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ガラス細工を愛する少女は王妃様を輝かせたい  作者: 麻生あきら
第七章

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88 紫色の花びら

 微睡みの中で時折見えるのは、ゆらゆらと歪んだ室内。

 耳を塞がれた時のような音が気持ち悪い。

 口元に何か装着されているようだが、ぼんやりとした頭では上手く動くことが出来ない。

 それを確かめる事もままならない。

 

 ──ああ、意識が遠のく。

 

 

 次に目覚めたのはガラスの蓋の付いたベッドの上。

「そのままお休みください」

 と、くぐもった神殿長の声が聞こえた。

 とろとろと瞼が落ち、眠りについた。

 

 

 再び目覚めると、窓から漏れる光に包まれた。

 顔を巡らすと金属の枠組みのベッドが見えた。

 

「もう大丈夫ですよ」

 神殿長の落ち着いた低い声がした。

 

「⋯⋯酷く痛んだのだが⋯⋯、痛くない、ね」

 脚を確かめようとしたが、神殿長に止められた。

 

「もう二日程は安静になさって下さい。お目覚めですから、王妃陛下にお知らせします。明日にはお会いしても宜しいかと」

「母上にお怪我は?」

「ご安心下さい。無傷でございますよ」

 アルドーは安堵し、眠りに落ちた。

 

 液状の栄養食を口に運び、また眠る。

 何度かそれを繰り返した。

 

 

 

 額から耳のあたりを撫でられた感触。

 そのまま左頬を軽く包まれた。

 

 冷たくて気持ちがよい。

 ふいに離れたそれは、左手へと移った。

 握られた左手の甲に柔らかな感触。

 

 ──これは、クリス?

 

 

 

「⋯⋯ん」

 アルドーは身じろぎする。

 アルドーの左手に頬を寄せたクリスが顔を上げ、目が合った。

 

「ああ、クリス。君は無事?」

 アルドーは自分の左手を握るクリスの指に口づけた。

 

「わ、わたくしはっ⋯⋯」

 

 

 陽の光に透けた薄紅色がかった金の髪が、目の前にサラサラと流れる。

 クリスの紫色の瞳がどんどん潤んでいく。

 

 ──ああ、朝露に濡れた花のようだ。

 

「目覚めて君がいるなんて、なんて幸せなんだろう。よく顔を見せて」

 

 アルドーは手を引き寄せ、両手で顔を包んだ。

 軽く唇を啄む。

 

 クリスの瞳から零れ落ちる涙が、アルドーの顔を濡らした。

 

「ああ、また泣かせてしまったな。どうしたら泣かせずにいられるのかな⋯⋯?」

 

 

 

「⋯⋯アルドー様が無茶をなさるからです。フラッハ様がお怒りでしたよ」

 

 クリスは困った顔でアルドーの両手をそっと離し、ベッド脇に置かれた手巾でアルドーの顔を拭う。

 アルドーはそれを受け取り、クリスの顔を拭った。

 

「フラッハには悪い事をしたな。必ず戻ると言ってしまったのに。でも、君も母上も無事だったなら、私はそれでいい。私に当たらなかったら君が撃たれていただろうから。⋯⋯神殿長から傷口は綺麗に塞がったと聞いたよ。あとは何日か安静にしていれば良いと言われた」

 

「良かった。あんなに血が出て⋯⋯。咄嗟に止血しましたが、少しはお役に立てたのでしょうか⋯⋯」

「朧気に見ていたけれど、随分手際が良かったね?」

 

 ガラス工房では怪我をする人が多いのだ、とクリスが答えると、アルドーは感心して頷いた。

 

「本当にガラスが好きなんだね」

 アルドーは、たまらず笑ってしまう。

 

「痛みもほとんど無い。古代機械は凄いね。何故これが王族だけに使われているのか疑問に思うよ」

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