アナタの夢の裏舞台! 私たち夢劇団にお任せあれっ!
基本明るいノリで進んでいきます。
肌に合わないと思われた方は、すぐさま別の小説を読み中和して下さい。
――もしかしたら、あなたの見る夢の裏舞台はこんな感じかもしれません
「お願いします。どうしてもあの子に合わせてください」
頭を下げる男。その前に足を組みペラペラと資料をめくるオールバックの厳つい男。簡素な事務所で向かい会って座る二人はお世辞にも良好なんて言えない。
「ん〜〜って言ってもね〜〜このパターンやりにくいのよね〜〜」
私は不穏な空気が漂う二人にお茶を出す。私に許された仕事の一つだ。というか基本雑用しかやらせてもらえない。
「どうぞ」
淹れたての緑茶を出したあとすぐに下がり二人の行く末を見守る。
私のいるこの事務所『夢劇団』。その名のとおり、ここは人間の夢を演じる劇団なのだ。
人間は眠って記憶がない間、この『夢劇団』に訪れる。
人間は見たい夢を伝える。私たちはその夢を演じる役者になりきる。報酬は心の満足度。
ただ、人間は自分勝手なものでここに来た時はとびきり怖い夢を見せてくれと頼んだのに実際見せると「悪夢を見た」「今日は厄日だ」なんて言い出す。
怖いと思ってくれたらそれはそれで嬉しいのだが (私は小道具運んでいただけだけど……)多少は感謝して欲しいなんて……
まあここの記憶自体無くなるのだから仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。
団長がめくっている資料は、今回の依頼内容を簡単に書いた『あらすじ』みたいなものと必要物資が載っている。
私もここに来て暫く経つ。なんとなく理解できてきた。
今回団長が資料を見ながら唸っているのは多分……
「せめて顔くらいは覚えていてくれなきゃ厳しいよ? 小道具も使えそうなのが揃ってないしね〜〜かなり適当な設定になっちゃうけどそれでもいいのかい?」
顔に似つかわしくない優しい声で団長が語る。
私たちが使う道具は依頼者持ちだ。人間がそんなものを持ち運んで来るのかって? そこはご安心を、事務所の少し離れにある大きい建物、通称『夢見の倉庫』
そこには普段なんにも入ってないけれど、依頼を受けるとあら不思議。依頼者の記憶の中から無造作に選ばれた小物がポンっと出てくるの。
って私誰に向かって話してるんだろ?
「やっぱり無理ですか?」
依頼者の声からは元気が感じられない。
「一番重要なこの、あなたが会いたい女の子がはっきりしないからイメージとかなり違っちゃいますよ? ほぼウチの劇団員のまま出ちゃいますけどそれでもいいですか?」
団長は真面目な人だからなるべくこの人の要望に応えたいのだろう、少し渋っている。
「……分かりました。それでお願いします」
男も自分が無理を言っていることを承知しているのだろう。ここが妥協点みたいだ
「じゃあヒロインなんですが、この子なんてどうです?」
団長は振り向きもせず、後ろに控えていた私に手を向けた。
「え? わ、わたしっ!!?」
急なご指名に思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
「――――え〜〜じゃあ、それでいいです」
「かしこまりました。それでは夢でお会い致しましょう」
団長が爽やかな笑顔でお決まりのセリフと共に右手を差し出す。
依頼主も右手でそれに応え、事務所をあとにする、そのままスっと何処かへと消える。
「というわけだから、夢実ちゃん初めての舞台だね。頑張ってね」
ん?? ……私が……ついに……舞台に……上がれるっ!!!!
心が舞い踊る。やっと皆の仲間になれたんだ! しかも主役っぽい!!
ど、どどどどうしよう!!?? いきなりそんな大役だなんて でもこれでいい感じに演じれれば、みんなに認めてもらえる!!
――ちょっと待って、あの人私のこと『それ』っていった!! なんだかすごく不満そうだったし……確かに私は可愛いくないかもしんないけどさぁ……『じゃあ』ってなによ『じゃあ』って!! 私にだって選ぶ権利はあるのよ!! でも仕事だから仕方なくやっているだけで……
自分の世界に入っていると団長が頬を指でつつく。
「おーい、夢実ちゃん?」
はっ
「台本は今印刷するからちょっと待っててね。流れは分かっていると思うけど何か質問あるかい?」
そう言うと団長は持っていた資料を機械に放り込む。
この機械はいわば台本製作機、入れた資料から適当な台本に仕上げてくれる。ただし、はっきりしない目的や、遠い過去の思い出のような、情報や記憶が曖昧だと支離滅裂な台本に仕上がる。と言っても人の記憶は曖昧なものなので、ほぼ全ての台本が前後関係のないものに仕上がる。
「そういえば、さっきのお客さんあの子に会いたいって言ってましたけど、大丈夫なんですか?」
「そうだねー。お客様はあの子に会いたいと言っていたけれど、僕の見たところ彼が望んでいるのはその時の気持ち。一時的な恋を感じた胸の高ぶりを味わいたいんだと思う。」
恋の気持ちか……そう聞くとそのヒロイン役が私でいいのか不安になる。
私がうなっていると電話のベルが鳴り響く。
団長が電話に出て話し始めた。
「――うん、わかった。今回の主役は夢実ちゃんに決まったから――うん――大丈夫だって初めては誰にでもあるものさ――ふふ、あんまり怖がらせないでね。じゃあ夢実ちゃんそっちに向かわせるから」
受話器を置くと私に向かい恐怖の死刑宣告をした。
「早速小物が届いたみたいだから夢実ちゃん、ちょっと『夢見の倉庫』行ってきてくれない?」
「う゛ぇ〜?」
変な声を出てしまった。『夢見の倉庫』……私がここに来てから苦手としている場所だ。正確に言うと、そこの管理人さんこと 一文字さんが苦手なのだ。
なんというか……白いヒゲもじゃの堅物で私がちょっとしたヘマをすると、眉間に皺を寄せ物凄い不機嫌そうな顔をする。後でぼそっと一言だけ注意してくる……
多分私はあまりあの人によく思われていないのだろう。会話もろくにした記憶がない。
「せっかくの初舞台なんだからしっかりしなきゃダメだよ? いい夢を見させてあげなくちゃね」
団長は私を励ましてくれてるみたいだ。
あぁ、一文字さんもこんな感じだったらよかったのに……
「行ってきまーす」
気が乗らないけど行くしかない。
私は事務所を出てそのまま『夢見の倉庫』へと向かった。
☆☆☆☆☆
「一文字さん、いらっしゃいますかー?」
私が何十人もいたら、まとめて通れそうな程大きな扉を開けて倉庫の様子を伺う。
「……入れ」
低くて渋い声が巨大な空間にこだまする。
声はかっこいいんだよなぁ……
「……はいぃ」
びくびくしながら声の元へと駆け寄る。
「……これが衣装だ」
声の元は衣装部屋からで、私を見つけると今回のヒロインが着る衣装を突き出してそう言った。
「――っこれ、本気ですか?」
正気では無い。これは無理だ。
「……早くしろ、嫌なら辞めろ」
うぅ……わかりましたよ。着ればいいんでしょ!! この人は相変わらず言葉が怖い。
私は受け取った衣装を持って近くの更衣室に入る。
☆☆☆☆☆
「はぁ〜〜、どうですかぁ?」
渡された衣装、通称『高校生の制服』を着て一文字さんに確認してもらう。
「…………」
私を一度見てからスーっと左に視線を逸らした。決してこちらを見ない。
30秒はお互いに固まっていた。
お願いだから何か言って!!
そんな気まずい沈黙を破る最悪の使徒が舞い降りた。
「おーっす、ゆみっち今回ヒロイン――なんだっ……て?」
その「なんだって」はどういう意味なのでしょうか?
「う゛ぃひゃひゃひゃひゃ、やばっ、これはやばい、まってまって腹筋割れるからちょっと待って」
腹を抱えて奇声にも聞こえる笑い声をあげている失礼なこの人は、この劇団の華であり、ヒロイン役を務めることが多いリアさんだ。そのまま笑い転げて腹筋が六ピースになってしまえばいいのに……
スタイル抜群で顔も綺麗なのだが普段の性格がオヤジっぽいというか雑というか……
「ぶひょひょひょひょ、なんていうかあれね! 安物のAVみたい! う゛ぁっはっはっは」
ひどい言いようだ。でもさ……うん、自覚はしてたよ。自分で鏡を見て流石にきついと思ってた。
高校生と言い張るには年齢的に厳しいと思うよ。
「もう私辞めます……」
私だってこんな格好がしたくてこの劇団で仕事してるわけじゃない。
少し自暴自棄になって制服を脱ごうとすると、リアさんが私の手を両手で包んだ。
「その程度で諦めちゃうの? ぶひょ 貴方ならきっとできる。 げひょっ 見た目なんて関係ないわ!!」
顔の上半分を見れば私を真剣に説得してくれているように見えるが、下半分は笑いを抑えきれていない。
「……やるなら最後までこなせ」
一文字さんも私を励ましてくれた。
私に背を向け語っている。その背は小刻みに震えている。
「――やりますよ。やればいいんでしょ!!」
もうやけだ。
「そろそろ台本が出来たと思うので団長のとこ行ってきます」
このチャンスを安っぽい女子高生のコスプレで笑われたからと不意にするなんて、それこそ馬鹿らしい。
更衣室に入って着替えようとする。
「よし、その活きよ! じゃあ先輩からアドバイスしたげる。役になりきるにはその登場人物になりきることが重要よ!」
そう言うと更衣室に入ろうとする私の前に立つ。
――まさか
「今日はずっとその格好でいなさい」
目がマジだ。口元は笑ってる。
面白さ半分、真面目な助言半分なのだろう。
「やっぱりですか……」
そんなこと言うと思ってましたよ。
だけど、憧れのリアさん (演技してる時)に折角アドバイスをもらった……
どの道、皆に見られるのだ。もうとことんやってやろうじゃないの。
「じゃあ、いってらー」
クルリと体を反転させられ、軽く背中を押された。
うぅ……この姿で歩きたくないよぉ
☆☆☆☆☆
「団長〜笑わないでくださいね〜?」
「うん? 夢実ちゃんどうしたの?」
事務所のドアから顔だけ出して団長に聞く。
台本を見ていた団長が私の方に顔を向けた。
「じゃ、じゃあ入りますよ?」
スススっと体を事務所の中にすべり込ませる。
だめだっ すごい恥ずかしい。 絶対笑われる。
「うん、よく似合ってるよ。これ台本できたから見ておいて」
――っやっぱり団長はいい人だっ!!
ちゃんと私の方を見てくれているっ!!!
「おーい、夢実ちゃん? 帰ってきてー」
私が感動を覚えて我を忘れているといつの間にやら団長が目の前に立って台本を差し出していた。
「はっ はい、すみません。ちょっと感動しちゃって……これですね今回の台本。頑張って読みます!!」
「ふふ、力を抜いた方がうまくいくよ」
「ありがとうございます。ちょっとそこの席借りてもいいですか?」
「どうぞご自由に」
私は壁際に置かれているソファーに腰を掛け台本を読む。
――――台本――――
タイトル 「初恋のトキメキ♡」
うわぁ
まあ、とりあえず内容を読んでみよう。
―
――
―――
――――
―――――
――――――
なんじゃこりゃあぁぁああああ
思わず持っていた台本を床に投げつけた。
スパァンと気持ちのいい音が事務所を駆け抜けた。
「どうしたの? 何かあった?」
「おっ? ゆみっち怒りのコスプレか?」
「おやおや、演技の練習かい? ならば僕が付き合おう」
「うるさいよ新人!! 静かにしな」
驚いた団長が私の方を心配そうに見つめている。
いつの間にか人増えてるっ!?
「ご、ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃって……っていうかリアさん、私ベトナム戦争生き抜いてませんからっ!!」
少しキザっぽい喋り方をするのは夢劇団の『オシャレ番長()』の異名を持つ 平目さん、魚っぽいからと皆にはフラットと呼ばせているちょっと変な人。
『オシャレ番長()』の異名は伊達ではなく、毎日意味わからない格好をしている。
――今日は
「フラットさん今日はその……なんていうか……キマってますね!! 最先端です!」
本日のお召し物は、革製のピチピチ半ズボンを無理やりロールアップして太ももに若干食い込ませている……これは意図的なのか? 冬物のパジャマか?と思うような謎の赤と黄緑のチェックをあしらった、もっさりとしたTシャツに銀色に光り輝くジャケットを羽織っている。
これで自称『オシャレ番長』はキツイ……顔はカッコイイのに自慢のオシャレが素材を台無しにしている。
「サンキュウドリームガール、しょうがないから教えてあげよう。今回の僕のファッションのポイントは………………
私をうるさいと怒ったのは頼れる姉御 瑠璃さん。私は普段、瑠璃姉さんと呼んでいる。
初めこそ怖い人だと思ったけれど、なんだかんだ世話焼きだったり意外にも乙女なところがあって、私の中で怖い先輩から頼れる乙女先輩になった。
…………ということさ、分かったかいドリームガール?」
「え? あ、はい。流石フラットさんです!! 凄すぎます!!」
フラットさんのファッション講座聞いてなかった……まあいいか。
「あの、瑠璃姉さん。私初めて舞台に立つことになりまして……何かアドバイスをいただけませんか?」
「……台本読んで納得できない展開だからって放り投げるようなやつにアドバイスなんか無いよ。それにその服装嫌がったらしいね。あたしだったら喜んで着るけどね」
ぐぬ……確かに台本の内容が滅茶苦茶なのは今に始まったことじゃない。むしろ毎回意味不明。今回が特別ってわけじゃない。
――それは分かるけど、この制服着たいって姉さんマジですか? 姉さん私より年上なのに怖くないのですか?
「確かに瑠璃くんの言うとおりかもしれないね。どんな役でどんなシチュエーションだとしても全力で応えるのが我ら『夢劇団』のお勤めだよ」
「はい……自覚が足りませんでした」
団長にまで言われてしまった。
「ぶひょ、やべぇ、企画モノにしかみえねぇ」
人が反省してても容赦がないリアさん
「うーん。なかなかいいよねその衣装。今度ボク用に作ってもらおうかな?」
――えっフラットさん着るの?
「習うより慣れろって言うし、どうだい練習してみたら? ちょうど奥にネコ君も来てるから簡易的なステージも用意できるよ」
ネコさんはこの劇団でステージ設置を担当している。普段そんなに言葉多くは語らない気まぐれな人。私の中ではまだ性格が掴めていない先輩団員だ。
夢を演じる時の背景は依頼主の記憶の中から選ぶ必要がある。ネコさんは台本に指示されている背景を膨大な記憶の中から選び出し、その都度その都度、切り替えるのが主な担当。
他にも重要な役割があり、記憶の中から呼び出した『誰か』に演者を投影させる。
劇団員は特別なメイクをする必要がなくて、依頼者が勝手に『誰か』と錯覚するらしいのだが……正直私にはその辺がよくわからない。
他の先輩も仕組みを理解できている人は少ないみたい。
「じゃあさっさとやるぞ、新人。台本を見た限りヒロイン役だけどお前の出番は多くない。今回の役で重要なのは仕草や言葉遣いだ。16歳になりきるんだ」
「はいっ!! 瑠璃姉さん! それに皆さんもよろしくお願いします!!」
――そして
☆☆☆☆☆
〜〜〜〜〜開演〜〜〜〜〜
本日の公演は日本時間 4時43分
演目は『初恋のトキメキ♡』
観客はただ一人。
そう、主人公である貴方です。
ここは1DKのアパート、男が一人冷蔵庫から取り出した麦茶を飲み干す。男はこのストーリーの主人公。
この部屋は男の部屋にしてはよく整頓されている。我が物顔で麦茶を飲みまくっているが、この部屋は大学に通っていた時の友人鈴木くんのアパートである。
[夢実:なんで他人のアパートに居るんですかこの人?]
[団長:なんでだろうね?]
すると、鈴木の部屋にチャイムが鳴る。どうやらお客さんが来たようだ。
このストーリーでは、この部屋の主となっている男は飲んでいた麦茶を置いて玄関のドアを開ける。
ドアの先には一人の男と一人の女がいた。男は仕事の同僚鎌田である。女は誰か分からない。
主人公は誰だか分かっていないが、この女性は過去にスーツを買った時ネクタイを勧めた女性である。
[夢実:あっ! リアさんとフラットさんです!!]
[瑠璃:二人の演技よく見とけよ]
[夢実:はい!]
鎌田は言う。
「これ、この間借りてたやつ返しに来た」
鎌田は麦茶を飲んでいた男に木の欠片を渡す。五角形の木片には『香車』と黒い文字が書いてあった。
しかし、男は何故将棋の駒を貸したのか疑問に思わない。このストーリーでは将棋の駒は貸すもので借りるものなのだ。
[夢実:山形県の方なのでしょうか?]
[一文字:……知らねぇよ]
一人の女は言う。
「今日は仕事じゃないの? バス来ちゃうよ?」
男は思い出した。そうだ今日は仕事があったんだ。麦茶飲んでる場合じゃないな。
「ごめんね、私は今日メガネかける日だから」
そういうと女は抱えていたバスケットボールを三回ほどドリブルをして隣のアパートへ入った。
彼女が何に対して謝ったのかは語られることはない。
[夢実:メガネの日? そういえばリアさんの役メガネかけてませんよね? 普段コンタクトの人なんですかね?]
[瑠璃:さぁな……コンタクトかどうかは分からないが、女はやたら記念日が多い生き物だからな。メガネをかける日は、バレンタインとかと同列のイベントなんだろう]
[夢実:瑠璃姉さんはそういう乙女心によく気がつきますね!! すごいです!!]
[瑠璃:ばっ馬鹿言え、別にあたしはそういうの興味無いっていうか……ゴニョゴニョ]
[ネコ:(……バスケットボールはノータッチ?)]
「早く仕事行こうぜ」
鎌田が言った。
「じゃあ今行くよ」
男はそのまま鈴木のアパートを出て行った。
鎌田はスーツだが、男はジーンズによれたTシャツを着ている。もちろん仕事カバンも持っていない。
[夢実:何故あの人は私服なのでしょうか?]
[団長:資料によるとお客様は普段着として、よくあの服装をしているそうだよ]
[夢実:へー、そういのが反映されやすいんですね]
[団長:ふふ、身近なものは記憶が強いからね]
アパートの階段を降りるとそこは男の見慣れた道だった。男が仕事に通う時よく通る景色だ。
「バス来るまでコンビニ寄っていい?」
男は鎌田に聞く。
「ああいいよ。じゃあ俺先に行ってるわ」
そう言うと鎌田は歩いて何処かに行ってしまった。
[夢実:お二人の出番はこれで終了みたいですね。……あれ?瑠璃姉さん?]
[一文字:……瑠璃ならもうスタンバイ入ってるぞ。しっかり台本読んどけ]
[夢実:ふぇぇ]
男は近くのLITTLE WAITというコンビニに入る。
「イラッシャッセー」
男のよく通うコンビニ
よく見るアルバイト店員のお決まりのセリフ。
大学生くらいだろうか、少し明るめの茶色に染めた髪が印象に残る女性だ。
[夢実:瑠璃姉さんです!! やる気のない感じがすごい出てます!!]
[ネコ:(一応褒めてるの?)]
男はいつものようにレジに向かう。
「あのすみません。二十六番を一つください」
「かしこまりました。――こちらでよろしいでしょうか?」
そう言うと店員は缶コーヒーを取り出した。缶にはブラックと微糖の文字が書かれている。
男はタバコを頼んだはずだが出されたコーヒーに満足し、それを受け取った。お金は支払わない。
[夢実:え? なんでコーヒー?]
[平目:ヴィジターは朝にここで缶コーヒーを買うことが多いのさ。タバコもよくここで買うみたいだね。だからその辺が混ざってしまったのさ。僕にはタバコなんて吸う意味がわからないけどね]
[夢実:ほへ〜、あっ、リアさんフラットさん、お疲れ様でした]
[リア:そんなことより、ゆみっちそろそろ出番よ]
[夢実:あっ……行ってきます]
[リア:忘れてたのね……]
男は何も言わずコンビニを出てグイと一気に飲み干す。
飲み終わるのと同時にちょうどよくバスが着いた。
男はバスに乗る。
男と同じく仕事に行く人が数人、そしてこの辺の学校に通う高校生も何人か乗っている
……はずなのだが、今日は何故か誰も乗っていない。
その代わり一人の女子高生が席に座り本を読んでいる。
男は他に席が空いているのを無視して、その女子高生の斜め前に立ち、つり革に掴まる。
男はその女子校生をはっきりと見たことはない。会ったことも3回しかない。しかし純粋な好意を抱いている。はっきりとそれが恋なのかは男自身分からない、ただ単に彼女の雰囲気が男は好きだった。
ただ一人そこにいた女子高生は読んでいた本をゆっくり閉じ、男に顔を向ける。
[リア:ぶひょっ、やう゛ぁい、企画物キタコレ]
[団長:失礼だよ、リア君]
[瑠璃:いいなぁあの衣装]
「ハジメマシテ、イツモ、コノ、ジカンデスネ?」
可憐?な女子高生は男に引きつった笑顔で微笑みながら話しかけた。
[リア:う゛ぁッハッハッハ。リアルに企画物じゃねえかよ!! ゆみっち外人のモノマネでもしてるの?]
[瑠璃:練習の時はもうちょっとマシだったんだけどな……]
[団長:初めてにしてはよく頑張ってるさ]
[ネコ:団長いい人]
[平目:……流石の僕もこの演技は褒められないよ。許しておくれドリームガール]
男は一瞬戸惑った。ときめきをくれた少女をはっきりと見たことはなかったが、当然のように疑問が浮かんだ。
――こんな子だったっけ?
男は疑問が頭から離れないまま返事をする。
「ええ、この時間のバスがちょうどいいんですよ。えっと、君はこの辺の高校生だよね?」
「ワタシハ、夢鳴華コウコウノ、セイトデス。」
「そうなんだ、あそこは綺麗な高校だよね。君はよく本を読んでいるけど好きなのかい?」
「ハイ、サイキンハ、ミステリーモノ二ハマッテシマッテ、アナタハドウイウノヲ……」
何のアナウンスがあるわけでもなく、誰が降車ボタンを押したわけでもなく、バスは停まりドアが開く。
「アッ、ゴメンナサイ、ワタシココデ、オリマス」
そう言うと女子高生はトコトコとぎこちなく開いた扉へと歩いて行った。
男はその後ろ姿をただ眺めるだけだった。
男の恋した女の子はふわりと振り返り、恥ずかしそうに話しかけた。
「明日もこの時間に乗りますか?」
男は胸の高鳴りを抑えて答えた。
「いつもこの時間に乗るよ」
それを聞くと少女は照れ隠しに持っていた本で口元を隠してバスから降りた。
たったそれだけだったが、男にとってはそれだけで良かった。
男の胸には熱い気持ちがこみ上げていた。
――おや? どうやら夢から覚める時間のようです
――果たして主人公は目覚めた時にこの物語を覚えているのでしょうか?
――覚えていても忘れていても
――我々『夢劇団』は、またのお越しをお待ちしております
――それでは次も
――――夢でお会い致しましょう――――
END
出演者
主人公: 依頼主
鎌田: 平目
メガネの日がある女: リア
コンビニ店員: 瑠璃
ヒロイン: 夢実
バスの運転手: 一文字 (主人公からは見えていません)
機材:ネコ
総合監督:団長
「うぇ〜〜ん、思ったようにできなかったよ〜〜」
「大丈夫だよ。夢実ちゃん、よく出来てたって! 最後はちゃんと言えてたよ!」
「だんちょぉ〜〜〜〜」
「……あれはないだろ」
「ふぇ〜、一文字さんこわい〜」
「あたしもあれは無いと思う」
「えぇ〜、瑠璃姉さんまでぇ〜」
「……すまない、ドリームガール。フォローできそうにない……」
「フラットさんも〜〜?」
「あのコスプレと棒読みはキツいでしょ。あっそうだ! ネコにゃん後で録画したやつちょーだい」
「そう言うと思って、人数分作っておいた」
「さっすがネコにゃん!」
「もうやめて〜〜〜〜私のライフはゼロよ!!」
〜FIN
本当は長編のつもりでしたが、この物語の到着点を思いついていないので短編で投稿しました。




