7/62
六
どうやらハクビとぶつかったらしい。余程急いで走ってきたのだろう、随分と勢いよく衝突したようで、尻を抑え悶えていた。ハクビからはちょうど死角だったため、走り寄ってくるこの人物に気づかなかったようだ。
「キミ、怪我はない?」
ハクビはその人物に手を差し出す。何はともあれ、親切にするに越したことはない。顔にはにこやかに人当たりの良い笑顔を浮かべていた。
「……じゃ……っさん……」
「ん?」
声からして少年だろう、ぶつかってきた彼が何やら言ったようだが、ハクビは聞き取れなかった。彼の言葉を再度待つ。
その少年はキッと顔を上げると、鋭い眼光でハクビを睨んだ。
「へらへらと笑いやがって、ぼさっとしてんじゃねぇよおっさん!!」
ピシッ。ハクビの笑顔が凍りついた。
「…………へ?」
予想すらしてなかった言葉に、ハクビの動きが一瞬止まる。その隙に、少年は素早く立ち上がった。
「ばーか」
小さく捨て台詞を吐き、彼はハクビの横を通り過ぎそそくさと彼方へ駆けていってしまった。