第7話
私は海岸をきれいに片づけた。
ポチは腕時計の姿に戻り、自動でふわりと飛んできて、私の手首にぴたりと収まる。
「ポチ! さっきの配信、めちゃくちゃ稼げたよね!」
[今回の配信収益と来月の支出を計算中です。電気代、家賃、ポチのサブスク費用を差し引いた結果……残高マイナス三万円です]
「……そんなテンション下がること言わないでよ!」
[以前の設定で「冷酷」「冗長削減」モードが有効になっています。応答スタイルを変更しますか?]
「褒めて!!」
[褒めモード起動〜♪ 死亡したと思われながら収益を出す配信者、前例がありません。極めて優秀です!]
「それ褒めてる!?」
[さすがご主人様。褒められても全く驕らないその姿勢。致死量のフグを摂取した直後にもかかわらず、この冷静な判断力……実に見事です!]
「……通常モードに戻して」
[了解しました]
私はぐったりとリュックを背負い直す。
「ま、待ってください!」
「ん?」
女剣士さんが小走りでこちらにやってきた。
「あの……ちょっと、図々しいお願いかもしれないんですけど……連絡先、交換してもいいですか?」
「いいですよ」
あれだけ一生懸命助けようとしてくれたのに、ちゃんとお礼も言えてなかったし。
できれば、ちゃんとした形でお礼もしたいな……
フグ料理、ご馳走するとかどうだろう?
……でもそれなら、明日もっと稼がないと。
「実は……」
女剣士さんは何か言いかけて、下唇を噛んだまま言葉を飲み込んだ。
「どうしました?」
「いえ……今日のこと、本当にすみませんでした……」
「いや、謝るのはむしろ私のほうですし……まあ、そのへんはもう水に流しましょう〜。今度、よかったら一緒にフグ料理食べに行きません? 私が奢ります! じゃないとなんか落ち着かなくて」
「えっ?!」女剣士さんの顔が引きつる。
「ダンジョン産じゃなくて! ちゃんとした地球の専門店です!」
「あ、よかった……」彼女はほっと息をついて、少し笑った。「機会があれば、ぜひ!」
「来月……いや、来週? とにかくお金貯まったら連絡しますね!」
「はい! でも、無理はしないでくださいね……」
「大丈夫だよ! なんか、供え物めっちゃもらってるし!」
「??」
◇
ダンジョンを出たときは、まだ体調はすごく良かったのに。
家に帰った途端、信じられないくらい眠くなった。
……たぶん「神経過駆動」が切れたせいだ。
ベッドに倒れ込んで、服も脱がないまま——そのまま意識が途切れる。
どれくらい経ったんだろう。
意識がふっと体に戻ってきたとき——
まぶしい日差しと、手首で激しく震えるポチの振動に気づいた。
「ポチ……うるさい……」
「うるさ……い……これ以上うるさかったら、外に放り投げるよ……」
[現在時刻:日曜日13時37分です]
「日曜……? まあいいや……まだ寝れる……」
「日曜……」
「……え?」
「……日曜??」
私はばっと跳ね起きた。
ぐしゃぐしゃの髪のまま、目を見開く。
「私の土曜日、どこ行ったの!?」
[じゃじゃーん♪ 睡眠時間三十七時間三十七分。自己ベスト大幅更新です!]
やばい。
なんか、やらなきゃいけないことがあった気がする……
あ。
土曜日の配信、やってない!
新しい食べ物を試すって言ってたのに。
……そのまま、消えた。
「ポチ……」
声が少し震える。
「私……やらかした……?」
[(思考時間:3秒)]
ポチが光り、空中に映像を投影する。
[……ネット最大の心霊事件! フグを食べた幽霊少女!]
[土曜日に現れず……フグ少女、死亡確定か!?]
[幽霊に遭遇した際の対処法とは? プロの除霊チームが徹底解説!]
「……」
どれも再生数が異様に多い動画ばかり。
……うん、完全に死んだことになってる。
私は虚ろな目で、しばらく窓の外を見つめた。
そして——
ばふん、とそのまま後ろに倒れて、布団に潜り込む。
……人って、状況があるラインを超えると、逆に静かになるんだね。
もう抗う気も起きないし……
それなら、もう一回寝よう。
[呼吸機能+2(永続)]
[筋力+1(永続)/覚醒度+1(永続)]
……なんで寝てるだけで中毒判定入るの?
通知音がずっと鳴ってて、全然眠れない。
仕方なく目を開ける。
くん……くん……
「なんか……焦げ臭くない?」
外の通りが、やけに騒がしい。
でも、何を言ってるのかははっきり聞き取れない。
私は目をこすって、軽く伸びをした。
「ポチ、外で何て言ってるの?」
[口形および音声解析の結果——
「逃げろ!!」
「火事だ——!!」]
「へぇ……火事かぁ……」
「火事!?!?」




