第八話 目立たない蝶々
アゲハ「ミツキ君、今日一緒に帰らない?」
ミツキ「え、うす!一緒に帰りたいっす!」
アゲハ「ちょっと回り道になってもいい?」
ミツキ「も、もちろんっす!」
***
ヒラヒラ
アゲハ「見て、キャベツ畑にモンシロチョウ」
ミツキ「あー、本当っすね」
アゲハ「春の訪れ。モンシロチョウが現れたら、春が来たって思わない?」
ミツキ「そうです……ね」
アゲハ「ん……? はっきりしない返事ね……」
ミツキ「意識したことがなくて……」
アゲハ「情緒があるんだけどなぁ。ヒラヒラって飛んで可愛いし。日本の代表的な蝶々だけどなぁ」
ミツキ「アゲハチョウとかの方が有名じゃないですか?」
アゲハ「まーね。でもアゲハチョウが彩られた美人なら、モンシロチョウはすぐ側にいる可愛い子って感じかな?よく見るから目立たないけど、かわいーけどなー」
ミツキ「そっすか? 意識したことなかったっす」
アゲハ「なんてこと……。いるんだよねぇ……、女優やアイドルみたいな整った美人を見すぎて、それが女子の見た目の基準であるかのように勘違いしている愚かな男が……」
ミツキ「は、はあ……」
アゲハ「まさかミツキ君が、そっち側の人間だったとはね。軽蔑するわ」
ミツキ「ま、待ってください!それは誤解っす!」
アゲハ「たった二人しかいない部なのに、これは致命的。わかるかしら、今、あなたと私の間には、見えない城壁が建設されようとしている事実に」
ミツキ「それはマズイっす!絶対に阻止しないとっす!」
アゲハ「もう無理よ。一夜もせずに城は建てられる。堅牢な城が」
ミツキ「絶対に攻め落とさねば……」
アゲハ「この城の、目と鼻の先は君の領土。もう君が、我が部の中で存続できる面積はごく小規模。土地を完全に取り上げられるのは時間の問題ね」
ミツキ「ぐぬぬ」
アゲハ「このまま攻め落としても良いのだけれど、そうね、一度だけ弁解のチャンスを与えましょうか?」
ミツキ「もらいます!そのチャンス!」
アゲハ「なら教えなさい。女優などの有名な美人以外でも、可愛いと感じる人はいるのか? それは誰か?」
ミツキ「は、はい!?」
アゲハ「答えなさい、愚かな人間よ。そういう人が身近にいるのかどうかを」
ミツキ「い、いるっす……」
アゲハ「え!? 本当? 気になっている子がいるんだ、ミツキ君!」
ミツキ「はあ……、まあ……」
アゲハ「どこの子!? クラスの子? その子可愛いの? どの辺が気に入ってるの?」
ミツキ「の、ノーコメントっす!!」
アゲハ「教えてよー!」
ミツキ「絶対に嫌っす!」
アゲハ「はあ、せっかく面白い感じだったのに。まあいいわ。でもね、気になっている子がいたとしても、その子を美化し過ぎてはダメよ?」
ミツキ「え、どう言うことっすか?」
アゲハ「例えばさっきのモンシロチョウだって、目立たないチョウって言う可哀想な面もあるけど、実際にはもっと辛辣。キャベツ農家さんからすれば、作物に卵を産みつける害虫扱い。見たことない?こんくらいの小さいミドリの幼虫」
ミツキ「なんとなくわかるっす。あれってモンシロチョウの幼虫だったんすか?」
アゲハ「そうだよ? 農家さんからすれば害虫、大抵の人にとっては目立たない蝶々」
ミツキ「良いとこナシじゃないすか……」
アゲハ「でも、モンシロチョウには、花の花粉を運んだりして、植物たちの役に立ってたりするんだから、迷惑ばっかりかける害虫ってわけでもないの」
ミツキ「そうなんすね」
アゲハ「すごくもないし、迷惑も掛けるし、でも役立つ時だってあるし、目立たないけど、可愛いって言う人もいる。つまり、よくいる普通の蝶々ってわけ」
ミツキ「は、はあ……」
アゲハ「愛してあげなよ。君が気になってる、その子の長所も、短所も」
ミツキ「そっすね……。短所も含めて、その人っすからね……」
アゲハ「あら、素直ね。よろしい、城壁の建造は中止してあげます」
ミツキ「や、やったっす!」
アゲハ「で? 誰なの、その気になってる子。お姉さんに教えなさい!」
ミツキ「い、言えないっす!」
アゲハ「なんでー!」
ミツキ「い、いつか、言いますから!今じゃないっす!」
アゲハ「なにそれー」




