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私のスキルは【毒反転】。なので、劇毒しか食べない配信やってます  作者: 狐白


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第34話

「……あのさ……その……歯を失くすような……錬金薬って、持ってない?」


 私は今にも泣きそうな顔で、青野を見上げた。


 青野が答えるよりも早く、ぶんぶんと首を振る。


「……やっぱいい。数日後に普通に歯医者行くわ……」


 だって、歯を失くすタイプの錬金薬なんて使ったら、反転後の効果はほぼ確実に——


 “歯が大量に生えてくる”とかになる気しかしない。


 ……うん、想像しただけでSAN値がゴリゴリ削れる。


 だから私が欲しいのは——


「一本だけ、確実に歯が折れる薬」なんだけど。


 ……いや、そんな都合のいい効果、さすがに存在しないでしょ。


「ほら」


「え?」


「これは“単一の歯をゆっくり消失させる錬金薬”」


「いや、あるの!? ていうかなんで効果分かってるの……あっ……いや……ごめん」


 青野は無表情のまま口元を引き上げ、欠けた前歯を見せた。


 ……うん、これ、どう見ても実体験だよね。


 悲しすぎる。


「私、犬歯なんだけど……変な位置に生えてこないよね……?」


「知らん」


「……」


 ……やっぱ歯医者行こうかな。


 でも歯医者、高いんだよなぁ。


「……」


 私はぐっと覚悟を決めて、その薬を受け取る。


 目を閉じる。


 ——そして、飲む。


【状態「単一欠損歯の緩慢再生」を獲得(持続時間:36500日)】


 よっしゃあああああ!!


 反転成功!!


 “欠けた歯一本だけが生える”タイプに変わってる!!


 しかも——


 一気に百年持続!?


 ……いや待って。


 百年???


 ……なんか急に、背筋にひんやりしたものが走る。


 今の表示、よく考えたら——


 “健康状態まで再生”とか、“正常な歯に戻る”とか、


 そういうゴール条件、どこにも書いてなくない?


「……」


 ……やっぱ歯医者行くべきだったな。


 青野は大きくあくびをして、肩を回す。


「今日は色々ありすぎて限界だわ……眠すぎる。先に寝る。お前も早く休め」


「私さっきめちゃくちゃ酒飲んだから、今めちゃくちゃ冴えてる。たぶんゴールドバッハ予想解ける」


「……怖い才能だな……じゃあ人類の未来よろしく。私は無理」


 この流れ、むしろ都合がいい。


 冒険者協会が用意した仮宿は二部屋だけ。


 私のベッドは神代に占領されてるし、青野は自分の部屋に戻った。


 つまり、私が寝るには——


 もう一部屋取るしかない。


 でもここ、G166。


 魔法市型ダンジョン。


 宿代、バカ高い。


 コスパ的に考えると——


 今夜は寝ないのが最適解。


 そもそも、眠れないし。


 ……じゃあ、起きてるなら何する?


 せっかくG166に来たんだし——


 魔法、ちょっと勉強してみる?


 もし魔法が使えるようになったら、


 もっと高ランクの依頼も受けられるようになるし、


 配信+依頼で稼げば——ポチの味覚モジュール、今年中に買えるかもしれない。


 しかも今は「元素視野」もまだ持続中。


 原理観察のチャンスだ。


 ——決まりだ。


 ただし。


 問題は一つ。


 “私に魔法を教えてくれる先生”が必要。


「……ポチ先生、よろしくお願いします!」


【何をしようとしているのかは分かりませんが、極めて不安定かつ危険な思考に至っていることだけは理解できます】


「ポチ、マップ開いて。人の邪魔にならずに魔法練習できる場所探して」


【警告:魔法の独学は非常に危険です。魔法師協会は——初学者には専門訓練場での指導、及び二名以上の中級魔法師の監督を推奨しています。講習費:一時間あたり二十万円】


「大丈夫大丈夫、wikiに載ってる低級魔法だし、水系と草系だし、環境壊さないし」


【問題は環境ではありません。魔力の運用は、肉体損傷や生命力の消耗を伴う可能性が——】


「……もしかしてポチ、私のこと心配してる?」


【来月のサブスク料金のほうを心配している——とでも言えば満足ですか。いずれにせよ独学は禁止です】


「ここならいいでしょ?」


 私はすでに宿の外、森の中まで歩いてきていた。


 どれくらい進んだのか分からない。


 振り返ると、宿の灯りは木々に完全に遮られて、ほとんど見えない。


 聞こえるのは、正体不明の鳥の鳴き声と、


 ざわざわと揺れる木の葉の音だけ。


 G166には月がない。


 夜は、底なしみたいに深い。


 ……なんで私、こんなところまで来る勇気あったんだろ。


 暗すぎる。


 完全に闇。


 影の中から何か出てきてもおかしくないレベル。


 ……無理。


 光が欲しい。


「ポ——」


 カチッ。


 その瞬間。


 私が言い終わるよりも早く——


 ポチのカメラ上部から、一筋の光が放たれた。


 続いて、二本、三本。


 赤、青、緑、紫。


 カラフルな光が、森の中でぐるぐると回転し始める。


 暗闇の中で、ポチの声が響いた。


【心拍数上昇を検知。恐怖指数が閾値を超えました。ディスコモードを起動します】


「……じゃあ、あとで魔法の呪文唱えるとき、リズムに合わせて踊ればいいの?」


【余剰エネルギーを消費させる目的です。疲労すれば魔法学習を断念する可能性が上昇します】


「はいはい分かったから! 心配してくれてるのは分かるけど! 今は水系と草系の呪文出して! もう止めないで!」


【(検索中)】


 ポチはしぶしぶ、魔法リストを展開する。


 呪文の意味、ローマ字、日本語発音付き。


【警告:AIによる魔法学習補助は危険です。AIは完全な正確性を保証できません。“幻覚”により誤った詠唱を提示する可能性があります】


 私は一番上を見た。


「……アバアバワイビバブ!(水の精霊よ、我が呼びかけを聞け!)」


「……グルルルル!(ウォーターボール!)」


 ……いや。


「ポチ、これ本気?」


 なんか私、言語能力獲得前に似たような発音してた気がする。


「これ考えた魔法使い、トイレに顔突っ込まれてる時に思いついた?」


【検証済み。ウォーターボールの詠唱は正確です】


 ……マジかよ。


 まあいい。


 やるしかない。


 私は映画の魔法使いみたいに背筋を伸ばし、


 腕を前に突き出し、闇を指差す。


「アバアバワイビバブ!」


「グルルルル——!」


 ◇


 ——十分前。


 斧を背負った大男が、宿の外でしゃがみ込んでいた。


 眠気に抗いながら、目をこすっている。


 そして。


 あの姿を見つけた。


 色褪せた安物のパーカー。


 サイズの合っていないショートパンツ。


 歩くたびに少しずつずり上がる裾。


 靴の端には謎の欠け。


 まるで、極限状態の何かに齧られたみたいな。


「……やっと出てきたか」


 男は低く笑った。


 さっき酒場で負けた。


 Bランク依頼なんてどうでもいい。


 問題は——


 相手がガキだったこと。


 しかも、あんな大勢の前で。


 プライドはズタズタだ。


 このままじゃ、噂になるのも時間の問題。


 ……許せるわけがない。


 甘く見てるな、小娘。


 一回勝ったくらいで終わりだと思うなよ。


 ◇


「——ドンッ!」


 私は、自分が唱えた呪文をまったく聞き取れなかった。


 たぶん、詠唱速度が上がっているせいだと思う。


 呪文を唱えようとした瞬間、口がまるで言うことを聞かなくなって、ぐちゃぐちゃっと勝手に動いて——


 気づいたときには、もう全部終わっていた。


 何が起きたのか、まったく反応できなかった。


 見えもしなかった。


 ただ——


 青い球体みたいなものが、勢いよく飛んでいった気がする。


 ……何かに当たった?


 たぶん。


 ……木、かな。


 うん。


 絶対木。

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― 新着の感想 ―
気のせいだね(気になる木の行方)
この子、将来どんな超人(変人or奇人)になるんだろ
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