第六話 クマバチのチャンピオン
アゲハ「ふわわ~。ナナホシさん~、きゃわ~」
ミツキ「今日も花壇にいるんすね」
アゲハ「春は短し、推しは推せるときに推せ。今がその時なの。わかるでしょ?」
ミツキ「推したことがないので…」
アゲハ「それは可哀そうに。ミツキ君は人生の大半を損しているんじゃないかな?」
ミツキ「は、はあ。そんなことないと思いますけど……」
ブィーーーーン!
ミツキ「わ、なんだ!?」
アゲハ「クマバチさんね」
ミツキ「は、ハチ!? 危ないですよ!」
アゲハ「大丈夫。彼はオスだから」
ミツキ「オスだから大丈夫?」
アゲハ「見て。顔に黄色い部分があるでしょ? クマバチさんのオスには針は無いの。見た目が大きいから勘違いされがちだけど、とっても温厚なんだ~」
ブィーーーン!
ミツキ「う、うわわわ。こ、怖いですよ!」
アゲハ「仕方ないじゃない。ここは彼の縄張りっぽいし。あ……、あれを見て」
ミツキ「あ、またハチが」
アゲハ「顔に黄色い部分が無い。あれはメス。メスは針を持っているから注意ね」
ミツキ「注意も何も……。ここ、怖いから離れましょうよ」
アゲハ「嫌よ。もう少しナナホシさんを見ていたいの~」
ミツキ「じゃ、じゃあ、僕はこれで……」
アゲハ「あ、見て。もう一人クマバチさんのオスが」
ブイーーーン!
ミツキ「うわわ」
アゲハ「これは……挑戦者ね」
ミツキ「挑戦者?」
アゲハ「ええ。花畑は多くの虫さんたちが輝くステージであると共に、男女の出会いの舞台という側面もある。メスがいれば、それを口説くオスがいるのは自然の摂理。クマバチさんだって同じこと」
ミツキ「は、はあ……。あの、挑戦者って?」
アゲハ「クマバチさんのオスはね、自分の恋の舞台を邪魔されないために、他のオスを追い出すの。戦ってね」
ミツキ「そ、そっすか……」
アゲハ「あ、早速はじまったわ。クマバチさん同士の譲れないバトルが」
オスクマ「ブイーン……」
挑戦者クマ「ブイーーーン」
ミツキ「えっと、向かい合って飛んでますね……」
アゲハ「睨み合い。それは始まりのゴング。そして始まる男同士のプライドをかけたバトル。勝ったものに与えられるのは、この花畑の支配、そして栄誉、そして女」
ミツキ「女……」
アゲハ「勝てばチャンピオン。この花畑を支配するチャンピオンは、ここに居るメスから見られる機会を得られる。そんな羨ましい状況を見て、いつかは俺も花畑の支配者に。そういう挑戦者もたくさんいるわ」
ミツキ「は、はあ……」
アゲハ「チャンピオンはかっこいい……、で、でも~、あの挑戦者もかっこよくない? ど、どうしよう~、私、どっちも好きかもー!」
ミツキ「あの、門城先輩、急になんすか……?」
アゲハ「そこで見ているメスの気持ちを代弁したの」
ミツキ「代弁っていうか……、妄想ですよね?」
アゲハ「あ、チャンピオンが!」
オスクマ「ブーーーン!!」
ゴツン!
挑戦者クマ「ブブ……、ブーン……」
ミツキ「突進した!?」
アゲハ「クマバチさんのバトルは、まさにガチンコ。男同士のどつき合い。どちらかが折れて逃げるまで、プライドをぶつけ合う」
ミツキ「どつきあい……」
挑戦者クマ「ブ……ブーーーン!!」
ゴチン!
オスクマ「ブ、ブブ……、ブーン……」
アゲハ「かっこいい……」
ミツキ「え?」
アゲハ「まるで技をかけあう本気のプロレス。全力で力をぶつけて、相手の心を折る!その真剣な男の眼差し!どちらかが倒れても、どちらもかっこいいオスであることに変わりはないわ!」
ミツキ「テンション高いっすね……」
アゲハ「今のは、あのメスの気持ちの代弁ね」
ミツキ「……本当っすか? プロレスなんてクマバチは知らないでしょ……」
アゲハ「あ!! 挑戦者が!」
挑戦者クマ「ブーーーン!!」
ゴチーン!
オスクマ「ッブ!……ブブブ……ブブ、ブーン」
ヨロヨロ
アゲハ「チャ、チャンピオーン!」
ミツキ「かなり効いたみたいっすね……」
アゲハ「挑戦者は確かにかっこいい!でも、でも!チャンピオンは、かっこいいチャンピオンじゃなきゃダメなの!」
ミツキ「プロレスファンなんすか……? 意外っす……」
オスクマ「ブブブ……、ブブ!ブブブブーーーン!!」
アゲハ「あ、ああ!」
ゴツーン!!
挑戦者クマ「ブブブブ……、ブ、ブーーーン!」
ミツキ「あ、逃げた!」
アゲハ「チャ、チャンピオン!やっぱり強い!かっこいー!惚れる!」
ミツキ「え、あ、はあ……」
アゲハ「あのメスの気持ちね」
ミツキ「そっすか……」
アゲハ「かくして王座は守られた。しかし、チャンピオンで居続けるかぎり、いつかまた挑戦者が現れる。そして男の熱い戦いは続いて行くのでしょうね……。女たちの歓声を得るために」
ミツキ「歓声を送ってたの、先輩だけっすけどね」
アゲハ「あーあー……、私にもそういう男子がいたらな~。私を奪い合う男同士のケンカ。なんて胸のときめく状況。憧れるわ~」
ミツキ「……結構、過激派なんすね、門城先輩」
アゲハ「そうだ!ねえ、ミツキ君。私を賭けて、誰かとケンカして来てくれない? 私、陰ながら見守ってるから!」
ミツキ「……遠慮します」




