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お疲れ様でした、ロザリア様。

え、えぇーーーーっ……!?


一周目では、「礼儀がなっていない」「公爵家の名に泥を塗る」という理由で、お父様から公の場への出席を厳しく制限されていた私。けれど、今、伯爵が口にしたのは宮廷晩餐会――舞踏会も併設される、国でも最大級の華やかな夜会だ。


そこには当然、私の婚約者であるヴィルヘルム殿下も出席される。


当然興味はある。けれど、頭の中では「無理無理無理!」と警報が鳴り響いている。大恥をかいて、殿下に呆れられる未来しか想像できない。


「……あ、ありがとうございます、クロムウェル伯爵。……でも、私のような行き届かない者が、そのような大きな場に……。お父様からも、私はまだ淑女としての教育が足りないと言われておりますし……」


私は困惑と期待が入り混じった、震えるような声で答えた。これは演技半分、本音が半分だ。


「はっはっは!教育だと?貴女ほどの機転が利く女性に、これ以上何の教育が必要だというのだ。公爵、そんな古臭い考えは捨てろ。私がエスコートするんだ、文句など誰にも言わせん!」


伯爵の力強い言葉に、お父様はタジタジになりながらも、「……伯爵がそこまで仰るなら」とついに折れた。


(え、えええ……!? あ、あれー……?)


なんだか、断る隙もないまま、とんでもない方向に話が転がっている。


「ハッハッハ! 決まりだ! 公爵、世界で一番美しいドレスを用意させろ。費用など気にするな!」


伯爵の豪快な笑い声と、お父様の「は、はあ、承知いたしました……」という力ない返事が食堂に響く。

周囲の使用人たちも、「あのロザリア様が、あの晩餐会に……?」と、驚きと期待が入り混じったような視線を私に送っている。


(無理無理無理!あの社交界の戦場に、こんな未熟な私が行くなんて……!)


断らなきゃ。でも、伯爵のあの期待に満ちた目。そして、やっと私を認めてくれたお父様の顔。

何より、会場で殿下にお会いできるかもしれないという誘惑が、私の喉元まで出かかった辞退の言葉を飲み込ませる。


「……そ、そこまで仰っていただけるなんて……光栄、ですわ。……わたくし、精一杯……努めさせていただきます……」


周囲の凄まじいプレッシャーに負け、私は引きつった笑みを浮かべながら、消え入りそうな声で受諾してしまった。


「ハッハッハ!いやあ、今日は実りある食事会だった。公爵、貴殿は宝の持ち腐れをしていたようだが、これからはこのロザリア嬢を大切にすることだな!」


伯爵はそう言い残すと、満足げに席を立った。

嵐のような喝采とプレッシャーを残して、彼は豪快な足取りで食堂を後にする。


それを見送った瞬間、張り詰めていた空気が一気に弛緩した。


お父様は深い溜息をついて椅子に沈み込み、エミリアはもはや幽霊のような顔で立ち尽くしたまま。私はといえば、さっき勢いで「努めさせていただきます」なんて言ってしまった自分を、今さらながら呪いたい気持ちでいっぱいだった。


(……どうしよう。言っちゃった、本当に言っちゃったわ。宮廷晩餐会なんて、一周目の私だったら絶対に逃げ出してたレベルの戦場じゃない!)


思考がグルグルと空回りし始め、冷や汗が背中を伝います。

そんな私の動揺を、隣の影が見逃すはずもなかった。


「……お疲れ様でした、ロザリア様。実に見事な立ち回りでございました。」


ユリウスが、私の指を包んでいたナプキンを静かに解きながら言った。腫れは引き始めている。


「さて、旦那様。ロザリア様は少々お疲れのようですし、指の怪我もございます。……今夜はこれにて、私が責任を持って自室へお送りいたしましょう」

「あ……ああ、そうだな。頼む、ユリウス」


お父様の頼りない返事を聞くや否や、ユリウスは私の背を支えるようにして歩き出した。

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