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七
(い、今のは……?)
何が起きたのかすぐに処理できず目をぱちくり瞬くハクビの横で、今まで黙って事の成り行きを見守っていた茶屋の娘がいち早く我に返り、ハクビを見た。
「ハクビさん! 財布は!?」
「!」
娘に言われてハクビはハッとし、自身の懐を探る。
「…………無い」
そこからは、つい先ほどまで在った金子入れが綺麗さっぱり消えていた。
「やっぱり。あの子、掏摸だったのね……!」
娘が険しい表情を浮かべる。
何という事か。ついさっきまでそのことを話題としていたというのに。
振り返って見てみても、疾うの昔にあの少年の背中は消え去っていた。今から追いかけたとて、この人ごみの中でどちらへ行ったかなど分かる筈もない。
まんまとしてやられたようだった。