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二十一
クゼはそれを眺め、無意識に眉間に皺を寄せた。それを見てハクビが僅かに目を細める。
「……キミは、あの子たちに文字を教えているのかい?」
「……そうだよ」
「あの子たちは、みんな浮遊児?」
「ああ。……オレたちなんかに、字を教えてくれる奴らなんかいねぇからな」
そう答えたところで、クゼははたと気付いた。なぜ自分は、こうも易々と質問に答えてしまっているのか。
(なにやってんだよオレ!)
「と、とにかく! 用がないならとっととどっか行け! もうここには来るな!」
「あ、ちょっと……!」
慌てたようにそう叫ぶと、クゼは足早に彼方へ駆けて行ってしまった。すぐ背中が見えなくなる。廃れた建物の中には、ハクビがポツンと残されていた。