83 裏切り
ヌンツィオが目覚めると、リカルドとラマート子爵パウルが自分を覗き込んでいた。
身体を動かそうとするが、手足を拘束されているらしく先端しか動かせなかった。
ふぅ、と息を漏らし、周りを見渡す。
何もかもが真っ白な部屋に寝かされていた。
「リカルド様、ご無事で何よりです。ラマート卿も」
ヌンツィオの口は滑らかに動くようだ。
しかし、パウルは渋面を作り、後ろを振り返る。
「神殿長、意識が戻ったようですよ。呑気な挨拶をしています」
「ええと、誰だったかな⋯⋯?」
リカルドはこめかみに手を当てて目を伏せた。
──呑気なのはどっちだ。
ヌンツィオはそう思ったが、いつ見ても寝込んでいたリカルドに覚えられていなくても仕方が無い。
「ヌンツィオ・モレッティです。リカルド様。マールム公爵家の家令の兄です」
「あっ、似てるね。うん。すまない、覚えていなくて。君は父の使いで来たのかい? 助けてって言ったそうだが。ねぇ、神殿長」
リカルドとパウルの後ろから黒髪の男が現れた。
神殿長だ。
何の感情もない目でヌンツィオを見る。
「確かに聞こえましたので、保護させていただきました。お間違いありませんか?」
「ええ、情報を王家に話したい。⋯⋯もう限界だ」
ヌンツィオは白い天井を見つめて零した。
「⋯⋯誰も彼もがそうだ。信じて良いんだな?」
パウルがぶっきらぼうに言う。
「ええ。もう、本当にうんざりなんです。暴れませんから拘束を解いてもらえますか? あんな痛いのはごめんです」
手足の枷を外され、ヌンツィオは手首をさする。
別段痛い訳でもなかったが。
「大旦那様は、ここから一刻程の邸宅にいらっしゃいます。お二人の奪還を、と考えていらっしゃるようですが、敵わないとも思っているようです」
「私を取り戻したとして、何の役にも立たないというのに。死んだと思って忘れて欲しいくらいだ」
リカルドは大きなため息をつく。
「⋯⋯で、さっき言っていた情報というのは、居場所のことなのかね?」
パウルがベッドから離れて、部屋の中央にあるテーブルを囲んだ椅子に座った。
「いえ、『部門別発表会』で『芸術』の子供を使って、王妃陛下と、第二王子殿下を⋯⋯」
言い淀むヌンツィオ。
「ああ、それでしたら存じ上げておりますよ。ご心配には及びません」
作ったような笑顔で神殿長が言う。
ヌンツィオはその異様さに目を瞠る。
「知って⋯⋯いる、のですか?」
「はい。ですが、どういったルートで侵入しようとしているのかご存じでしたら、ぜひ教えていただけませんか?」
「ああ、では⋯⋯」
ヌンツィオはそう前置きして話し始めたが、実際には大した策などない。
内通者とジュゼッペが人通りの少ない場所を通って聖堂の二階へ上がる、という程度のものだ。
『芸術』の子供には、治療院で頻繁に暗示をかける女を出入りさせている。
何度も念入りに暗示をかけ、子供自身に親を言いくるめさせて会場に向かわせる――という、実に穴だらけの作戦だ。
「⋯⋯子供の親がやけに献身的なのは、まさか⋯⋯?」
「さて、どうでしょうね?」
神殿長は無表情のまま、ヌンツィオを見た。
ヌンツィオは掴み所のない態度に困惑するばかりだった。




