二十九
「……寒くなってきたからね、風邪ひかないように気をつけなよ」
「お、おう……。ま、また、よろしく頼むよ」
「あたしゃ金さえ持ってきてくれたら誰にでも飯を売るさ。“また”欲しかったら金を持ってきな」
「お、おう。じゃあな」
たどたどしい喋り方のまま、クゼは引戸を開け外に出て行こうとする。
「……クゼ!」
そんなクゼを、コウは呼び止めた。
「ん? なんだよ?」
未だ赤い顔をして、クゼは少しだけこちらを振り向く。しかしコウと目を合わせようとはしなかった。コウはそんなクゼを見てまた目元を和らげる。だがすぐにその目は悲しげに伏せられた。
「クゼ、あんた……」
コウは何か言おうと口を開き――
「……いや、何でもないよ。早くあの子たちのところに持って行っておやり」
――そのまま、口を閉じた。顔を改め、クゼを急かす言葉を紡ぐ。
「そうか? じゃあな」
クゼは首を傾げながらも、止めていた足をすんなりと再び動かした。クゼとしても、早く雨水に戻りたいことだろう。この包みの中身を、あの子供たちに分け与えるために。
木戸を潜り、敷地の外に出る。そして戸が閉まりクゼが歩き出すと、その背中は見えなくなった。
「……『もうやめな』なんて、そんなのはただの綺麗事、なんだろうね……」
コウの呟きは、今にも降り出しそうなくすんだ色の曇天に吸い込まれ、消えていった。




