第2話
[スキル覚醒が完了しました。あなたのスキルは「毒効果反転」と確認されました]
毒効果反転?
何に使えるのかはよく分からないけど……でも、とにかく!
私、スキル持ちになったんだ!
やった!
「ってことは……学校で使われてた覚醒ポーションって、実は毒だったの? それが反転したせいで……私、覚醒に失敗したってこと!?」
[……関連情報を検索しました……]
AIアシスタント、ポチの声が頭の中に響く。
[……学校で使用されている覚醒ポーションは二種類あります。第一は「スキルを覚醒させるポーション」。あなたが最初に飲んだものです。こちらには毒性はありません]
[第二は「具体的なスキル効果を強制的に可視化する」ためのポーション。あなたが二本目に飲んだポーションです。「強制的な可視化」はプライバシー侵害と見なされる可能性があるため、広い意味では“毒”と考えることもできます]
なるほど!
つまり——
「スキル効果を強制的に表示するポーション」が反転して、「スキル効果を完全に隠す」効果になったってことか。
だから、あんなことに……!
「……って、あれ? これ、問題解決してなくない?」
毒効果反転。
……これ、何系スキルなの?
後方支援? それとも戦闘系?
それに——
どうやってお金を稼ぐの?
そういえば、まだ夕飯も食べてない。
放課後からずっと「スキルがないかもしれない」って悩んでて、そんな余裕もなかったし。
冷蔵庫の中も、ほとんど空っぽだし……
ぼんやりとお金のことを考えながら、私は無意識に冷蔵庫から牛乳パックを取り出した。
頭の中がまださっきのことでいっぱいで、気づいたときには——
半分くらい、もう飲んでしまっていた。
「……あれ? 今日の牛乳、なんか変な味しない?」
[毒効果反転が発動しました!]
[「体力強化」状態を獲得。持続時間:1日]
[腸内健康度+5(永続)]
[身体健康度+1(永続)]
「え、え、え!? なんで急に発動したの!?」
私は手に持った牛乳パックを見つめる。
……ってことは。
これ、腐ってたの!?
体力強化が一日続くってことは……
元々は、一日中体調不良になるレベルの食中毒だったってこと!?
手元に残った半分の牛乳を見て、私は複雑な気持ちになる。
……これ、飲み切るべき?
飲めばメリットはあるっぽい。
でも、腐ってるって分かってるものを飲むのは……
正直、かなり抵抗がある。
ぐぅ——
お腹が鳴った。
……うん。
貧乏って、選択肢を奪うよね。
私は覚悟を決めて、残りも一気に飲み干した。
[腸内健康度+5(永続)]
[身体健康度+1(永続)]
また健康ステータスが上がった。
具体的に何に影響するのかは分からないけど……
なんとなく、体が軽くなった気がする。
気のせいかな。
……なんか、肌も少し白くなってない?
「お昼も食べてないし、まだお腹空いてる……」
私はベッドに腰掛けながら、小さく呟いた。
「どうせなら……美味しくて、安くて、それでいて“毒”のある食べ物ってないかな……」
ポチに聞こうとした、その瞬間。
まるで頭の中に電球が灯ったみたいに、ひとつの答えが浮かび上がる。
「……ダンジョン産のフグ!」
ダンジョンには、猛毒のフグが存在する。
毒は身にも血にも広く含まれていて、どれだけ処理しても完全には取り除けない。
そのせいで「食用価値がない」とされている。
しかも、このフグ。
ダンジョンの海では異常繁殖していて、釣りをすれば三匹に一匹はこいつがかかるレベル。
だから釣り人たちは、フグが釣れるとまずザラザラの皮で靴底をこすって、ぷくーっと膨らんだところで——
ものすごく嫌そうな顔で、海に蹴り返す。
つまり。
ほぼタダで手に入る!
「フグの毒が反転したら……どんな効果になるんだろう」
「しかも、めちゃくちゃ美味しいって話だし……! 地球のフグより美味しいって!」
中には「死んでもいいから一度食べたい」って人もいるくらいらしい。
……うん、決めた。
もう、我慢できない!
「えっと……リュック、ポチウォッチ、調理セット、フライパン……」
[ポチの予備バッテリーもお忘れなく! 配信を行う場合、消費電力が増加します]
「あ、そっか! ありがとう!」
[それでは、最寄りの「海浜ダンジョン」へのナビゲーションを開始しますか?]
「お願い!」
[ルートを設定しました。距離1.2km。アパートを出て左折、50メートル先の交差点を右折……]
私は深く息を吸い込み、リュックを背負う。
そして——
アパートを出た。
ダンジョンに入るのは、これが初めてだ。
覚醒ポーションを飲んだ者だけが、ダンジョンに入る資格を持つ。
本来なら。
来週の月曜日まで待って、学校のチーム分けが終わってから、先生の引率で入るべきなんだと思う。
その方が、ずっと安全だし。
……でも。
待てない。
「ポチ、目的地のダンジョン情報を表示して」
[対象ダンジョンはG172番、海浜型ダンジョンです。“G”ランクは採集中心の低難易度資源ダンジョンを示します。魔物の出現率は極めて低く、安全性が高いとされています]
[また、当該ダンジョンは約70%が海域で構成されており、水産資源が豊富です]
Gランクか。
少しだけ、肩の力が抜ける。
Gランクは一番安全なカテゴリ。
よほど運が悪くなければ、危険には遭遇しない。
「……魚を買いに行くだけ。うん、魚を買いに行くだけだから……大丈夫……」
自分に言い聞かせるように、何度も繰り返す。
[目的地に到着しました。ナビゲーションを終了します]
海辺。
空へと伸びる青い光の柱が、静かに脈打っている。
その中へ、人々が次々と吸い込まれていき、また吐き出されるように戻ってくる。
中には——
巨大で発光する魚を抱えて出てくる人もいて、そのたびに周囲から感嘆の声が上がる。
一方で、手ぶらで戻ってくる人もいる。
そして、そういう人に限って——
「全部フグだよ! フグフグフグ!! なんでこんなにフグばっかなんだよ!!」
って、全力でキレてる。
……フグいる!
ここ、当たりだ!
思わず話しかけて場所を聞こうとしたけど、寸前で踏みとどまる。
……さすがにそれは、傷口に塩塗るやつでは?
「おい、どこで釣ったんだよ! 避けるから教えろ!」
別の人が代わりに聞いてくれた。
ナイス!
私はこっそり耳をそばだてる。
「北の浜にある廃墟の古代灯台! あそこフグだらけだ! 最悪だぞ!!」
よし、目的地ロックオン!
出発!
私は勢いよく光の柱へと踏み込んだ。
[転送エリアを選択してください]
目の前にマップが展開される。
陸地、海、森林——エリアごとに色分けされ、七つの青い円が配置されている。
そのうちのひとつ。
「古代灯台」と書かれた場所に、崩れかけた灯台のアイコン。
「ここに転送」
私は迷わず、その円をタップした。
[転送完了]
[毒効果反転が発動しました!]
「……え?」
なんで今、発動したの!?




