初雪
たった一人でそこへ向かえるのなら、なぜ君は、それでも私のもとへ駆け寄るのだろうか。
何時も、君が見ていたのはこの世界だった。もし、君が見ていたすべてに私がいたのなら、私は君を、強情な青年だと認めざるを得ないだろう。
それでも、もう少しだけ、君が、君自身が考える清らかさを持ち続けることを許してもいいかもしれない。
「おはようございます。」
「おはよ。どうだった?冬休み」
「割と進みました。こちら、印刷した成果です。」
「へえ〜結構頑張ったんだ。おせちとか食べなかったの?」
「一人暮らしなので、一人では食べ切れないから買ってません。」
「そっか、俺も。来年は一緒に食べる?」
「…はい。」
春宮颯希は、私のエアー(heir)である。
昨年3026年3月にアルテミスユニバース(AU)を卒業し、私のコロニーで働くようになった。
この時代は、人間の数が著しく減っており、このままではいけないと、ベーシックインカム制度が取り込まれている。だから、働けば給料は増えるものの、働かなくてもたらふく食っていける。それに…
「そうだ春宮くん、口座は複数個持ってるよね?」
「はい。3つ持ってます。」
「よかった。双極子分離装置の特許はいろんな会社から毎月かなりの額が振り込まれると聞いている。少し心配でね。」
「ありがとうございます。」
もうすでに悠々自適な生活を送れる金が揃っていると言うのに、こんなちっぽけな場所にこれから100年あまり足を運ぼうとは、変わった坊やだ。何が彼をそこまでかき立てるのかを聞くことが野暮であることぐらいは承知している。
夕べの初雪が上がったばかりの、薄暗い朝のコロニーでも、不思議と彼の瞳には何かが反射していた。
「笠原せn…笠原さんは、僕がいないとき、何をなさっているのですか?もし、僕がその邪魔になったらと心配で…」
「いや〜?何もしてないよ?適当に本とか読んでるだけ。だから、そんな気を使うこともないよ。」
笠原怜也32歳、自由に慣れきってしまった人間は、しばしば温度を帯びた眼差しを見逃すことを悟る。
5年前、なぜか入学したての颯希から私に注がれた熱を疑ってしまったのを覚えている。何を企んでいるのか、と。




