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三十
「帰った?」
クゼがいつもの廃屋に戻ると、そこにあの優男の姿は無かった。クゼの言葉に子供たちが一斉に頷く。
「なんか、『用事がある』って言ってたよ」
「『クゼ兄ぃによろしく』って!」
「明日も来るって言ってた!」
「……あっそう」
今日はいつもより早く帰ったらしい。いつもなら午前中に勝手に来て散々騒いでは、日が暮れるころにどこぞへ帰っていくのだが、今はまだ空が明るかった。……曇天ではあるが。
(なんだよ、人がせっかく持ってきてやったのに)
クゼは密かにため息を吐いた。その時、子供たちがクゼの持っている包みに気が付く。
「クゼ兄ちゃん、それお土産?」
「また持ってきてくれたの!?」
瞬く間に子供たちにわいわいと群がられたクゼは、その包みを子供たちの前に開いて差し出した。
「ひとり一個だ。大事に食えよ」
「うん! ありがとう!」
「握り飯だ!」
「やったぁ! クゼ兄ぃありがと!」
歓喜の渦に呑まれながら、クゼはひとり思考を巡らせていた。
(用事って、あいつ、何してるんだ?)




