あぶり出しです、ロザリア様。
「はぁ!? 私がスパイをあぶり出すですって?」
リネン室の隅で、リィナは持っていたシーツを落とさんばかりに目を見開いた。目の前に立つ執事は、冷徹さを湛えたまま、微塵も表情を崩さない。
「ええ。貴女は口が回り、他人の懐に入るのが上手い。……そして何より、ロザリア様を案じる『正義感』がある。適任ですよ」
「おだてても何も出ないわよ。それで、もう目星はついてるの?」
「……現在、スパイの疑いがあるのは三名。……まず、掃除係のハンナ。彼女は最近、ギャンブル好きの父親の借金が完済されたようですが、その資金源が不明です。主人の部屋を掃除する名目で、書類の盗み見が容易な立場ですね。
次に、厨房係のジェシカ。彼女はエミリア様の食事を運ぶ担当でもないのに、頻繁に東離れ……エミリア様の居室付近で目撃されています。食事の運搬を口実に、情報の受け渡しを行っている可能性があります。
そして最後は、洗濯係のサラ。……彼女は最近、不相応に高価な香油を買い求めていたそうですよ。」
「偵察済みってわけね。それで、私にどうしろって言うの?」
ユリウスは無機質な手つきで、三つの小さなメモを差し出した。
「『情報の毒見』です。スパイの疑いがある三人のメイドに、それぞれ別々の『嘘のスキャンダル』を流してください。誰がエミリア様に情報を売ったか、一発で判別できます」
リィナはその内容に目を落とし、顔を引き攣らせた。
「……ちょっと、ユリウス。最後のこれ、悪意がない?」
「いいえ。最も『信憑性が高い』ものを選んだまでです。さあ、時間です」
◇◇◇
翌日、屋敷の空気はどこかざわついていた。リィナはユリウスの指示通り、三人のメイドに「極秘よ」と前置きして毒を蒔いた。
ハンナには「隣国の王子との極秘文通」。
ジェシカには「高価な花瓶を割って隠蔽した罪」。
そしてサラには――。
数時間後の晩餐会。食堂には、カトラリーが皿に当たる硬質な音だけが響いていた。
ふと、エミリアが唇の端を吊り上げ、ワイングラスを置いた。その瞳は、獲物を追い詰めた蛇のように爛々と輝いている。
「あら、お姉様。最近お忙しそうね? まさか、夜な夜な慣れない針仕事で、誰かさんへの『お守り』なんて作っているんじゃないでしょうね?」
ロザリアの手が止まる。エミリアは勝ち誇ったように身を乗り出した。
「お父様に知られたら大変だわ。執事に恋い焦がれてお守りを手作りするなんて、公爵令嬢としてあまりに端したないんですもの……!」
(……ビンゴ。サラ、貴女だったのね)
ロザリアは沸き立つ怒りを優雅な仕草で抑え、背後に控えるユリウスへ、一瞬だけ視線を送った。
ユリウスは満足げに、しかし冷酷に口角を上げた。その表情は、罠にかかった獲物を観察する捕食者のそれだった。




