第九話 ダンゴムシさんは必死
朝の校門前に沢山の生徒。
ミツキ「や、ヤベ……。苦手な先生が……。他の子の集団に隠れてやり過ごそう」
コソコソ
アゲハ「ミツキ君」
ミツキ「は、はい~!」
アゲハ「何コソコソしてんのよ!」
ミツキ「門城先輩!し、静かに!」
アゲハ「ん、なに?」
ミツキ「僕、あの先生苦手なんすよ……」
アゲハ「ははーん。それで集団に紛れて、擬態してたわけね」
ミツキ「ま、まあ、そんなとこっす」
アゲハ「我が部の部員ともあろう者が、何と小心者であることか……。先輩として、嘆かわしいわ」
ミツキ「そ、それは言い過ぎっすよ~……」
アゲハ「胸を張りなさい。誇り高き昆虫観察部の一員として、堂々と山のような態度で!まるで自分が強い格闘家であるかのように、態度から変えて行くの!」
ミツキ「態度からっすか?」
アゲハ「その通り、ほら、言ってごらんなさい。あ?やんのかワレ。ワシこの辺じゃ名の通った昆虫観察部のもんじゃけど。ほら、言ってみて」
ミツキ「昆虫観察部は非公式部なんすけど……。キャラじゃないのでやめとくっす」
アゲハ「別にいいじゃーん。つまんないなー。そうだ、ちょっと来て」
ミツキ「なんすか?」
アゲハ「こっちこっち」
***
ミツキ「いつもの花壇じゃないすか。朝からテントウムシさんの観察っすか?」
アゲハ「あ、いたいた。ここを見て」
ミツキ「えっと、ダンゴムシ?」
アゲハ「そそ。知ってる? この子たちは危険を察知したら丸くなるの」
ミツキ「知ってますけど……。それがどうしたんです?」
アゲハ「この子たちがなんで丸くなるか、知ってる?」
ミツキ「殻で身体を守るためだと思いますけども……」
アゲハ「そそ。でも、こんな小さい子達だもん。もし、小鳥たちがこの子たちを食べに来たら、丸くなったってパックリ飲み込まれちゃうね。殻で守れないよね?」
ミツキ「はあ、まあ、そっすね」
アゲハ「だったら殻が固くてもあんまり意味ないかも。なのに丸まって守ろうとする。何でだろうね」
ミツキ「じゃあ、他の虫とかに食べられそうになったときとか?」
アゲハ「アリさんとかに狙われたら、丸まってても、カリカリかじられちゃう。だから、殻で身体を守ってるってのは、正解半分ってとこ」
ミツキ「はあ、どういうことっすか?」
アゲハ「実際の所は、擬態に近いんだよね。石ころとか、動物のフンとかに紛れて、天敵をやり過ごそうとしてるの」
ミツキ「ふーん。なるほどっすね」
アゲハ「そういうこと。クスクスクス」
ミツキ「あの……、何笑ってるんすか?」
アゲハ「天敵をやり過ごそうなんて、さっきのミツキ君みたいだね。クスクス」
ミツキ「むっかー。門城先輩、もしかして、僕をダンゴムシみたいって言ってますか?」
アゲハ「クスクス。ごめんごめん。でも悪い意味じゃないよ? だってこの子たちだって、丸まるときは必死。生死を賭けて、ワンチャン丸まることに望みをかけているんだから」
ミツキ「あの、どういうことっすか?」
アゲハ「頑張って生きようとしてる証拠なんだよ。なんとか、生き伸びて、頑張って生きていこうっていうね。すごい尊い行為だと思わない? ミツキ君もさっきは天敵から逃げるために必死だったんだよ、きっと」
ミツキ「まあ、そうなんすけど。バカにされてるっすね……。やはり……」
アゲハ「ごめんって~。まあ要するに、丸くなるってことは、彼らは必死なんだってこと。でも、そんなことも知らずに、小さい頃、この子達を丸めて遊んだりしてなかった?」
ミツキ「あの、まあ、したこともありますけど……」
アゲハ「うんうん。そういう時さ、面白いなとか、不思議だなとか、可愛いなとか、人によって色々思うじゃない? 今の私は、生きようと必死なんだな、尊い行為だなって思うけど、小さい頃は、可愛いなって思ってたんだ」
ミツキ「まあ、僕もそうだったかもっす」
アゲハ「だからさ、さっきのミツキ君って、なんか可愛いなって……。クスクス」
ミツキ「……無理やり、良いように言おうとしてますよね?」
アゲハ「ちがうよ~。ホントにそう思ったの」
ミツキ「ほんとっすか」
アゲハ「うんうん。なんか縮こまってコソコソしてるミツキ君、ダンゴムシみたいだなって。クスクス」
ミツキ「すっげーバカにされてるっす。確信したっす」
アゲハ「ごめんって~。だって可愛かったの!」
ミツキ「完全に僕の心は閉ざされたっす。アゲハ先輩はイジメっ子っす」
アゲハ「あー、やだー!許してー!ワンチャンくださーい!」
ミツキ「もういっすよ、別に」
アゲハ「うう。わかった!放課後そこの自販機でイチゴオレ買ったげる!」
ミツキ「え、まじすか? やったす」
アゲハ「許してくれる?」
ミツキ「しょうがないっすね。イチゴオレ、楽しみっすから」
アゲハ「よしよし。じゃあ、お姉さんとそこでイチゴオレ飲みながら日向ぼっこしようね」
ミツキ「約束っすよ」
アゲハ「はいはい、じゃあ放課後部室でね~」
ミツキ「うす! また放課後っす!」
アゲハ「はーい、またねー!」
ブンブンと手を振って、
校舎に向かう先輩の笑顔。




