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見せつけるのです、ロザリア様。

宮廷晩餐会の夜。会場となる王宮の大広間は、数千のキャンドルと魔法具の光に照らされ、まるで星を地上にぶちまけたような輝きに満ちていた。


「……準備はよろしいですか、ロザリア様」


馬車の扉が開く直前、隣に座るユリウスが低く囁いた。


「ええ。……見てなさい、ユリウス!」


私はユリウスの手を借りて馬車を降りた。その瞬間、周囲の貴族たちの視線が一斉に突き刺さる。

会場の入り口で待ち構えていたクロムウェル伯爵が、私の姿を見た瞬間に目を見開いた。


「……おお……! これは、なんという……!」


彼が絶句したのも無理はない。

深海を切り取ったかのような、重厚でいてどこか透き通るような紺碧のドレス。その美しい絹地に、エミリアが付けたインクのシミは跡形もない。

それどころか、ユリウスの手によって、シミがあった場所には銀糸と小粒の真珠で繊細な「凍てつく薔薇」の刺繍が施され、歩くたびに月光を反射して幻想的に煌めいていた。当初の完璧なドレスをさらに凌駕する、唯一無二の芸術品へと昇華されていたのだ。


「ロザリア嬢……貴女は、会うたびに私の想像を超えてくる。その装い、そしてその堂々たる佇まい。……まるで、冷徹な美しさを纏った女王のようだ…」

「もったいないお言葉です、伯爵。今夜はお招きいただき、心より光栄に存じます」


私は完璧なカーテシーを披露した。エルナ様の地獄の特訓で叩き込まれた、指先一つ、背筋の一本まで神経の行き届いた動作。その出来は我ながら、誕生祝賀会のときのものを上回る出来だったと思う。


周囲からは「あのお嬢様は誰だ?」「エーデルハイト家の出来損ないの長女……!?」「誕生祝賀会の噂は本当だったのだな…」という驚愕の囁きが波のように広がっていく。


(エミリア。あなたが泥を塗ろうとしたこのドレスが、私を一番高くへ連れて行ってくれるわ)


私は、クロムウェル伯爵の差し出した腕に手を添えた。


「さあ、今夜の主役は貴女だ。社交界の古臭い連中に、本物の輝きというものを教えてやってくれ」


伯爵の豪快なエスコートで、私は大広間の中央へと進み出た。


伯爵とのダンスは、まさに圧勝だった。彼の豪快なリードに合わせ、私は一点の曇りもない完璧なステップを刻み、会場の空気を「エーデルハイト家の長女」の色に染め上げてみせた。


踊り終え、会場中が熱を帯びた拍手と囁きに包まれる中、ふっと音楽が止まる。

広間の入り口から、ひときわ重厚なファンファーレが鳴り響いた。


「第一皇子、ヴィルヘルム殿下のお出ましである!」


会場の視線が入り口へと吸い寄せられる。

そこに現れたのは、金糸の刺繍が施された白磁の軍服を纏った、私の婚約者――ヴィルヘルム殿下だった。


殿下の視線が、群衆をかき分けて私を射貫く。

殿下はゆっくりと私の方へ歩み寄ると、戸惑いを隠せない様子で右手を差し出した。


「……ロザリア。噂には聞いていたが、本当に見違えたな。その……今夜の君は、ひどく美しい」

「お褒めに預かり光栄です、殿下」


私はあえて淡々と、形式通りの微笑みを返した。

殿下は少しだけ眉を寄せたが、すぐに取り繕うように、半ば独占欲を隠さない強引さで私の手を引いた。


「次の曲は僕と踊ってもらおう。婚約者が他の男とばかり踊っていては、僕の面目が立たないからな」


奏でられ始めたのは、宮廷で最も格式高い「宝石の円舞曲」。

殿下の手が私の腰に添えられた瞬間、指先から熱が伝わってくるようで、心臓が跳ね上がる。


(……っ、やっぱり、素敵……)


どんな状況であろうとも、この高鳴りだけはどうしようもない。殿下のリードは、クロムウェル伯爵の豪快なものとは正反対だった。羽のように軽く、けれど私を導く意志は力強く、一点の澱みもない。


「ロザリア、これほど踊れるようになっていたとはな。……以前の君は、僕の足を踏まないように必死だったはずだが」


耳元で囁かれる低く甘い声。

見上げれば、キャンドルの光を映した殿下の瞳が、真っ直ぐに私だけを捉えている。その熱を孕んだ眼差しに、私は危うくステップを忘れそうになった。


「……ええ。お恥ずかしいところをお見せしたくなくて、猛特訓をいたしましたの」

「なるほど、その成果は十二分に出ているようだ。……今の君からは、片時も目が離せない」


ぐい、と引き寄せられ、ドレスの生地越しに殿下の体温を感じる。


(ぎゃーーーー!!!)


ドキドキと、自分でもうるさいくらいの鼓動が耳の奥で鳴り響いた。殿下が、あの殿下が!今、私をエスコートし、賞賛の言葉を注いでくれている。

その多幸感に酔いしれ、ふっと意識が宙に浮いたような心地になった。


…しかし、ユリウスが見ている!!


「……ロザリア?急に足取りが力強くなったな」

「これしきでへばるほど、私の積み重ねてきた努力は、決して軽くありませんから!」


私は殿下に微笑み返しつつも、背筋に一筋の緊張を走らせた。

そう、ここで浮かれて失敗でもしたら、明日の朝ユリウスに何を言われるか分かったものじゃない!


「……そうだな。今の君のステップには、一朝一夕では得られない確かな重みがある。ロザリア、君が陰でどれほど自分を律してきたのか……その答えが、今、私の腕の中で証明されているよ」


私は殿下の完璧なリードに応えるように、全身の神経を研ぎ澄ませた。

見守る貴族たちの溜息が聞こえる中、私は殿下の腕の中で、かつてないほどの輝きを放っていた、と思う。

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