第五話 とある大手のクロヤマさんたち
アゲハ「あのね、今まで、本当にゴメン、ミツキ君」
ミツキ「えっと、どうしました?」
アゲハ「ごめん。君の気持ちを考えてあげれてなかった」
ミツキ「え?」
アゲハ「言いたそうにしてたもんね……、言えなくて、ずっと苦しかったよね」
ミツキ「えっと、……どの話っすか?」
アゲハ「遠慮しなくていいんだよ? 私に言いたいこと……ない?」
ミツキ「え、えっと、……あると言えば、ありま……す」
アゲハ「うん、言ってごらん」
ミツキ「あの……、門城先輩のこと、あの、か、かわ、かわい……」
アゲハ「え?」
ミツキ「門城先輩、かわい……。なんでもないです」
アゲハ「あのね、ミツキ君……」
ミツキ「は、はい!」
アゲハ「いったいなんの話?」
ミツキ「え? あの、門城先輩が言いたいことがあったら言えって」
アゲハ「うん。そう言ったけど」
ミツキ「だから、門城先輩に思っていることを……」
アゲハ「何言ってんの? 私は活動内容について言いたいことがないかって聞いてんの!」
ミツキ「え……、なんすか、それ?」
アゲハ「この部の活動内容が、昆虫観察部っぽいことしてないなって、ミツキ君が思っていそうだから、気を聞かせて聞いたのよ!」
ミツキ「は、はあ……。別に思ってもみなかったっすけど……」
アゲハ「え……?」
ミツキ「え?」
アゲハ「それじゃ、聞いた私が馬鹿みたいじゃん」
ミツキ「いや、別に馬鹿ってほどじゃ……」
アゲハ「ま、いっか。せっかく、ミツキ君のために、活動する内容、考えてたんだけどな……。聞いてくれないなら、もういい」
ミツキ「す、すいませんっす!な、なんすか!?その内容って!」
アゲハ「……聞いてくれるの?」
ミツキ「も、もちろんっす!!」
アゲハ「昆虫観察っぽいこと、したい?」
ミツキ「し……、したい……です」
アゲハ「素晴らしい!!」
ミツキ「う、うす」
アゲハ「その言葉を私は待っていたの。昆虫観察部とは、昆虫観察をするところのはず。今日まで、それらしい活動をしていなかったのは、私の落ち度ね」
ミツキ「……これまでも、観察っぽいことしか、してないっすけどね」
アゲハ「何か言った?」
ミツキ「いえ、なにも」
アゲハ「よろしい。今日は、アリさんの観察をします」
ミツキ「アリさんっすか?」
アゲハ「その通り。アリさんたちを観察することは、今後、この部の方向性を決めるためにも、とてもいい勉強になると思うの!」
ミツキ「……勉強?……どんな?」
アゲハ「アリさんは自己の役割を認識し、組織の中で忠実にそれをこなす。社会性の高さは群を抜いており、その生き方から我々が学ばなければならないことが、山のようにあるとは思わない?」
ミツキ「は、はあ……」
アゲハ「彼らの生きざまを観察し、その精神をミツキ君も学び、今後の部活動へ生かすべきだわ」
ミツキ「……なんか悪い予感がするっす」
アゲハ「何か?異議でもあるのかしら」
ミツキ「ないっす」
アゲハ「よろしい。では、アリさんの観察へ、いざ!」
ミツキ「……うす」
アゲハ「ん~? イエス~……?」
ミツキ「インセクトー……」
***
アゲハ「はい、到着しました。 学校のグラウンドの端です」
ミツキ「えっと、門城先輩、その手に持ってるものは?」
アゲハ「これ? 角砂糖だけど」
ミツキ「アリさんの餌っすか」
アゲハ「餌っていうか、手土産というか。初めてお会いする方たちに何も持たずに、突然押しかけて、観察だけさせてっていうのもね……」
ミツキ「は、はあ……」
アゲハ「あ、シッ!」
ミツキ「え?」
アゲハ「すぐそこに、お伺いする先の関係者の方がいらっしゃるわ。失礼のないように」
ミツキ「えっと、どこっすか……」
アゲハ「ほら、あちらの方よ」
しゃがんで指差す。
ちょっと大きめのアリ一匹。
ミツキ「あ、アリさん、居たっすね」
アゲハ「ええ。流石は学校グラウンドにおいて幅広いシェアを持つ、クロヤマさんね。日本のどこにでも関係者がいらっしゃる」
ミツキ「クロヤマさん?」
アゲハ「え? 知らないの? 学校グラウンド業界で、最大手ともいえるクロヤマさんを」
ミツキ「知ってるような、知らないような……」
アゲハ「困るなぁ。ミツキ君は既に、我が部の昆虫観察者の一人なのよ。あちら様も、そのつもりで君を見ている。君がそんなんじゃ、私達の部の品格を疑われるわよ?」
ミツキ「す、すいませんっす……」
アゲハ「あ、ほら、こちらに近づいてこられた。ミツキ君、手土産をお渡しして」
ミツキ「え? 僕が?」
アゲハ「当たり前でしょ。これは君の社会勉強でもあるんだから」
ミツキ「う、うす。で、あの、どうすれば?」
アゲハ「はいコレ。あの方の少し手前にお出しして。間違っても直ぐ目の前に置いたりしてはだめよ? 押し付けては失礼になる。間隔をすこし置いて、あちら様から手を伸ばしていただけるように」
ミツキ「角砂糖っすね……。うす……」
小刻みに震える指で、
アリの10センチ手前に角砂糖を置く。
アゲハ「あの、ミツキ君」
ミツキ「な、なんすか?」
アゲハ「ご挨拶は?」
ミツキ「え?」
アゲハ「本日は、お忙しい所、失礼致します。お邪魔にならぬように致しますので、何卒ご容赦ください」
ミツキ「え?」
アゲハ「ほら、お伝えして」
ミツキ「……。ほ、ほんじつは……、えと、なんて?」
アゲハ「はあ……、だらしない。失礼いたしました、私が行き届いておりませんでした。決して悪い子ではないので、誤解されないでくださいね」
ミツキ「えっと、何がっすか?」
アゲハ「君の代わりにご挨拶したの!まったく!」
ミツキ「……す、すいません」
アゲハ「まあいいわ。ほら、お仕事のお邪魔にならないように、静かにしていましょう」
ミツキ「う、うす」
アゲハ「あ、見て、興味を示してくださったようよ」
テクテクテクテクテクテクテクテク
角砂糖の周りを、アリがグルグルと回る。
ミツキ「……なかなか食べてくれないっすね」
アゲハ「当然よ。大きな組織ほど、検査は厳しいの。良からぬ物ではないか、吟味していらっしゃるのよ」
ミツキ「そ、そうなんすね……」
アゲハ「黙って、静かに見ていましょう」
ミツキ「うす」
テクテクテクテク
アリ「ジー……、ピト……、テクテクテク」
ミツキ「あ、え、どっか行っちゃいましたね」
アゲハ「ご報告に戻られたのよ。角砂糖は、彼らにとっては大きすぎるから。一人で運ぶなんて無理でしょ?」
ミツキ「そ、それもそうっすね」
アゲハ「あ、ほら見て、他にも関係者の方がこられたわよ」
ミツキ「あ、ほんとだ。あ、角砂糖に触ってる!」
アゲハ「よかったわ。私達の手土産は気に入ってもらえたみたい。ほら、他にも関係者が」
角砂糖に群がるアリ。
小さい粒を切り出して、戻っていく。
ミツキ「あ、なんか持って帰ってますね」
アゲハ「ええ、ここからは続々と他の関係者もいらっしゃるはず。お邪魔にならないようにね」
ミツキ「うす」
10分後。
ミツキ「完全に列になったっすね。来るアリさんと、戻るアリさん」
アゲハ「ええ、でも、私達が見るべきは、列の中のアリさんたちの挙動よ」
ミツキ「どういうことっすか?」
アゲハ「見て、角砂糖に向かうアリさんと、砂糖を持って戻るアリさん。彼らは、時々、頭の触覚でタッチし合っているでしょ?」
ミツキ「えっと……。なんか、そんな感じに見えるっすね」
アゲハ「あれはね、お互いにコミュニケーションをとっていらっしゃるの。向かう方向はこっちで合ってるの? うん、そうだよ、あっちだよってね」
ミツキ「へえ、タッチするだけでわかるんすね」
アゲハ「すごいよね。でもね、肝心なことは、お互いが、ちゃんと情報を共有しあっているってことなの。ちゃんとコミュニケーションをとって、役割をこなしていく」
ミツキ「コミュニケーションって大切なんすね」
アゲハ「そうだよ~? ね、私たちも同じようにやってみない? タッチしあって」
ミツキ「え?」
アゲハ「手をパーにしてみて」
ミツキ「え、あの、こ、こうっすか?」
アゲハ「そのまま、ね」
ミツキの手のひらに、アゲハが手のひらををくっつける。
ミツキ(ドキドキ……、手、やわらけ~……)
アゲハ「どう……? 伝わった? 私の考えていること」
ミツキ「あったけー……っす」
アゲハ「ん?」
ミツキ「え?」
アゲハ「ん?」
テクテクテクテクテクテク
アリさんたちは忙しそう。




