二十
「私、子供は好きなのだけどな」
ハクビが名残惜しそうに、駆けていく子供たちの背中を見つめポツリと零す。
クゼは、子供たちが残していった一冊の書物を拾って、ハクビを見た。溜息を一つ吐いてから口を開く。
「それで? あんた、何しに来たんだ? 印は返しただろうが」
「あぁ、うん。その節はありがとう」
どうやらクゼは、要件は聞いてくれる気らしい。ハクビは密かにホッと息を吐いた。
「二日続けてこんな都の端に来るほど暇なんて、あんた、本当に偽物なんだな。捕まらないように気をつけろよ」
「だから、私は偽物じゃないんだよう」
ハクビは拗ねるように唇を突き出す。それを見てもう一度溜息を零すと、クゼは手元に視線を戻した。ポンポンと書物を軽く叩いて埃を落とす。
「……『龍王國建国記』かい? それ」
ハクビがクゼの手元を見て尋ねた。
「ああ」
クゼの手にある書物。その表紙には、流暢な字で『龍王國建国記』と書かれてあった。
『龍王國建国記』とは、この龍王國の成り立ちが書かれた物語である。国が公式に作成し、数多くの複製が作られ、庶民にも広く普及された神話だ。その内容は、この国の民なら誰でも知っている。