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頑張りましたね、ロザリア様。

それから、私は数日間にわたり、ユリウスに地獄の「食事レッスン」を叩き込まれ続けた。

それは正に地獄だった。

あらゆる料理が、私にとっては美味しさを楽しむためのものではなく、彼の冷徹な審美眼をクリアするための「課題」へと成り果てた。


一滴の跳ねも許されないポタージュ・スープ。

薄氷を歩くような慎重さが求められる魚料理の小骨の処理。

そのすべてを「当然のこと」として、優雅な微笑みを浮かべながらこなさなければならない。


「……背筋が丸まっています。あと一ミリ、顎を引いて」

「……今の咀嚼音、私の耳には届きましたよ。やり直し」


ユリウスの指摘は、日が経つにつれて鋭さを増し、私の精神を極限まで削っていった。

夜、ベッドに入ってもなお、耳元で彼の低く冷たい声が再生される。夢にまで彼が出てくる。恐ろしいったらありゃしない。ナイフを持つ手は豆ができそうになり、神経を使いすぎて味覚さえ麻痺しそうになった。


けれど、不思議と「辞めたい」とは思わなかった。

もちろん、彼に「及第点」と言われたまま終わるのが死ぬほど悔しかったのもある。けれど、それ以上に……。


「……また、指先に力が入っています。先ほど教えたはずですよ」


そう言って、ユリウスが背後から私の手に触れる。

「指導」のためだと分かっているのに、彼の手のひらから伝わる確かな熱や、耳元で響く滑らかな声、そして、自分だけを真っ直ぐに見つめるあの鋭い豹のような眼差し。


この地獄のような時間のなかで、彼が私という「素材」を完璧に仕上げようと、誰よりも近くで、誰よりも熱心に私だけに意識を注いでくれている。

その事実が、たまらなく甘く、誇らしく感じてしまうのだ。


(……私、どうかしてるわね)


彼の事務的な手つきに一喜一憂しているなんて、本人に知れたらそれこそ「やり直し」を命じられるに違いない。


そして迎えた、最終レッスンの夜。

すべてのコースを終え、私が最後の一口を飲み込んだ時。

ユリウスは静かにカトラリーを下げ、私の顔を正面から見据えた。

その瞳に、ほんの、本当に一瞬だけ、凍てつくような冷徹さではない、別の光が宿ったのを私は見逃さなかった。


「……お見事でした。これならば、どこの誰に出しても、我が家の誇りを汚すことはないでしょう」

「…ユリウスが褒めた!!」


嘘でしょ!?

あの、氷点下の温度で嫌味を吐き続けることに関しては右に出る者がいない彼が。私のことを「飢えた獣」だのなんだのと呼んでいたあの男が!

あまりの衝撃に、私は淑女の嗜みも忘れて、座ったまま勢いよく身を乗り出してしまった。


「いま、お見事って言ったわよね!?ユリウス、今、確かにそう言ったわよね!?」

「……ロザリア様。喜びのあまり椅子から落ちそうになるのは、せっかくの合格点をドブに捨てるような行為ですよ」


ユリウスは呆れたように眉を寄せると、スッと私から距離を取った。先ほど一瞬見えた気がした「別の光」は、まるで幻だったかのように消え失せ、そこにはいつもの超超超・超冷徹な執事が立っている。


「聞き間違いではございません。しかし勘違いなさらないでください。あくまで、以前の貴女の様子からすれば随分成長した、と申したのです。……それから、声が大きい」

「いいのよ! あのユリウスが認めたんだもの、これなら伯爵だって、社交界の重鎮たちだって怖くないわ!」


私が鼻を高くして勝ち誇っていると、ユリウスは静かにワゴンを押し寄せ、最後の一皿……メニューにはなかったはずの、小さな小さな焼き菓子を私の前に置いた。


「……?これ、デザートはさっき終わったはずじゃ……」

「合格祝い、と言いたいところですが。……この数日間、あまりに必死な形相で食らいついてくるものですから。その疲れが明日の本番で顔に出てもらっては困る、という私からの配慮です」


彼は相変わらず淡々と、事務的な口調で告げた。

けれど、差し出されたそのお菓子は、私が一番好きな、焼きたての甘い香りを漂わせていた。


「さあ、それを食べ終えたら、今夜こそ一睡もさせないなどと言わずに休ませて差し上げます。……明日は、私の隣ではなく、貴女が一人で戦う番なのですから」


ユリウスは一礼すると、今度こそ私の視界から消えるように、優雅な足取りで食堂を去っていった。


(……ユリウス〜〜〜!!)


私はこれ以上ないほどに目をキラキラと輝かせながら、天を拝む。

あんなに冷たくて、厳しくて、生意気なあの毒舌執事が!最後の最後で、私の好物を、しかもあんなに優しい配慮と一緒に差し出してくれるなんて!


ユリウスがデレた!

気が利く!!優しい!!イケメン!!


「もう、なんなのよ〜。本当に、素直じゃないんだから!」


口では文句を言いながらも、緩みきった頬が元に戻らない。

私はユリウスが置いていった焼き菓子を、教わった通りの完璧な所作で、しかし心の中では飛び跳ねるような心地で口に運んだ。

バターの香りがふわりと鼻に抜け、優しい甘さが疲れきった体に染み渡っていく。


数日間、彼に触れられるたびに跳ねていた心臓は、今は別の意味でうるさく脈打っていた。


「……見てなさい。明日は、貴方をあっと言わせてやるんだから」


誰もいなくなった食堂で、私は最後の一口を飲み込み、そっとナプキンを置いた。

背筋を伸ばし、顎を引く。鏡を見なくてもわかる。今の私は、数日前までの私とは違う。

彼が「成長した」と認めてくれたこの姿で、明日は晩餐会へ乗り込んでやるわ!

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