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4.残念ながら私は凡人です




「では、僭越ながら私から魔法についてご説明いたします」



魔測石というものを使う前にマリーナによる即席魔法講座が開かれた。


まず、この世界の魔法には火、水、風、土、光、闇の6種類の属性が存在する。

各属性には他の属性との優劣があり、火は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は火に強い。光と闇は相互に打ち消しあう性質をもっている。

なんとなくこの辺りはRPGなどをやっている人間ならすぐに理解できる内容だ。


魔法には使用の難易度から初級・中級・上級・極級の4種類があり、極級まで極められる者はほんの一部しかいない。

またそれぞれの属性には上位互換属性がある。火は溶岩、水は氷結、風は稲妻、土は重力、光は神聖、闇は邪悪。

基礎魔法の属性を上級まで使いこなすようになると上位互換の魔法も使用できるようになり、その効果は基礎とは比べ物にならないほど強大だという。



「お分かりいただけましたか?」


「うん、だいじょうぶ」


「あぁっ、やはりアリシア様は賢いお方ですね。そんなアリシア様のお世話を任される…、私はなんて光栄なのでしょう」


「…うん、だいじょうぶ。だいじょうぶだから、おちついて、まりーな」



マリーナの魔法講座は図も交えて説明してくれるので分かり易かった。分かる、と言う度に感極まるのは面倒だったけれど。

淡々とした言葉で宥めて、今度は魔法適正についての説明をしてもらえるように促した。美人なのにどこか残念なマリーナ。そんな彼女が大好きなんだけれど、やっぱり面倒ごとはなるべく回避したいというのが本音だ。今だけでいい、まともになってくれ。


私の願いが届いたのか、気を取り直したマリーナは容姿に見合った落ち着いた物腰で魔法適正についての説明を始めた。



「魔力というのはすべての生物が持っていますが、魔力総量については個人差があります。魔法を使う上で魔力は必要不可欠であり、この総量が少ない場合、魔力を大量に消費する魔法は使用できません。また魔法適正は6属性の内、光と闇の属性は適正が全くない者もいます。適正が全くない属性の魔法は使用することができません。しかし光と闇以外の属性については誰もが大なり小なり適正を持っているため大抵の人が使うことができます。ただその適正の大きさによって魔法を1回使用するごとに必要な魔力や効果の大小が変わってくるため、大半は自分の適性に合った魔法を極める者が多いです」


「…へぇ、そうなの」



つまり、魔法適正とは魔法を扱う上で必要な各属性への適正のことをいい、適正の有無によって次の違いが発生するらしい。


①魔法使用時の消費魔力

②魔法の効果の大小

③使用できる魔法の種類


適正が全くない属性の魔法は使えないが、光と闇以外は必ず適正は持っているようだ。つまり火、水、風、土の魔法は使える。…なるほどワクワクしてきた。

漫画やゲームの世界にしかなかった魔法を、使うことができる。幼い頃は魔法使いになりたいなんて言えば絵空事だと笑われたが、ここでは魔法が使えることが常識なんだ。




「じゃあ、まほうをつかううえで、てきせいをしることは、じゅうようなのね」


「えぇ、そうです。自身の適正を知らずに魔法を極めることは難しいでしょう。…そこで、魔法適正を調べるために使用するのがこちらの魔測石です」



マリーナが取り出した高級そうな茶色の箱。その箱の中には、5つの水晶が並んでいる。それぞれの水晶の中心には色のついた小さな玉が入っていた。

マリーナはその中から、中央に青色の玉が入っている水晶を手にとる。すると、途端に水晶全体が真っ青に染まった。



「魔測石は属性に合わせて用意されています。適正のある属性の魔測石を手にするとこのように色づき、その発色の強さで適正を判断します」


「…すごい」


マリーナの手の中の魔測石は、元が透明だったとは思えないほど鮮やかに色づいている。なんて分かり易い判断方法なのだろうか。いや、適正がないときは発色が薄いと言うがその程度はよく分からない。数値化されていないこれは、分かり易いけど的確ではないのかもしれない。私はマリーナに促されるまま、真っ青な魔測石を彼女から受け取る。


マリーナが持っていたときは真っ青だった魔測石は、私が手にした途端ほぼ透明に近い色に戻った。完璧な透明ではなく薄い膜のような青さは見えるが、先ほどまでの鮮やかな色を見ていると、どれだけ差があるのかは一目瞭然だ。私ですら、そう思ったんだ。マリーナなんてその意味をすぐに理解しただろう。彼女は言葉を捜すように眉根を寄せる。初めて見る彼女のマイナスな表情に申し訳なくなって思わず目を伏せる。



「…これは」


「わたしに、みずのてきせいはないようね」


「そう、ですね。他の属性も確認してみましょう」


気を取り直すように、他の石も手に取る。火は水と同じく適正がほぼなかった。水と同じように、赤い膜ができた程度。

土は火や水よりも黄色に濃く色づいたけれど、魔測石を覗くと、石越しに景色が見える程度には透けている。火も水も土もそう使えない。期待していただけに落胆も大きく、思わず諦めたような深い溜め息が出た。



「…?これは、いいの?」


「…っ、えぇ。これなら適正は十分です。努力次第では上級魔法も扱えるようになるでしょう」



諦め混じりに手に取ったのは風属性の魔測石。鮮やか、とは言えないけれど透けないほど濃く緑に染まった。

今までの中では一番濃くなったけれど、マリーナとはちょっと違う気がして問いかければ、色の鮮やかさは魔法の習得率も関係するようだ。魔法の練習をすればするほど鮮やかになると言われて、安堵の笑みが浮かぶ。マリーナもどうやら同じようで、先ほどよりも表情が柔らかくなった。


最後に取ったのは光属性の魔測石。こちらは驚いたことに微動だにしなかった。

どうやら私には光属性の魔法の適正は全くないらしい。肩を落とした私に、そういう人も多いから気にするなとマリーナの慰めの言葉が掛かる。



(いや、別に物語のヒロインとかいうキャラでもないし、光魔法とか使いこなせないだろうなって思ってはいたけど、全く使えないって…。)



ゲームとかでは花形とも言っていい火属性がほぼ使えず、生活の上で役立ちそうな水属性も同じく使えず。土属性も上級は無理だろうと判断された。風属性はまぁそれなりに使えるみたいだけど、それも特別才能が抜きん出ているわけでもなく、そして特別感のある光魔法は全く使えない。


あまりにあまりな結果に自嘲してしまったのは仕方のないことだと思う。



「やみまほうの、まそくせきは?」


「申し訳ありません、私は持ち合わせていないのです。魔測石は、高純度の水晶にその属性の魔力を注ぎ込むことで生成されます。闇属性の魔法は人を害する特性からこの世界では忌むべき属性とされており、闇属性の適正持ちは見つけ次第、王族に捕らえられ処分されています。そのため、闇の魔測石は王族以外は持っていないんです」


「そう。…それは、かなしいことね」



生まれながらに持ちえた属性により、捕らえられ処分される。…理不尽だ。でも、理不尽が罷り通るからこそ、世界というのは滞りなく回り続ける。

しょうがないこと。そう思えるのは、私が当事者ではないからだろう。哀れむ気持ちを持つことはできても、所詮は他人事だと切り捨てられるのが、人というものだ。



「まりーな」


「はい」


「あしたから、かぜまほうを、とっくんするわ」



付き合ってくれるかしら?と首を傾げながら問いかければ、くはっ!と謎の叫び声を上げたマリーナは思わず逃げ出したくなるほど輝いた笑みで手取り足取り教えると言ってくれた。…なんだか不穏な副音声が聞こえたのは私の気のせいだと思いたい。



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