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八
「残念だったわね、ハクビさん……。悲しいことでしょうけど、もう金子は見つからないと思うわ」
「ま、まあ、大した額は入ってなかったし…………あ」
しょうがないさ。そう続けようとしたが、ハクビはあることに気が付いた。
(確か、あの金子入れには……)
「……うわぁ。まずいよね、これきっと」
「え?」
ハクビは苦笑した。
(あれは、駄目なんだろうな、さすがに)
他の人に渡してはならない物だろう。何と、大変なことになった。
「ごめんよ、娘さん。私は彼を探さなくちゃならないようだよ」
「え? ちょっと、ハクビさん?」
ハクビは、どうしたのかと戸惑う娘に苦笑を向けると、説明もそこそこに彼女を置き去りにし走り出した。
(何でこんなことになるかなぁ)
追うは勿論先ほどの少年。
こうして、ハクビの追跡劇は始まるのだった。
この出逢いがやがて国をも巻き込む大事へと繋がるとは、この時点では誰が知り得たことだろう。しかし、物語の歯車は人々の意に反して動き出す。長き物語のほんの片隅、断片の世界で彼らは出逢った。そして、彼らの運命は加速する――