アブが母になるための儀式
アゲハ「ねえ、ミツキ君。温かくなってきたし、そろそろ二人でお出かけしない?」
ミツキ「え!? そ、それって……、デー……ットっすか……」
アゲハ「デー? え、何?」
ミツキ「いや、あの、先輩と僕がお出かけするって話ですよね……?」
アゲハ「嫌?」
ミツキ「全然!嫌じゃないっす!!」
アゲハ「OK。それじゃ、今日これから出発でどう?」
ミツキ「う、うっす!あ、あの、何処に行くんですか?」
アゲハ「もう行くとこ決めてるんだ~」
ミツキ「わかりました!ついて行くっす!」
アゲハ「はい、それじゃ出発!」
ミツキ「イエス!インセクト!」
***
アゲハ「はい、着きました。学校裏の林です」
ミツキ「あの、先輩、どこかに遊びに行くんじゃないですか?」
アゲハ「遊び? 遊びと言えば……遊びとも言えなくないけど」
ミツキ「あの、ここには何をしに……?」
アゲハ「よくぞ聞いてくれたわ。それはね、ここにどんな虫さんが居るかの視察です!」
ミツキ「……部活っすか?」
アゲハ「え、そうだけど」
ミツキ「そっすか……」
アゲハ「ん? まあ、いいか。春の林には、虫がいっぱい!たくさんの動植物がひしめき合い、それぞれの生活を歩んでいる。いわば大都市ね」
ミツキ「はあ……。もう何でもいいですけど」
ブゥゥン……
アゲハ「ミツキ君!危ない!」
ペシッ!
アゲハ先輩が何かをはたく。
ミツキ「ど、どうしたんです?」
アゲハ「この大都市の中、早速良くない出来事に出会ってしまったわね。血を吸い、皮膚を腫らせ、激痛を与える、生き血を求める吸血の母。子を欲する本能の渇望に」
ミツキ「え?なんて?」
ブゥゥン……
アゲハ「伏せて!」
ミツキ「うわわ」
ブゥゥン……ピタ……
ミツキ「う、うわあ!でかいハエが腕に!!」
アゲハ「ウチの後輩はやらせないわ!」
ぴしっ!
ミツキの腕についた虫をデコピンで飛ばす。
ミツキ「あ、ありがとうございます!門城先輩!」
アゲハ「あれは、アブのメスね」
ミツキ「アブ?」
アゲハ「アブのメスは、産卵の栄養を得るために、動物の生き血を吸うのよ。母になることを求め、他者の血を飲む。それこそがアブが母へなるための儀式」
ミツキ「儀式って……」
アゲハ「ここにはそんなメスたちが沢山いるようよ。下がっていなさい。これは女たちの戦い。母になる覚悟がある者に、ひ弱かつ弱男のミツキ君では勝てないわ」
ミツキ「弱男……、そんな風に見てたんすね。あれ、なんか、目じりの端から塩水が」
ブゥゥン……
ミツキ「うわ!また来た!」
アゲハ「危ない!!」
ミツキに抱き着いてアブを回避。
ミツキ「ももも、門城先輩!」
アゲハ「何してんの!ぼーっとしてたら、一撃で持って行かれるわ!」
ミツキ「す、すいま……。なんかコレ悪くないかも」
アゲハ「何か言った?」
ミツキ「な、なんでもありません!」
ブゥゥン……
ブゥゥン……
アゲハ「まずいわね。周囲をアブたちが飛び回っている。キリがないわ」
ミツキ「あ、あの、どうすれば」
アゲハ「こうなったら!」
脱ぎ脱ぎ……
アゲハ先輩がおもむろにセーターを脱ぐ。
ブラウスでハッキリと形が見えるアゲハの体形美。
ミツキ「も、門城先輩!?」
アゲハ「ほら、君も脱ぎなさい!」
ミツキ「ぬ、脱ぐんですか!? ここで!?」
アゲハ「そうよ!早く!」
ミツキ「なんで!?」
アゲハ「さっさとしなさい!」
ミツキ「も、もうどうにでもなれ!」
ベルトを外そうとカチャカチャ。
アゲハ「きゃ!?な、なにしてんの!?」
ミツキ「え、門城先輩が脱げって……」
アゲハ「上着のセーターだ!バカ!」
ミツキ「す、すいません!」
脱ぎ脱ぎ
ミツキ「ぬ、脱ぎました!」
アゲハ「よし!セーターで仰いで風を起こせ!!」
ミツキ「は、はい!」
ブンブン
アゲハ「いい感じ!」
ミツキ「あ、あの、これは、何を?」
アゲハ「アブのような虫は、風を当てられたら思うように飛べないのよ。だからコレで追い払う!」
ミツキ「なるほど……。ブンブン」
アゲハ「ミツキ君、背中は預けたわよ!君は後ろに注意を!私は前を!そして、ここから逃げる!」
ミツキ「う、うっす!」
ブンブン
アブが風に揺られて、逃げて行く。
アゲハ「哀れな者ども。先ほどの威勢はどうしたのかしら。こちらが強者とわかれば、途端に尻尾を撒いて逃げ出す。あなた達の覚悟など、その程度なのね」
ミツキ「せ、先輩、早く逃げましょう!」
アゲハ「ええ、もうすぐ林を抜けれるわ!希望はすぐそこよ!」
ミツキ「う、うす!」
ブンブン
セーターを振りながら。
背中合わせで林を進む。
アゲハ「よし!日当たりのいい場所に来た。ここまでくれば大丈夫ね」
ミツキ「はあ、はあ、林、怖いっす……」
アゲハ「今の私たちの装備で挑むには、このダンジョンは難易度が高い。出直しましょう」
ミツキ「は、はあ、また来るんすか……」
アゲハ「ええ。今回は私の判断ミス。悪かったわ、ミツキ君」
ミツキ「い、いえ、大丈夫っす……」
ミツキ(案外、悪くなかったような……ドキドキ)




