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奏 - 歌えない小鳥たち -  作者: はちみつ少年
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一、入学式




四月八日────暖かな風が木々を揺らし、桃色の花びらが舞うこの季節。

県で最も大きい校舎として有名な、県立坂野原高等学校。本日は入学式である。

まだ着慣れない、一回り大きな制服をぎこちなく着ている生徒たち約三百人が、クラス発表の掲示を今か今かと待ち構えていた。玄関にある下駄箱の前に、人の群れが広がる。

ある者は中学時代からの友人と、ある者は両親と発表を待つ中、1人、蚊帳の外のように木にもたれかかる少女──立花(りっかつばさ)翼。彼女と同じ中学の者はおらず、両親も用事のため共に来校していなかった。

白いヘッドフォンを耳に当て、昭和に流行っていそうな黒縁の眼鏡をかけている。そして腰まである長いみつあみ。見るからに、誰も関わりたくなさそうな容姿だった。彼女の周りには、人が全くいない。

九時を知らせるチャイムが鳴り、グレーのスーツ姿で眼鏡をかけた男性が玄関から現れた。ついにクラス発表だ。

女子の叫ぶ声が聞こえた。同じクラスだ、やった、仲良くしようね、一緒のクラスで嬉しい──実にくだらない、というように立花は鼻で笑った。

人が少なくなってきた所で立花は木から離れ、掲示板へ向かった。目を上下左右に動かし、名前を探す。ら行から始まる名前は多くはなく、見つけるは簡単であった。二組四十番、立花翼。小・中学校では一度もならなかった二組に、少し気分が上がった。



入学式で最も長いのは、おそらく学校長の挨拶。永遠とも呼べるほどに長く感じる式辞に、校長のゆっくりで小さい声。眠りを誘われる人は多い。さらに、式はエアコンの効いた、暖かい体育館で行われる。船を漕ぐ生徒が何人か見られた。

そして、それは立花も例外ではなかった。自然と目が閉じ、頭が飛んでいきそうな感覚になった。

式の後、居眠りしていた生徒が何人か呼び出されていたが、立花は呼ばれなかった。黒縁のお陰で、目を閉じている事に気付かれないのが幸いだった。

長い式典の後は、クラスに分かれて挨拶。一年生の教室は四階。皆ぞろぞろと階段を上っていた。

この学校は一クラス四十人、七クラスある。学校が広いこともあり、廊下はなかなか長く感じた。

二組のプレートがかけられた教室に入り、席に付く。担任らしき人がすぐに入ってきた。

新学期すぐのHRの時間が、立花は一番嫌いだった。クラスみんなと仲良くなりたいです、いい一年にしましょうね──台本のようなお決まりのセリフを言うのだ。くだらない、と息を吐いた。

席は一番後ろだった、出席番号的に当たり前だが。

担任は小柄で若い女性だった。黒板に、小さい体を最大限に動かし名前を書いていた。

「このクラスの担任の、戸田美枝子(とだみえこ)です。楽しく仲良く一年を過ごしましょう」

予想通りの言葉だ。立花は興味なさげに、窓の外に目をやった。空は驚くほど青かった。

不意に彼女の机が揺れた。なんだと横を向くと、やけに笑顔でこちらを見る女の子。少し戸惑った。

「ねぇねぇ、外見てどうしたの。ていうか、髪の毛めっちゃ長いね。てかしんどそうね。あ、式が長くて疲れたとか?」

立花の一回り大きい体のわりに、頭から出していそうな高い声。少々可愛らしい顔をしているが、マッチしなさ過ぎにも程があるだろう、と思った。しかもなんだ、その馴れ馴れしい顔は、喋り方は。女子を嫌う立花をイラつかせるには、十分の素質だった。

だか、入学早々問題を起こすわけにもいかない。

「いや、担任の話つまんないから」

素っ気なく簡潔に、関わりたくない思いを含ませたつもりでいた。だが、相手には全く伝わらなかった。

「そんな理由なんや!! 面白いな自分っ」

面白い要素が一体どこにあったのか。関わりたくないオーラを読み取ってくれないのか──なんて面倒な女だ。とりあえず無視を決め込む。

しかし、ねぇねぇだの喋ろうよだの、しつこく話しかけてきたため、仕方なく話し相手になってあげた。

そうしたらその子は調子に乗りだして、聞いてもいない名前を教えてくれた。

松居佳菜愛(まついかなえ)、かなって呼んでね───語尾にハートが見えて吐き気がした。





高校生活初日、立花は早くもここで生きていける自信をなくした。


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