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プロローグ1~中途半端な魔法戦士~

 それが実際に自分の身におきてしまうと、フィクションだと言われている良く知る物語が、彼や彼女らの実体験によるものなのではないかと思えてしまう。

 それほどまでに衝撃的だった。

 さらに驚いたのは、「中途半端」とか「ネタ」とか言われてきた自分がそこから大きく変わっていった事。

 世界が大きく変化を起こした時、自分の中の小さな変化がやがて大いなるうねりを生み出す事になるとは思いもしなかったのだ。

 中途半端で何が悪いのか。中途半端だったからこそできたのだ。


 中途半端だからこそ成し遂げた彼の偉業の物語は、ここから始まった。


――――――――――――――――――――――――――


 とある機器開発により、第3次ゲームブームが訪れる。

 そのきっかけになったヘッドモニター型コンピューター。

 初期のそれは装着すると、目の前のモニターにおなじみのモニター画面が映し出され、取り付けられた端末により入出力できるだけのものであったが、開発が進むにつれて、目線と同期したり、実際の空間を再現するなどして、全てを仮想空間において作業が可能になっていった。


 その最中起こったのが先述の第三次ゲームブーム。

 仮想空間を十分に生かしてゲームを再現し、アクションやRPGなど数多くのゲームが生まれた。

その中でもオンラインでありながら様々な要素を取り入れたRPGが爆発的なヒットを記録し、各ゲーム会社はこぞってこのオンラインRPG、通称VRMMORPGと呼ばれるゲームの開発に参入することになる。


 その中で生まれたゲームの一つに


「ワールズオブワーズファンタジー(Worlds of words Fantasy)」


というゲームがあった。


「広大なマップに自由度の高い育成方法、レベルアップもあっという間です」


という触れ込みでサービスが開始されたゲームで、可愛らしいイラストや種類も豊富なアバターを駆使してどうにか業界で生き残るためのユーザー数を確保することができたものの、その実はあまり芳しくはなかった。


 通称WWFとよばれるゲームの、実際のゲームシステムはスキル鍛錬制と呼ばれる、何度もスキルを使うことによってスキルレベルを上げていく制度で、一応自由度を意識してか一つのスキルについて上限はないのだが、ある程度のレベルに達するとそれ以上はステータスへのボーナスへとなっていく。


 売り文句であるレベルというのはこのスキルレベルを指している。

 とはいえ、ある程度のレベルまであがるとそこから先は上がり難くなってはいくのだが。


 例をあげると、剣スキルというものがあるが、剣スキルをあげていくと、スキルレベル200でソードマスターといった称号をもらうことが出来、その称号をもらうと事実上のレベルとしては上限になり、それ以降は剣に関係の深いステータスへとポイントが加算されていく。

だが、とても微々たるものなので、事実上マスター称号をもらうとそれ以上あげるという事はなくなってしまうのが普通だった。


 スキル数は非常に豊富で、好みのスキルを育てることができる

 その育てたスキルの組み合わせとレベルによって特定のクラスが自動的付与されるというシステムがある。それはスキル同士の親和性を持ったクラスである場合もあるし、そうでない場合もある。


 だが、ここで問題になるのはスキルレベルの上限ではなく、組み合わせることの出来るスキルの総数に制限があることであった。

 正確に言えば、スキルレベルの合計に制限が掛かっている。

 つまり一つのスキルに上限がない代わりに、スキルレベルの合計に制限がかかっているから事実上自由度が高いとはいえなくなってしまう。

 これが一つの問題点だった。

 逆にこの制限の中で組み合わせることのできるスキルを探し、クラスを見つけるという楽しみ方もあるにはあったが、いかんせん玄人好みすぎて一般にはあまり受けなかった。


 もう一つ芳しくなかった問題点として、広大なマップに種類豊富なアバターによりサーバーへの負荷が運営会社の予想よりも大きくなってしまい、サービス開始当初から接続が切れやすかったり、つながらなかったりして登録ユーザーの不況を買ったこともあとあとまで響いていく。


 結果的に、スキル総数上限の緩和と、サーバーとプログラムの軽量化が済む頃には、接続人数はめっきりと減ってしまっているのであった。



 坂道雄治、29歳会社員。

 並みの学力で並みの大学まで卒業し、並みの体力をもった部類のゲーム好きな彼は、けれど人とこだわりが違うところがあって、たまたまβテストから始めたWWFにどっぷりと浸かっていた。

少ない、とはいえ一応四桁のユーザーが同時ログインするそのゲーム内において、彼は所謂有名プレイヤー、などではなかった。

その理由のひとつが、彼が組み合わせたスキルによって得られるクラスが「魔法戦士」であったからだ。


 スキルの組み合わせが肝となるこのゲームにおいて、何かに特化したほうが純粋に戦闘力や生産能力の恩恵が高い。

 戦士であれば一種類の武器と共に親和性の高い格闘とか盾スキルなどを選ぶし、魔法職であれば戦闘系魔法や補助魔法、MPが回復しやすくなったりMP最大値をあげる、また魔力を底上げする事のできる自然系のスキルと組み合わせる。

 生産系であれば、精錬と鍛冶、農業と木工など所謂テンプレートが存在していて、自由度の高さが打ち消されているのがここでも見られる。


 しかし、彼、雄治の選んだスキルは魔法と戦士の相反する組み合わせ。

 それを初期からやっている。

 どうしても中途半端になってしまうスキル構成から、モンスター狩に行くにも何をするにも中途半端すぎて、高難度の狩場などへは同行を拒否される事も多かった。

 スキル上限の緩和により、ちらほらとそういった中途半端系ネタ職といわれる人も出現していたのだが、やはりどれだけあげても中途半端で使えないという評価から、ネタの域を出ずに居た。

 別にそれを気にするわけではないが、それ故に最古参でありながらまったく無名だったのである。


 雄治の作ったアバターは青年剣士風で、知的な顔に、ぼさぼさ頭、身長は少し高めで細マッチョ系。課金アイテムなんかもふんだんに取り入れ、とりわけ学者風の服を好んで装備していた。

 名前は「ジオ」

 単純に自分の名前を逆転させただけであるが。

 戦闘となれば、真紅の血のような色の鎧に、鎌をメインとして使う、死神をイメージした装備に換装する。

 使うメインスキルは死を司る魔法に、剣技。

 それをもって死の魔剣士、と自分で呼称していた。


 ジオのスキル構成はメインを剣――鎌は剣扱いと分類されている――と魔法、魔法は特に死魔法というスキルを上げている。死の魔剣士を名乗るのだから当たり前だ。

 そのスキルレベルは既に200を越え今や300に近い。

 その他に、死神のイメージに合うようなスキルをいくつかとっている。

 メインに比べれば低めだが、一時的にモンスターを操るスキル、体の一部をモンスター化させて攻撃するスキル、そのほかは身体強化用の基本スキルだ。


 このゲームのステータスはスキルによって数値が決まる。

たとえば筋力スキルを上げれば攻撃力や防御力の数値があがる。同様に精神力や信仰などをあげればMPや魔力の数値が上がる。

 基本スキルもまたメインスキルと同様に戦士ならば筋力や生命力などを特化したほうが強くなるし、魔法職を目指すなら魔力や精神力だ。

 だが、ジオはその両方を取っているから、基本ステータスもやっぱり中途半端だ。


 かつてジオも別枠でキャラを作り、テンプレートと呼ばれる特化型の職を作った事もあったが、結局窮屈さを感じてやめてしまった。


「なー、ジオよーい」


 今日も今日とて仕事が終わり、家に買えると早速WWFにログインする。ログインするなり声を掛けてきた者があった。


「ああ、モリモリさんじゃないですか」

「そのあだ名やめて…」


 がっくり、といったエモーションを発動するその人は、このゲームを始めたときからの知り合いであるモリーティアという人で、耳長族の女性である。

 主に生産系のスキルを取っていて、得意なのは細工・装飾系で低レベルながら鍛冶も出来る。低レベル、とはいえ、彼女は基本ステータスよりも技術スキルに多くレベルをあてているため、平均よりもそのレベルは高い。さらに様々な生産スキルをとっているため親和性によりものづくりの成功率が高い。

 そのため、彼女の製作物を買いに来る顧客は結構多い。


 彼女のアバターもよく練られていて、顔の造詣や体型など中の人の理想らしい。

 亜麻色の長髪をポニーテールでまとめてあり、顔は中性的でギリギリ少女のあどけなさを残すくらい、体型は各部控えめ、手足は細く背も大きくなく小さくなくと設定してある。主にクラス専用の服を着ているためおしゃれなのかどうかはわからない。けれど、自作の装飾品の中でも特に可愛げなものをチョイスして装備している事からそれなりに、ではあるのかもしれない。


 それはともかく、彼女には一つ問題点があった。

基本ステータスで上げているものは器用さと幸運だけ。その他を犠牲にして生産スキルに振っているため、生命力が低い。異常に低い。

段差に躓いて転んでダメージを受けるだけで瀕死になりかねない。

一番弱いとされるモンスター相手にしても勝率は五分五分。

彼女にとって、モンスター狩りは愚か採集すら死と隣り合わせとなる。

なので、素材集めは主に委託となる。その委託先が――


「頼んでいい?」

「入ってそうそうですか……」


やれやれ、とエモーションをさせる。

 でも悪い気はしない。上級狩場には中々いけないがこういう、人の手伝いならば、と息巻くジオ。

 メニュー画面を開き、フレンドリストを開く。

 ギルドメニューもあるが、今は使っていない。というかギルドに入っていない。

 フレンドリストには古くからの知り合いから最近知り合った人まで三十人程度の名前が並んでいて、オンラインの人間は白く、オフラインの人間が暗い灰色になっている。


(今日もいない、か……)


 フレンドリストの半数は白く浮かび上がっているが、ジオの注目した名前は暗い灰色。

 そこには「鏡花」とある。

 名前の横には最終ログイン日時が示してあり、そこには約二年前の日付が記してあった。一瞥してよく知っている名前を選びコールする。

 電話のようなコール音がしばらく鳴って、ふいにその音が途切れる。コールが繋がった合図だ。


「あ、テンテンさん、今時間だいじょぶっすか?」

「おー、ジオくんじゃん。いいよー」


 ジオがフレンドリストから選んだのはテンテンという名前の女性アバターのユーザー。


 テンテンは主に徒手空拳スキルを専門に上げているユーザー。

 どちらかというと特化に近いが、専用の武器がないので火力において武器を使うクラスには及ばないが、それにくらべると圧倒的に手数は多い。

 イメージは中国拳法ということで、名前もアバターもそのイメージでまとめてある。

 瞳の大きな幼げな顔に小柄な体格、深い青色の髪を短いツインテールにしている。


「じゃあ、龍の口に集合で」

「おっけー」


 素材集めの誘いを快諾したテンテン。

龍の口というのは中級から上級程度の狩場で、そこそこの素材になるモンスターが生息している。

ジオも適当に回復アイテムなどをチョイスして準備する。


「んじゃ、いってきまー」

「ああ、頼んだよー」

「あいよー」


"手を振る"エモーションをしてジオは街の中心にあるテレポーターへと向けて歩き出した。

読んで頂き、ありがとうございます。


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