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私のスキルは【毒反転】。なので、劇毒しか食べない配信やってます  作者: 狐白


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9/9

第9話

 配信開始ボタン、ぽちっと!


「みなさん、こんにちは〜」


 配信を始めた瞬間、視聴者数が一気に跳ね上がった。


[だ、誰が喋ってる!? 画面、煙だらけなんだけど!?]

[このユーザーID……幽霊少女!?!?]

[煙やば……]

[やっぱり三途の川から配信してるのか!?]


「……三途の川じゃないよ。ただ火事なだけ。しかもそんなに大きくないし、さっき見た感じだともうほとんど自然鎮火しそうだったよ」


[“ただの火事”って何!? 火事って軽いことなの!?]

[今は水魔法が普及してるから普通の火事で死人は出にくいけど……それ錬金薬の火災だろ?]

[このカラフルな煙、完全に錬金薬系の火災じゃん。あれ煙のほうが火よりヤバいやつだぞ!]


「へぇ……そうなんだ。なんか怖そう……」


 私はうんうん頷きながら、306号室の前までやってくる。


 ドアは開けるまでもなく——


 ドアノブに、未開封のピザのデリバリーがぶら下がっていた。


 たぶん、受け取ろうとした瞬間に火事に気づいて、そのまま逃げたんだろう。


 そのピザはすでに煙をたっぷり吸っていて、箱の表面にはカラフルな錬金粉末がびっしり付着している。


 私はそれを手に取って、窓際まで移動した。


「ねえええ——! この未開封のピザ、もう捨てちゃう感じですかー!?」


 三階の窓から下へ向かって手を振る。


 306の住人はロックな格好のカップルで、最初はぽかんとしてたけど、やっと自分たちに話しかけられてると気づいた。


「は!? そのピザ、毒煙にやられてるから捨てるに決まってるだろ……って、お前何やってんだ!? 早く逃げろ!!」ロック男、完全に崩壊。


「ピザなんて後でどうでもいいから!! あんた早く逃げなさいよ!!」ロック女は頭を抱えて、ムンクの『叫び』みたいな顔で絶叫している。


「え、あー大丈夫大丈夫。私、毒効かないスキル持ちなんで。それより、捨てるなら……食べてもいいですか? お腹すいてて……」


 本当にお腹すいてる。


 37時間……いや、移動とかさっきの消耗も含めたら、もう39時間近く何も食べてない。


 低血糖で、頭はふらふら、足もガクガク。


 今すぐ何か食べないと、その場で倒れるかもしれないレベル。


「かわいそうに……でもそれ毒なんだってば!! 食べちゃダメ!!」


「えー、大丈夫だよ。それより、他にも何か持ち出したいものあれば言ってください。まだ何個か持てそうなんで。消防隊が水魔法使ったら部屋びしょびしょになるかもだし」


 私は周りの人たちにも手を振る。


「じゃあ、宿題取ってきてもらっていい? めっちゃ頑張ってやったやつで……明日出せなかったら終わる……202号室で、ドア開けっぱなしです!」


「楽譜!! 新曲の楽譜お願い!! あれマジで大事なの!!」ロック女が必死に叫ぶ。


「壁に掛けてある結婚写真を……頼めるかい? 妻はもういないんだ……あれだけは残したい……204だ。ドアは壊して構わん、無理ならいい……」年配の男性が静かに言う。


「うん、全部覚えた!」


 私はキクと304号室の論文をリュックに入れ、片手にピザを持ったまま二階へ向かう。


[この妙な落ち着き、何……?]

[この配信者、もしかして目見えてない? 煙こんなにあるのに平然としてるんだけど]

[盲目じゃなくて死体だから問題ないんだろ]


「……はぁ」


 私はコメント欄を見て、ため息をついた。


「なんで私の配信、コメントこんなに変なの……? もっと普通のコメントくれてもよくない? 『配信者かわいい〜』とか『好き〜』とかさ……他の配信ってもっと平和な空気じゃない?」


[貞子がテレビから出てきたときに「髪ツヤツヤだな」って思うか!?]

[普通の人間は火事の中で「燻製ピザの味どうかな」なんて考えねえよ!!]

[どっちが異常なんだよ!?]


「ん? 何か言ってる? 煙が濃くてよく見えないけど……それよりさ」


 私はふっと真剣な顔になる。


「このピザ、燻されて……」


「めちゃくちゃ美味しいんだけど〜♡」

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