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5.私、魔法の特訓始めました




「魔法を使う上でまず必要なのは魔力のコントロールです。本来はここに魔力を各属性に変換するための理論も必要になってきますが、それは詠唱によって省略できます」


まずは魔力の存在を認識しましょう。


そう言ったマリーナが取り出したのは親指ほどのサイズのガラス球だ。吸魔石という名前らしい。この石は触れたモノの魔力を吸い出し、石の中に蓄積する特徴がある。そのため普段は自分の魔力を吸い出し貯蓄することで、魔力切れを起こしたときの糧にするらしい。…そんなものがあったら人の魔力を吸いだして自分のモノにするような輩がでてくるのではないだろうか。若干の懸念を感じてそう言えば、他人の魔力を自分の中へ吸収することはできないから問題ないという答えが返ってきた。



「アリシア様、利き手はどちらですか?」


「…ひだりて」


「では、左手を前へ。この石で魔力を吸い出すことで、魔力の存在を感覚で認知していただきます。…多少不快に思われるかもしれませんが、我慢してくださいね」



手のひらを上に向けて手を出すと、マリーナは布で摘んだ吸魔石を私の手のひらへと乗せた。――…瞬間、ゾワリと全身の血の気が引いたような嫌な感覚が走る。



「っ…ひゃぁ!」


「落してはいけませんっ、それが魔力が吸い取られる感覚です。集中してください!」


あまり感じたことのない気持ち悪さに吸魔石を落しそうになったけれど、叱責を飛ばしたマリーナのお陰で落下は免れた。ぎゅう、と落さないように意識をしっかり持って吸魔石を強く握りこむ。ゾクリ、ゾクゾク…、波のように気持ち悪い感覚が寄せては返し、そして収まっていく。段々と小さくなっていく不快感を追う様に意識を集中させる。なんとなく、掴めた感覚。逃げていく不快感を掴んで、引っ張る。再度強いゾクゾクとした感覚が、今度は手のひらから波紋のように広がる。ゾクゾクとした感覚は肌を伝い、全身を流れるように行き渡り、そしてある地点で円を描き、染み渡る。


ふっ、と息を吐いて“何か”を引っ張っていた力を抜くと、再度何かを吸い取るように全身からゾクリとした感覚が手のひらへと集まっていく。

きっとこれが魔力なのだろう。さっきはなぜか魔力を引き込み直すことができたけれど、自然に力を抜けば吸魔石の力によって全身の魔力が手のひらへと集められる。ゾクゾクとした感覚がなくなるまでじっと待つ。そして完全に落ち着いたところで握っていた手のひらを開くと、透明だったガラス球は緑色に染まっていた。…風属性の色だ。



「…如何でしたか?」


「きもちわるかったわ…、でも、なにかを、つかめたきがする」



この感覚を忘れないうちに魔法を試したい。


じっとマリーナを見つめれば、彼女は私の意思を汲み取ったように頷く。彼女は私の前にある一冊の本を置いた。タイトルは『はじめてのまほう』…うん、分かり易いのはいいことだと思うよ。馬鹿にされてるとか思ってないから大丈夫。そうだよね、私忘れてたけど肉体年齢はまだ2歳くらいなんだよね。

『はじめてのまほう』の表紙を捲る。1ページ目には、吸魔石の記述があった。どうやらこの方法で魔力を感じ取るのはこの世界のスタンダードらしい。次のページには、各属性の、多分初級魔法だと思われる詠唱が書かれていた。そこまで私が目を通したことを確認したマリーナは手のひらを前に突き出し、微笑む。




「続いてご詠唱ください『大気を巡る風の精霊よ 我が声に応えて集え “ウィンド”』」


「『たいきをめぐるかぜのせいれいよ わがこえにこたえてつどえ “うぃんど”』」



シュウンッと全身から一瞬だけ魔力がかける感覚。手のひらに熱が集まり、魔方陣が浮かぶ。魔方陣が消えると同時に発生した風は、ぶわりと髪の毛を浮かせた。


初めての魔法は無事成功した。この手のひらに魔方陣が浮かび風が起きる。信じがたい事象が、誤魔化しようがないほど明確に訪れた。これは…、なんて、なんて快感だろうか。マリーナの魔法を始めて見た時と同じような、でもそれ以上の衝撃に言葉が詰まる。本当に今、私は魔法を使ったのか…?信じられない感覚に手のひらを見つめていると、その手をマリーナに優しく握られた。



「如何でしたか?」



先ほどと同じ言葉。でも、さっきよりも優しい声で紡がれる。まるで私の気持ちが分かっているのだと言わんばかりに。


私はマリーナの手を握り返して、微笑んだ。



「さいこうだわ」



私には魔法の才能は人並みにしかないらしい。でも、それがなんだと言うのだろう。転生前だって、私はもとから有象無象に埋もれるような凡人だった。だからこそ知ってるじゃないか。そこそこの器用さとそこそこの努力があれば、それなりに満足できる生活は歩めるのだと。そんなことを言えるのは私が恵まれた生き方をしているからかもしれないし、世の中には努力することすら奪われる人がいることも知っているけれど。でもこれも、凡人としての経験論だ。



「魔法は使うほど熟練度が上がり、使用できる魔法の種類が増えたり発動速度が速くなります。また威力も増大するでしょう。魔力を属性に変換する理論を理解すれば詠唱の省略もできます。アリシア様の努力次第でできることは大きく変わりますよ」


「…どりょくしだい、ね。わたしはこころがよわいから、すぐにらくをしてしまうわ。まりーな、わたしがなまけないよう、てだすけしてちょうだい」


「勿論です。アリシア様が望むなら私はどんなことでも承りましょう」



美しい赤い髪をさらりと肩に流したマリーナが、胸に手を添えて私の身長よりも頭が下にくるように深く頭を下げた。頭を下げる前、向けられた喜悦の感情。私に向けられるにはあまりに不似合いな期待に苦笑を浮かべながら、ありがとう、と彼女をそっと抱きしめる。マリーナが、私の腕の中でピクリと震える。私は彼女を宥めるように、そっと頭を撫でた。




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