十九
「あんた、何でここに!?」
「嫌だなぁ、昨日、『明日も来て良いかい?』って言ったじゃないか」
クゼに胸倉を掴まれて揺すられているのにニコニコ笑っているハクビ。
「まぁいい。オレはあんたに用は無い。さっさと帰れ!」
「えー? そんなこと言わずに」
子供たちがいる手前、駆け出して逃げることもできない。全く引く気がないハクビを、クゼは必死で追い返そうとする。その足元で、幼い子供たちが目を瞬かせていた。
「クゼ兄ちゃん……この人、だれ?」
やがて、一人の少女がクゼの着物の裾を引っ張った。恐々と、子供たちが一様に気になっている事を尋ねる。それを耳聡く聴き付け、ハクビが目を輝かせた。
「クゼ? キミはクゼって言う名前なのかい?」
棚からぼた餅。思わぬ収穫を得たハクビの顔は溢れんばかりの笑顔だ。対してクゼは、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。
「セン、こいつの事は気にしなくていい。……お前ら、ごめんな。今日の勉強は終いだ。また明日来い」
こちらをジッと眺めていた子供たちに謝罪を述べ、終わりを告げる。戸惑う子供たちを急かす様にクゼが声を上げると、渋々だが皆帰って行った。その場にはハクビとクゼだけが残る。