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一
龍王國が首都、名並種。
その賑わう昼下がり、人で溢れる商店街を、一つの小柄な影が駆け抜けていく。
「掏摸だ!」
「追え! どこ行った!?」
影の背後に、けたたましい怒号が響く。その声に口角を上げつつ、影は暗い路地裏に入った。直後に明るい大通りを強面の男共が掛けていく。慌しい喧騒が遠退くと、影は息を吐きその場に座り込んだ。少し荒くなっていた呼吸を整える。
さて、帰らなければ。手の中にある緋色の巾着をちらりと見て、影はまた立ち上がった。息はもう正常の速度を取り戻している。再び大通りに出ようと足を踏み出した時、路地裏に差し込んでいた大通りの僅かな光が、何者かによって遮られた。
「見つけたぜぇ?」
直後に響いた低い声。見ると、先ほど追ってきていた男共の一人が、この路地の出口を塞いでいた。その背後には、仲間を呼んでいるのだろう、手を大きく振って合図をしているもう一人の男が見える。