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十七
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「クゼ兄ぃ、次はー? これ、なんて書いてあるの?」
幼い声が、朽ち果てた廃屋に響く。クゼと呼ばれた少年は、隣に座っている自身よりも遥かに小さい男子の頭をひと撫でし、彼が見つめている先を覗きこんだ。
「――ああ、これはな、『龍』って読むんだ。この国を守っている神様だ」
「かみさまー?」
「そうだ。この国の中で一番強いんだぜ」
「へぇ!」
キラキラと目を輝かせ再び視線を落とす幼子。その周りには、十人ほどの、これまた幼い少年少女たちが寄り添うように集まり一つの書物を眺めていた。どの子もクゼより歳が下のようだ。皆一生懸命文字を追っている。それを見つめるクゼの目は、とても、温かかった。
昨日、クゼはいつものように“カモ”を探して人で賑わう店屋通りをふらついていた。狙いをつけて、一気に駆け寄り奪う。そうして、今まで生活してきた。昨日だって、上手くいったのだ。掏った金子入れは合計三つ。大成功だった。あの、薄気味悪い男が現れるまでは。