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九
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名並種の南東の外れは、雨水と呼ばれる廃れた一角であった。要はスラム街である。ガラの悪い破落戸や、仕事も家も無くした浮遊民、親のいない浮遊児など、様々な迷える人々が吸い寄せられるように其処に住み着き、更に治安を悪化させている。雨水は都に在って都に非ず、無法地帯と化していた。
その雨水の更に外れにある物陰で、少年はやっと足を止めた。周りを見回し追手が来ていない事を確認すると、廃屋に入り、座り込む。漸くホッと息を吐いた。
「楽勝」
少年はニヤリと笑みを浮かべると、自身の顔を隠していた布を取った。
途端に現れる茶色い髪、赤茶の眼。乱雑に結い上げられた髪はぼさぼさで、薄汚れた衣から覗く肌は所々傷だらけで痛々しい。十五を過ぎたあたりだろうか、未だ少年のような、青年と言うには若すぎる顔立ちの男の子。
その少年は、自身の懐に隠していた巾着を取り出した。その数3つ。いずれも大層膨らんでいる巾着だった。
彼はその中の一つを手に取ると、中身を無造作に引っ繰り返し板張りの床にぶちまけた。軽快な音と共に現れる沢山の銭たち。少年の口端がにぃっと上がる。