(株)クレーム引受専門社
買った商品が欠陥品だった。従業員の接客態度が悪い。座席が汚い。サービスが悪い。聞いていたものと違うなど世の中に存在するクレームというのは人それぞれで小さなものから大きなものまでたくさん存在する。
日々、発生するクレームにある企業は「ありがたいお客様のお言葉」として重宝し、またある企業では「また、クレームか」とわずらわしいものとして処理してしまう。
そんなクレームを一手に引き受ける会社が設立された。というニュースが地方版新聞の端に掲載されてから数ヶ月が経っていた。
そんなある日、東京都のある場所にある雑居ビル。
このビルの三階にその会社はあった。
「株式会社 クレーム引受専門社」
そんな看板が掲げられているこの会社こそ、あらゆる企業のクレームを引き受け、それをもとに改善案を依頼もとに送るという仕事をしている会社である。
あまり有名ではないため、取引している企業は少ないが、売り上げはそこそこで赤字を出すということはなかった。
「こんにちわ。だれかいらっしゃいますか?」
そんな会社の扉の前にセーラー服に身を包んだ少女が立っていた。
彼女は先ほどからノックをしながら呼びかけているのだが、人が出てくる気配はなかった。
「開けますよ」
仕方なしに少女は、恐る恐る扉を開ける。
扉を開けて最初に目に入ってきたのはお世辞にもきれいとは言えないビルの外観からは想像がつかないほどきれいなロビーと受付窓口であった。
「あれ? 意外とちゃんとした……」
思わずそんな言葉が出てしまった。
さて、なぜ少女が制服を着てこんな場所にいるのかと言えば、いわゆる中学校の行事の一環とも取れる職業体験で来たのだ。
もっとも、彼女がこの会社を希望したとかではなく、事務職で職業体験を受け入れてくれた会社の中でここが一番近かったというだけだ。
「すいません。えっと、第三中学校の……」
「あぁ職業体験ですね。短刀をお呼びいたしますので少々お待ちください」
少女が名乗り終える前に受付嬢は電話を取る。
事務的な口調で電話を終えた彼女は、少女についてくるように告げた。
この会社、入り口が三階だというだけで一階から最上階まですべてこの会社が買い取っているらしく、フロア自体も広いほうなのでかなり大きな企業と言えるかもしれない。
エレベーターに乗り、四階にある応接室に通された少女は、ふかふかのソファーに座り担当者の到着を待っていた。
「お待たせいたしました」
深々と頭を下げてから入室してきた男性は、柔らかな笑みを浮かべたまま少女に歩み寄った。
「申し訳ございません。現在、諸事情により担当者が社外に出ておりまして、私が代理として会社の案内をさせていただくことになりました。それと、職業体験は担当者が戻ってからとなりますが、よろしいでしょうか?」
「はい。わかりました」
少女は荷物を持って立ち上がり、男はもう一礼してから扉を開けた。
*
エレベーターで一階へ降りた少女は、男の後ろを歩きながらきょろきょろと周りを見回していた。
自分の友達は、得体のしれない会社に行くのなんかやめなよ。などと言っていたが、こう見ている限り普通の会社にしか見えない。
まぁこの会社の場合、会社そのものよりも業務内容が問題なのかもしれない。
あらゆる企業のクレームを一手に引き受け、適正に処理し、それをもとに各企業へとアドバイスする。
端的にいってしまえばそんなものだ。
と上げてみたものの、これのどこに問題があるのだろうか?
少女は、そんなことを考えながら廊下を歩いていた。
*
ビルの二階にある部屋にはたくさんの電話が置いてあり、ずっと鳴り続けている。
「はい。申し訳ございません。そーでございますね。はい。よくわかります」
「そうですね。おっしゃる通りでございます」
「此方の不備で申し訳ございません」
「はい。そうです。申し訳ございません」
電話の主な内容なほとんどが各企業に寄せられたクレームだ。
この会社と契約している企業は、相手がクレーマーだと判断した場合に「担当者に代わります」と言ってここに電話をつなぐようにしているのだ。
「申し訳ございません。はい。おっしゃる通りでございます」
「はい。わかりました。お客様の意見はごもっともでございます」
「本当に申し訳ございませんでした。失礼いたします」
ひたすらに謝り続けて電話を切れば、またコール音が鳴り始める。
少し休憩したいところだったが、あまり待たせてしまうと仕事の時間が長くなってしまうため、仕方なしに電話を取る。
「はい。お電話代わりました」
こうして再び、長々としたクレームに対してずっと頭を下げ続けるのだ。
*
少女は、電話対応のフロアを見学していた。
フロアいっぱいに設置された電話は、会話が終わったとたんに次の電話が鳴り始める。
この調子だと、この人たちは一日中クレームに対応しているのだろう。
「えぇあなた様の言う通りです」
大体聞こえてくるのはそんな言葉だ。
この企業で働けば、どんな理不尽な理由をかざされても深々と人に頭に下げ続ける人間になるのだろうか……
少女は、そんな気がしてならなかった。
読んでいただきありがとうございます。
思いつきで書いたものですが、もしかしたら続くかもしれません。