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出し抜きましたね、ロザリア様。

「そ、そう……そうですわ!お父様!私、お姉様に温かいスープを飲んでいただきたくて……!知識が足りなくて、こんなことになってしまって……っ!」


エミリアは必死の形相で縋り付いた。

それは、彼女が「自分は淑女の教養すらままならない、ただの無知な娘です」と、伯爵の前で公式に認めた瞬間だった。


「……ふん。無垢な善意、か」


伯爵が鼻で笑う音が、静まり返った食堂に冷たく響いた。

その視線には、先ほどまでのロザリアに対する敬意とは対照的な、ゴミを見るような蔑みが混じっている。


「公爵、貴殿の次女は、どうやら魔法の基礎どころか、一般常識すら怪しいようだな。……そんな危うい者を、外交の場に同席させるとは。私の命がいくつあっても足りない」

「も、申し訳ございません、伯爵……っ!」


お父様の顔は、怒りと恥辱で真っ赤に染まっていた。


「……それに比べて、ロザリア嬢。貴女のその寛大さと、身内を庇う際の機転……。よもや、これほど見事な『聖母』にお目にかかれるとは思わなかった」


伯爵はそう言うと、手にしたグラスを私に向けて軽く掲げた。


「無知な妹の不始末を、愛という名の毛布で包んで隠して見せるとは。……ハッハッハ! ふむ、気に入ったぞ!」


それまでの冷徹なまでの静寂が嘘のように、伯爵が豪快に笑い声を上げた。

彼は手にしたワインを一気に煽ると、テーブルを拳で軽く叩き、まるで戦友を見つけたような愉快げな目で私を射貫いた。


「いいか、公爵。お行儀のいいだけの人形なら掃いて捨てるほどいるが、これほどまでに聡い令嬢はそうそういないぞ。……ロザリア嬢、貴女のその損得勘定抜きでの献身、嫌いじゃない。いや、むしろ私のような薄汚い商売人には、その眩しすぎるほどの高潔さが、何より信頼できるというものだ!」


(……!?)


恐らくこの場にいた全員がそう思っただろう。先ほどまで冷徹な刃のような眼差しで、こちらを品定めするように食事をしていた「鉄面皮の伯爵」は一体どこへ消えたのやら。


「公爵! 次の交渉からは、このお嬢さんを私の正面に座らせてくれ。無能な飾り物との退屈な茶会はもう御免だ。……このロザリア嬢となら、国の一つや二つ、面白く動かせそうだ!」

「は……っ、ははっ、承知いたしました、伯爵……!」


お父様は伯爵のあまりの豹変ぶりに呆然としながらも、必死に頷いている。


「……あ、ありがとうございます、クロムウェル伯爵。……そのような、私には勿体ないほどのお言葉をいただけるなんて」

「はっはっは! 謙遜することはない。その若さでそれほどの慈悲と胆力、末恐ろしいほどだ。公爵、貴殿は本当に果報者だな!」


伯爵の豪快な笑い声が響く。エミリアは青白い顔で俯いていた。


「……公爵、決めたぞ。来月の宮廷晩餐会、ロザリア嬢を私の同行者として招待したい。もちろん、殿下も出席されるあの場にな」


伯爵のその一言に、今度こそ食堂が静まり返った。


同行者。それは単なる客分ではなく、伯爵がその人物の価値を全面的に保証し、自らの陣営として紹介するという宣言に他ならない。

お父様は口を突き開けたまま固まり、ユリウスの瞳が鋭く細められる。


「伯爵……それは、あまりにも光栄な……。ですが、ロザリアはこれまで社交界へはあまり出しておりませんし、当日は第一皇子殿下も出席される公の場。不慣れな娘を出すのは、少々……」


お父様が恐縮しながら難色を示すが、伯爵はそれを鼻で笑い飛ばした。


「だからこそだ!これほど聡明で、慈悲深い令嬢を屋敷に閉じ込めておくなど、公爵、貴殿の怠慢以外の何物でもないぞ!殿下だって、自らの婚約者がこれほどまでに素晴らしい女性だと知れば、さぞ驚き、喜ばれるはずだ」


伯爵はそう言うと、椅子から立ち上がり、熱のこもった瞳で私を見つめた。


「ロザリア嬢。貴女のような光は、広い場所で輝いてこそ価値がある。この私がエスコートし、社交界の連中に、そして殿下に、本物の『公爵令嬢』というものを見せつけてやりたいのだ。どうだ、私の手を取ってくれないか?」

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