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五
「え?」
ぼそっと呟かれた言葉。その声に気づいた娘は、しかし聞き取れはしなかったようで首を傾げる。その娘の様子に、誤魔化すようにハクビはにっこり笑った。
「なんでもないよ。……早く、王様の容体が良くなればいいね」
「ええ、そうね。それを切に願っているわ。早く国王陛下の元気なお姿を拝みたいものよ」
「きっと、大丈夫さ」
二人で笑いあう。喧騒冷めやらぬ大通りで、そこだけ和やかな空気が流れていた、そんな時だった。
ドンッ。
「うわっ」
「え?」
横から来た強い衝撃。直後に、すぐ脇からしたドサリという何かが落ちた音。
ハクビは慌ててそちらを見た。
「あ……大丈夫?」
見ると、何やらしりもちをついている少年……だろうか? 手拭いを被り顔は見えないが、ハクビより一回り小柄な人物がそこに居た。