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凶兆です、ロザリア様。

「ユリウス、リィナが何かを知っているかもしれないわ。」


私の突然の言葉を、ユリウスは無表情のまま受け止めた。


「ほう、ロザリア様。それも『未来の知識』でございますか」

「……彼女は半年後、この屋敷をクビになる。それも不可解な理由で。……ユリウス、あの子が何かをやらかしてクビになるような子に見えるかしら?」


ユリウスは注いでいた紅茶の手を止め、銀のポットを静かにトレイへと戻した。

そしてふっと短く息を吐くと、いつもの懃懃無礼な態度を崩さぬまま、けれど少しだけ声を低めて応じた。


「……いいえ。リィナは口こそ悪いですが、仕事に対しては潔癖と言えるほど誠実です。彼女が不始末で解雇されるなど、私の管理下では万に一つもあり得ません。……もし彼女が屋敷を追われるとするならば、それは本人の過失ではなく、『存在が不都合になった』時だけでしょうね」

「そう。だからこそ、彼女が今何を見ているのか、私は知らなきゃいけないのよ」

「……左様ですか。承知いたしました」


ユリウスは一礼し、ワゴンを引いて部屋を出ようとした。


「後で確認しておきましょう。今は、冷めないうちにその紅茶をお飲みください」


◇◇◇


ロザリア様の部屋を辞し、静まり返った廊下を歩く。

背後で閉まった扉の向こう、あのお転婆な主が今頃はリィナが用意したジャムを頬張っている頃だろう。


「……何かを知っている、か」


独りごちた言葉が、冷たい壁に吸い込まれていく。

昨夜の舞踏会。伯爵にまで「誠実だ」と言わしめた彼女の成長は、私の想像を遥かに超えていた。だが、光が強くなれば、その分だけ影の蠢きも増す。


私は使用人の待機所ではなく、屋敷の裏手、備品庫の近くにあるリネン室へと向かった。

そこには、先ほど逃げ出したはずの金髪サイドテールの侍女が、山積みのシーツを前に呆然と立ち尽くしていた。


「リィナ。サボりか」


声をかけると、彼女は肩を跳ねさせ、ひどく面倒そうな顔で振り返った。


「……ユリウス。心臓に悪いから、背後に音もなく立つのはやめてもらえる?……それに、失礼ね。サボりじゃないわ、分別の最中よ。」

「そうか。それはさておき、先程は助かった。……少々、刺激の強いお目覚めに付き合わせることになったようだが……お陰で私は旦那様との用件に集中できた。手間をかけさせたな、リィナ」


私は壁に背を預け、腕を組んだ。

リィナとは、この屋敷の古株同士、あるいは「まともな感覚」を共有する数少ない同僚としての気安さがある。……何より、物事を斜めから見る冷めた空気感や、周囲の熱狂に同調しない可愛げのなさがどこか自分に似ていると思う。


「……礼なんていいわよ、あんたの代わりなんていつものことでしょ。……それより、ロザリア様のあの豹変ぶりは何? 急に私の肩を掴んで、あんな必死な顔をして。……ねぇ、ユリウス。あの方、最近本当におかしいわよ。まるで中身が入れ替わったみたい」

「成長、と言って差し上げろ。それで……お前は一体、何を見たんだ」


冗談めかした口調を捨て、私は視線を鋭くした。

リィナは一瞬、言葉を呑み込み、周囲の気配を伺うように目を泳がせた。


「……エミリア様よ」


その名は、もはや今のこの屋敷では不可侵の聖域。

だが、リィナの瞳には敬意など一欠片もなく、代わりに底冷えするような嫌悪が宿っていた。

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