにやら話し合っている。
その他には各人が思うがままにテレポーター付近をぶらついて、移動が始まるのを待っているようだ。
プレイヤーに混じってやってきたNPCと談笑しているものもいる。
調査隊、といっても急ごしらえの有象無象であるから、そこに規律や統率なんてものは存在していない。
それぞれの有名プレイヤーが所属するギルドやクランのメンバーであればあるいはそこそこ足並みも揃うのだろうが。
フィールドダンジョンである"龍の骸"の近く、といっても、テレポーター近くにモンスターの姿はない。
元々配置もされていないし、いたとしても小動物くらいだ。
その小動物でさえ、突如大挙して現れた人間たちに驚いたのか、その姿を見せる事はなかった。
テレポーターからもうすこし龍の口方面へ行った、賑わいから外れたところにポツンと立っている天幕がある。
天幕の中には6つの人影があって、机の上に広げられた地図を見ながら話し合いをしているようだ。
「この崖から上がって、空にダイブ。で、ここから、ここまで滑空すれば内功関係なくたどり着けるはず。」
「うんうん!」
地図を指でなぞって一直線を描くのはテンテンだ。
それをみてしきりにうなずいているのはミサと、もう一人、青い中国風の服に、野球帽のようなキャップを深く被った男。"酔いどれ"から紹介された、軽功の使い手の一人だ。
テンテンほどの内功はないが、その分火力に長けているらしい。
今回の調査では"酔いどれ"の補佐にあたる予定で、副官的な役割を担う。
今はテンテンに偵察経路の相談にやってきていた。
「ここで、内功の少ない3人は連絡係として残ってもらって、残りの4人はここからさらに…」
どれくらいの消費、どこまでいけて、回復するための安全な場所はどこか。
様相の変わってしまった今では、どこまでゲーム時のままなのかわからなかったが、テンテンは知りうる限りの情報をひねり出す。
その上で、酔いどれの隊と自分の偵察ルートを決め酔いどれへと伝えてもらう。
予定では、まず調査隊本体が龍の口から背骨へ向かって進む。
どれくらいの数のモンスターがいるかはわからないが、龍の口程度であれば造作もなく制圧はできるだろう。
その後、テンテンの示すポイントへのルートを確保し、偵察隊が背骨上空へ向けて先行する。
同時に、テンテンが別のルートから偵察隊の帰還ルートの確認と確保を行う。
もし確保が難しければ別ルートの探索か、あるいは増援要請のために本体へと帰る。
偵察の報告を待って、本隊が背骨へと進撃、制圧し何が起きているのかを確認する。
そこまでがテンテンが"酔いどれ"から聞いた計画だ。
勿論予定は未定であり決定ではないから、状況に応じて細かい変更は出てくるだろう。統制の取れない有象無象でできる事といえばシンプルに、見敵必殺くらいしかないだろうから、このプランは現状で尤も状況に沿うと言えるだろう。
死神を自称するジオにとっては、血沸き肉踊る祭典とも言える。
言うまでもないが、ジオ達は別に特別声をかけられたわけではなく、テンテンの提案によって連れてこられただけなのだが。
テンテンは、それがたとえ寄せ集めだとしても、組織に属するのをあまりよく思ってなかった。
"酔いどれの榊"に頼み込まれたところで、偵察"隊"として動くのはどうにも性にあわないと思っていたから、偵察隊としてではなく、ただの協力者としてジオ達を巻き込みつつもアドバイザー的な立ち位置を条件として出した。
榊としては、この方法を思いつかせてくれたのがほかならぬテンテンであったし、WWFを始めた当初、龍の骸で自由に飛ぶテンテンを見て素手スキルを取ることを決めたという、今の自分を作るきっかけともなる言わば心の師匠でもあるテンテンを高く買っていて、できれば偵察隊の隊長になってもらい、自分はその下につきたいとも考えていたものだから、テンテンの提案にはやや不服であった。
思い描いた通りにならないこともそうだが、もう一つ、テンテンの提案で気になったのは彼女を取り囲む4人と一緒に、ということだった。
彼らを見れば、地獄戦士と神殿騎士、ランドマスターにクリエイトマスターと生産系はともかく皆中途半端なものばかりだ。
今切実に欲している諜報系のスキルをもっているわけでもないし、自分達が声がけを行っていた対象のように火力が高いわけでもなければ、軽功だって使えない。
言い方は悪いがネタスキル構成のネタクラスでしかなく、調査隊に加わったとしても最初はともかく最終局面で役に立つとは思えない。
榊にも"酔いどれ"という二つ名で呼ばれるくらいの自負はあるから、自分を差し置いてなぜこの面子なのか、と少しだけ不愉快に思ってしまう。
しかしながら、テンテンに頼むのは偵察であるから、彼女の補佐と考えればそう悩む必要もない、と"酔いどれ"はテンテンの提案を了承するのであった。
テンテンからの情報を持ち帰った副官の男の話を聞いた彼は、それが間違いではなかったと確信する。
それから偵察隊の、安全と思われるルートの情報を他の有名プレイヤーたちに知らせ、そこから本隊の進撃ルートが決定された。
調査隊の進撃開始。
調査隊の一団は総勢50名近くの人数で構成されていて、それぞれの比率もバランスがよい。
サムライ"ゴロー"、酔いどれ"榊"を中心にしてサムライクラス、酔拳士クラスの人間の他、アーマータンクとかロードガーディアンと呼ばれる盾役のクラスの集団が先頭を歩く。
その後ろを、緋の賢者"ルリ子"、ウォーロックマスター"んふっふ"などを中心とした、ドルイドやメイジなどの魔法職の面々が続く。
しんがりをセイクリッドナイト"ハルおじさん"を中心とした攻守のバランスの取れたナイトロードなど通称騎士と呼ばれる者たちが固めて進軍していく。
進軍、といっても有象無象の集まりでしかないこの調査隊は、何か陣形を組むわけでもなく、それぞれがなんとなく似たクラスの人間と固まって歩いているだけだ。
テレポーターからまもなく、視界に見える現在地の表示が龍の口へと変わる。
どこか遠足気分なのか、ガヤガヤと歩いていく一団の先頭を、その一団とはうってかわって神妙な面持ちで歩くサムライ"ゴロー"。
そのゴローの目の前に、景色から突然沸いて出たように一人の人物が姿を現す。
「む…!」
思わず腰の刀に手をかけたゴローだったが、その姿が人間であることに気付く。
「何者か!」
ゴローの声に、周りの人間も瞬時に臨戦態勢を取った。
この辺りは、訓練されていないといっても、有名プレイヤー達が声をかけるほどの猛者であるのが窺える。
一瞬のうちにゴローに並び、各々が自分の武器に手をかけていた。
「私は、アサシンメイドの弟子。とある人物に頼まれた折、龍の口近辺を隠形の技にて偵察して参った。」
「アサシンメイド…?」
ゴローがよくよくみると、アサシンマスクで顔を隠しているが、服のところどころにはフリルのついた服を着て、さらにエプロンドレスを装着している。
けれど、その持つ気配はまさにアサシンだ。
「報告、龍の口のモンスターの数、わずか。以降確保予定ルートの偵察に戻る。」
アサシンメイドの弟子と名乗った人物は、そうとだけいうと、また景色に同化する様にその姿を消した。
「ふむ…」
突然現れた事も、メイドのようなアサシンのようなよくわからないことも、とりあえず置いておいて、信頼に値するかを考えるゴロー。
周りの人間はアサインメイドという言葉とその奇妙な装束、急に現れて急に消えたその一瞬の出来事にちょっとだけ唖然としていた。
「隠形術の高さが窺える完璧な隠形だ。」
「いや、つーかアサシンメイドってなんだよ。」
「アサシンでメイドなんだろ? …よくわかんねーけど」
考え込むゴローをよそに周りはまたガヤガヤと騒ぎ始める。
今はアサシンメイドの話で持ちきりのようだが。
「酔いどれの、どう思う? 」
「そうだなぁ、信じられると思うし、今うそつく理由もないと思う」
「で、あるな」
片目を瞑り、顎に指を当ててゴローは一瞬思案し、まずはその情報の真偽も含めて行って見ればわかるだろう、と前進を再開した。
果たして龍の口についた一団は、その情報が正しい事を確認した。
ゲーム時と比べても、モンスターの数が少ない。
やはり背骨の入り口付近に集まっているからであろうか?
僅かにそこにいたモンスター達を瞬く間に殲滅した一団は、次の指示を待つために、龍の口、入り口付近で一度休憩を取ることとなった。
そこで、プレイヤー達は驚きの事態に遭遇する。
ゲームでは当然のように行われていた敵モンスター討伐時のドロップ&ルート。
異変以降、ドロップも、当然ルートも自動的に処理されたりはせずに、ただしたいが横たわるだけだったのだが、今回もまた殲滅後のモンスターの遺体はそのままに放置された。
唯一、とれるのはそのモンスターの肉くらいなものだが、処理手順がわからなければ、十分な量の肉がとれるわけではない。
ところが、放置されたモンスターの遺体に近づく一団があった。
プレイヤー達に混じってついてきたNPC達の一団である。
彼らはモンスターの遺体を確認すると、その皮を剥ぎ、肉を切り取り、さらに腹を切り裂いて胃袋の中身を取り出し始めた。
それは淡々と行われている作業ではあったが、さすがにグロテスクな部分も多く、目を背けるものも多かった。
けれど、これでドロップ&ルートの謎がとけた。
胃袋から出てきたのは貴金属や宝石などもあって、それをみていたプレイヤーたちも
「なるほど」
と手を叩き、モンスターを解体し始めた。
あるものは適当に、あるものはNPCに教えを請うて。
ここに解体、とか剥ぎ取りとか呼ばれるゲーム外のスキルが誕生する。
調査隊の面子各々がグループを作り解体を始めたり、取れた肉で料理を始めたり、一団は活気付き始めていた。
その様子を眺めていたゴローや榊の前に、再びあの"アサシンメイド"が姿を現す。
「偵察隊ルートに敵あり。その数、決して多くはないが、崖の上までは確認できず。」
そういい残してまた消え去ろうとするアサシンメイド。
「助かる。おぬしの名前を聞いておきたいのだが。」
「いずれ。」
ゴローがそう言うも、アサシンメイドの姿はもう消えていて、その一言だけが宙に取り残されたようにして聞こえた。
それから、本隊の一部と偵察隊により、偵察ルートの確保が行われた。
滞りなくルートの確保は進み、偵察隊の前には断崖絶壁がそそりたっていた。
ところどころに足場になりそうな僅かなくぼみが見えるが、常人では到底登れないような絶壁である。
「よーし、偵察隊出発だ!」
榊の号令で、偵察隊の面々は宙高く飛び上がり、絶壁に垂直に着地するとそのまま物凄いスピードで崖を上り始めた。
いや、崖を走り始めたという方がふさわしいかもしれない。
ルート確保のために偵察隊と共にやってきていた面々はその異常な光景にしばらく唖然として断崖絶壁を見上げるのであった。
一方、テンテンはジオとゼルを伴って、調査隊とは真逆のルートを進んでいた。
調査隊は龍の口から東方面へと進んだが、テンテンたちは西へ。
こちらもモンスターの数は少なく、また強いモンスターもいないので三人でも十分に対処可能だった。
やがて偵察隊が断崖絶壁を登り始めた頃と時を同じくして、三人もまた西の断崖絶壁に到着していた。
"龍の骸"は上空から見ると巨大な卵のような形をしていて、卵のお尻の方が龍の口と呼ばれる入り口で、そこから小高い山が左右に伸びている。
そこから中央に向けて一度山が伸びて、そこが"龍の背骨"の入り口になっている。
さらに奥に進むと、卵の天辺を覆うように山が囲まれていて、そこが"龍のはらわた"になっている。
東の方が山が低く、内功が少なくても容易に登れる。
西は高めの山が多く、足場も少ないから内攻によっては途中で墜落してしまう可能性がある。
けれど、それは"龍の口"方面から登った場合だ。
何故偵察隊の帰還ルートの確保を任されているテンテンが西の絶壁に来たのか。それには勿論理由がある。
テンテンが偵察隊に提案したルートは龍の口の東から背骨に侵入し、背骨を一直線に横切って背骨西の高台へと滑空してたどり着けるルートになる。
"龍の背骨"から"龍の口"へと抜ける西のルートは、実は険しくなく、滑空だけで降りてこられるルートなのだ。
口から背骨へ抜けるのには相当の内功が必要になるが、その逆はそうでもない。
むしろ背骨を西へと進めば、西の山も楽に登る事ができるようになっていた。
まして、軽功を使えるならもっと楽になる。
だからテンテンはこの西のルートを帰還ルートとして提案した、というわけだ。
「じゃあ、ちょいっといってくるよー」
軽く準備運動をして、片手をあげるテンテン。
「おう、気をつけてね」
「きぃつけてなー」
ジオとゼルは何かあったときのためにここに残り、ゼルはいざという時の回復を、ジオは連絡役となる。
二人はテンテンと同様に片手をあげて彼女を見送る。
東の絶壁で偵察隊がそうしたように、テンテンもまた宙高く飛び上がり、そのまま崖を疾走していった。
とあるアサシンメイドに深く感謝を。




