14/62
十三
(なんだよ、それ……)
てっきり掏ったことに対して何か咎められると思っていた少年は、目をぱちくりと瞬かせた。
(しかも、金はあげるとか言っているし)
「あ、あのさ……、あんた、オレが掏ったって事わかってる?」
少年は思わず尋ねてしまった。さすがにまずいかと思ったが、もう口に出した後だった。
「うん、わかっているよ? いやぁ、鮮やかな手口だったね。うっかりしていたよ」
あはははと笑う目の前の男。
(なんなんだよ、この男は!)
少年は顔を盛大に引き攣らせた。どうやら、この男は本当にこの印を取り返しさえすれば満足らしい。
少年は呆れ果て、警戒を解いた。
「ほらよ」
少年はハクビに印を投げ渡す。綺麗な放物線を描いて、印はすっぽりとハクビの手に収まった。
「わぁ、随分とあっさり返してくれるんだね。良いのかい?」
ハクビは不思議そうに目を瞬かせる。少年はため息を吐いた。
「返してもらったのに『良いのかい?』ってなんだよ。金は返さねぇぞ」
「そうか。……ありがとう」
ハクビは満面の笑みを浮かべる。
(掏られたのにお礼なんか言ってんじゃねぇよ)
どれだけ能天気なのか、この男は。