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お任せ下さい、ロザリア様。

忘れもしない、十四歳の誕生祝賀会。

私の婚約者――ヴィルヘルム殿下も参加なさる、重要なパーティー。


あの日私は、エミリアからとある「提案」をされた。


「お姉様。最高級の茶葉を手に入れたのですが、よろしければヴィルヘルム殿下にお出しください。」


エミリアは優しく笑いながら、私に茶葉を差し出す。


――ああ、思い出した。


今の私ならわかる。その茶葉に何が混ざっているのか。

一週目の私は、彼女の「善意」を疑いもしなかった。


「ありがとう、エミリア。でもいいの?貴女が直接、ヴィルヘルム殿下にお出しすればいいのに。」

「いいのですか?私のような分不相応な者が直接お出しするなんて、そんな差し出がましいこと……。やはり、婚約者であるお姉様の手から差し上げるのが、一番喜ばれると思いますわ」


今思えば、あの時の彼女の笑顔は、獲物を待つ蜘蛛のように不気味だった。


私は茶葉を受け取った。「ありがとう、エミリア。私、これをヴィルヘルム殿下にお出しするわね!」なんて、馬鹿みたいに顔を輝かせて。


その結果、何が起きたか。


殿下にとって猛毒となる〈銀雪花〉の含まれる紅茶を、私が「自ら選んだ」と言って差し出し、王家への不敬罪を擦り付けられた。あの瞬間の、周囲の凍りつくような視線。ヴィルヘルム殿下の、失望しきった顔。


今思い返せば、私が茶を振る舞う直前、エミリアは「お姉様が選ばれた、特別なお茶ですの」と周囲に促していた。


あれは単なる紹介などではなく、何が起きても私の責任だと衆人に印象付けるための、完璧な根回しだったのだ。


それに対して私は、あろうことか無邪気にこう付け加えた。


「ええ、私が選んだのです。最高級の紅茶ですの、皆様もいかが?」


(今思い返せば……あの時の私は、本当に考え無しのアホね!)


あのあと、エミリアは涙ながらに私へ謝罪してきたけれど、あれも全部演技だったに違いない。

彼女は最初から、あの茶葉の危険性を知っていたのだ。そのうえで、私に「自分が選んだ」と言わせ、罪をなすりつけるつもりで紅茶を薦めてきたのだろう。


「私が選んだ」と言ってしまった手前、無実を訴えることもできず、私はただ震える唇を噛みしめることしかできなかった。


「エミリアが持ってきた茶葉なの!」なんて今さら叫んだところで、「自分が選んだと見栄を張っておきながら、不手際が起きた途端、妹に罪をなすりつけるのか」と軽蔑の目で見られるのがオチだ。


あの茶葉の中には、〈銀雪花〉が仕込まれていた。

数百年前、王家を呪った魔導師が作り上げた、王族の血筋にだけ反応して血管を凍らせる禁忌の毒。

何も知らなかった私は、殿下にその茶を捧げた。


一口、彼がそれを含んだ途端。

ヴィルヘルム殿下は苦しげに胸を押さえ、真っ白な顔でその場に蹲った。


含まれていた量が僅かだったため大事には至らなかったけれど、お父様からはこっぴどく叱られたし、我が公爵家の評判もガタ落ち。


「殿下の体質も把握していない、配慮の足りない婚約者」

そんな冷ややかな視線が、しばらくの間、私につきまとったのだ。


(……二度も、あんな情けない思いをするのは真っ平だわ)

私は深く息を吐き出し、震えていた足を、一歩前へ踏み出した。

隣に立つユリウスを見上げる。彼は、私の突然の心境の変化を測りかねているのか、静かに私の次の言葉を待っていた。


「ユリウス」

「はい、ロザリア様」

「今すぐ、一番のお気に入りのドレスを準備して。……そうね、あのヴィルヘルム殿下の瞳の色と同じ、深い青のシルクがいいわ。最高に私を輝かせてくれるやつを!」

「……それは構いませんが、間に合わせるにはかなり急ぐ必要がありますよ?」

「分かってるわよ。だから、貴方が着せて」


ユリウスが、一瞬だけ珍しく虚を突かれたように目を瞬かせた。

令嬢の身支度は侍女が行うのが普通だ。けれど、今の私には一刻の猶予もないし、何より、この「戦場」へ向かうための鎧を任せられるのは、世界中で彼しかいない。


「お父様に叱られる前に、完璧な私を仕上げなきゃいけないの。ユリウス、貴方の腕を信じていいわよね?」


私が挑むような笑みを向けると、彼はすぐにいつもの冷静さを取り戻し、フッと僅かに口角を上げた。


「……承知いたしました。一秒の無駄もなく、貴女を完璧な公爵令嬢に仕上げてみせましょう。」


彼が私の手を取る。白手袋越しの温もりが、今度は不思議と、私の闘争心に火をつけた。


さあ、エミリア。

貴女が用意した「最高のおもてなし」を、最高の形でお返ししてあげるわ!

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