良い出来です、ロザリア様。
暫くして、食事が運ばれてくる。
ユリウスは、私の斜め後ろに影のように控えている。
その存在を感じるだけで、背筋が自然と伸びる。彼にだけは、絶対に「無様」だと思われたくない――あれほど練習したもの!
その一心で、私は完璧に、冷徹なまでに美しい所作でナイフを動かした。
テーブルに置かれたのは、季節の野菜を添えた繊細な魚料理。
カチャリ、と微かな音さえ立てさせない。銀食器の角度、ソースを掬い上げる量、咀嚼する際の口元の動き。そのすべてが、ユリウスに叩き込まれた「完璧」の基準に沿っているかを、神経を研ぎ澄ませて確認する。
伯爵は、私の手元を品定めするようにじっと見つめていた。
「……作法も申し分ない。かつて貴女について耳にしていた噂とは、随分と印象が違うようだ」
「噂、ですか? まあ、光栄ですわ。ですが私はただ、自分に相応しい振る舞いを心がけているに過ぎません」
手元の動き、視線を向ける角度。すべて練習し尽くした、『最上級に美しく見える動き』だ。
次の料理が運ばれてくる頃、伯爵は再び口を開いた。
「……素晴らしい。ロザリア嬢。これほどまでのマナーを、一体どこで身につけた?」
私は、背後に立つ「悪魔のような家庭教師」を意識しながら、最高の微笑みを浮かべた。
「……先生に、厳しく……。ええ、それはもう、嫌になるほど厳しく叩き込まれましたので」
「ふむ。……気に入った。今の貴女なら、私が預けている資金を無駄にすることはないだろう」
勝利の予感に、胸が熱くなる。
けれど、その時だった。
「失礼いたします。本日の一皿、地鶏のエッセンスを凝縮いたしました、コンソメ・ド・ボライユでございます。旬の根菜の香りと共にお楽しみください」
黄金色に澄んだコンソメスープが運ばれてきた。
湯気と共に立ち上がる芳醇な香りが食欲をそそるけれど、私は一切気を抜かない。
スープは、淑女の嗜みが最も顕著に表れる鬼門だ。
音を立てないのは当然として、スプーンですくう量、口へ運ぶ角度、そして飲み終えた後にスプーンを置く位置。そのすべてをユリウスの視線が、定規で測るかのように背後から射貫いている。
…しかし、一つだけ想定外の要素が。
その日のテーブルには、いつものスープ皿ではなく、取っ手のついた白磁のカップが並んでいたのだ。
そういえば、一周目のときもこうだった気がする。
容器の形や質感なんて、いちいち意識していなかった。
けれど大丈夫。今の私は前もってユリウスにマナーを『全て完璧に』叩き込まれている。二度と、あの夜のようにはならないわ!
私は一周目のときに、このスープのあまりの熱さに驚き、あろうことか皿をひっくり返して、伯爵を激怒させた。
あれは人生最悪の記憶の一つだ。熱さに慌てて、ドレスにシミをつけまいと身をよじった拍子に、皿が盛大に宙を舞った。ドレスに飛び散った黄金色の液体と、静まり返った食堂、そしてお父様のあの絶望したような顔……。
(……思い出しただけで、指先が震えそうだわ)
けれど、今の私には「知識」がある。
給仕人が皿を置いた瞬間に立ち上る蒸気の密度、皿の縁から伝わる微かな熱量。それらを冷静に観察し、スープの温度を正確に測る。
「……ロザリア様。温度を測るのも、淑女の嗜みです」
特訓の際に聞いた、ユリウスのアドバイスを思い出す。
私は一呼吸おき、昨夜の教え通り、左手をカップの取っ手にそっと添えた。……その時だった。
指先から、脳を突き刺すような熱が走った。
「熱っ……!?」
スプーンの先がわずかにカップの底に触れた瞬間、磁器を通じて伝わってきたのは、およそ飲み物の温度とは思えない苛烈な熱だった。
熱さに驚き、反射的に指先の力が抜けた。取っ手が掌の中でずれる。
―――まずい!!




