第四話 アイドルのナナホシさん
アゲハ「青い空、彩りの花、春はどんな生き物も活気があって良いよね!」
ミツキ「あの、門城先輩、ここは……?」
アゲハ「え、学校の花壇だけど」
ミツキ「それはわかりますけど」
アゲハ「ん?」
ミツキ「あ、いえ、なんでここに居るのかなって」
アゲハ「うんうん!良いところに気がついたね。疑問や興味を持つことはとても良いこと。何事にも興味を持つことが、上達の一歩目だし」
ミツキ「はあ、どもっす」
アゲハ「今日はここで昆虫観察をします」
ミツキ「そういうことっすね。わかったっす」
アゲハ「……は?」
ミツキ「え?」
アゲハ「部活内での返事は?」
ミツキ「い、イエス!インセクト!」
アゲハ「素晴らしい!じゃあ今日の趣旨を説明するね」
ミツキ「いえす、インセクト……」
アゲハ「花壇はいわば、彩られたステージ。そこでは数々のアイドルたちが舞い、踊り、人々を魅了させているの」
ミツキ「アイドル?」
アゲハ「ええ、そして春という季節は、動植物達のテンションがピーク!まさにフェス開催中と言っても良いぐらいなの!」
ミツキ「…………楽しそうですね」
アゲハ「あ、見て!あそこにいるのは、子供ならみんな大好き、スーパースターのナナホシさんよ!」
ミツキ「えっと、どこですか?」
アゲハ「え、見えないの!?」
ミツキ「見えないって言うか……、なんのことかなって……」
アゲハ「……ミツキ君って、芸能人とかも興味なさそうだもんね」
ミツキ「あの、それは今の話と関係ないっていうか」
アゲハ「仕方ないなー。ここだよ、ここ!」
白い花のひとつを指差す。
花の上に赤いテントウムシ。
ミツキ「あ!テントウムシっすね!」
アゲハ「うん!美しいテントウムシさんたちの中でも、ナナホシさんは別格の人気を誇るレジェンド。昆虫図鑑では必ず大きく取り上げられ、子供達の中には、テントウムシ、イコール、ナナホシさんと錯覚されている程の大物」
ミツキ「ま、まあ、僕でも知ってますからね、テントウムシは」
アゲハ「……テントウムシ?」
ミツキ「え?」
アゲハ「ナナホシテントウ」
ミツキ「え?」
アゲハ「スーパースターの!ナナホシテントウ!」
ミツキ「ななほし、テントウっすね……」
アゲハ「テントウムシといっても、たくさんいるの。一括りにまとめて呼ぶことは失礼にあたると思わない?」
ミツキ「え?」
アゲハ「アイドルは総称であって、個人の名前でもないし、ユニット名でもない」
ミツキ「えっと……、どういうことっすか?」
アゲハ「テントウムシという総称で、一括りのカテゴライズとして見ないでってこと!」
ミツキ「お、押忍……」
アゲハ「特にナナホシさんは、別格のスターなんだから敬意を払ってね!」
ミツキ「わかったっす」
アゲハ「よろしい。あのね、ナナホシさんは、人気があるだけじゃない、農家の皆様からは作物を荒らす厄介物を、追い払ってくれる益虫と言われ、人気、実力、美しさ、それら全てを備える、超大物アイドルなの。覚えていてね」
ミツキ「あの、アイドルってテントウムシのことなんすね」
アゲハ「春の花壇に集まるアイドルは、テントウムシさんたちだけじゃない。チョウやハチ、美しい花のステージに集まる彼らは、他の季節よりも一層輝いて見えるの」
ミツキ「……美化しすぎてません?」
アゲハ「あ、見て!ナナホシさんが私の手に」
ミツキ「乗って来ましたね」
アゲハ「あ、あわわわわ」
ミツキ「門城先輩?」
アゲハ「かか、かわいー!!」
ミツキ「まあ、かわいいっすね……」
アゲハ「ここ、こ、これよ!コレ!!」
ミツキ「なんすか?」
アゲハ「美しいアイドルたちと触れ合える!コレが春というフェスの醍醐味なのよ!!」
ミツキ「……。よかったすね……」
アゲハ「小さく可憐な彼らとの握手。なんと儚きことか……」
ミツキ「握手ってか、手に乗ってるだけっすけどね」
アゲハ「はあ……。さめてるなぁミツキ君は。ほら、君も彼に握手してもらいなさい」
ミツキ「え?」
アゲハ「ほーら、手をパーに広げて」
ミツキ「こうっすか?」
ミツキの手のひらに、アゲハの指先が触れる。
ミツキ「あ……」
ミツキ(手のひらに、先輩の指の感触が!な、なんかサワサワする!)
アゲハ「動かないでね」
ミツキ(せ、先輩の顔が近いー!ま、まつげながー!!)
アゲハ「そのまま……、だよ」
ミツキ「は、はい!い、インセクト!」
テクテクテク
アゲハの指先を伝って、
ミツキの手のひらに向かうテントウムシ。
アゲハ「そのまま……、そのまま……」
ミツキ(ドキドキ)
アゲハの指先に来るテントウムシ。
テントウムシ「……プイッ」
アゲハ「あら?」
ミツキの手ひらの手前でUターン。
アゲハ「あちゃー、ミツキ君とは握手してくれないみたい」
ミツキ「は、はあ……」
アゲハ「握手券買って来て、出直そうか」
ミツキ「なんすか、握手券って……」
アゲハ「その前に、彼らのファンになることから、かな?」
ミツキ「……うす、頑張るっす」
アゲハ「うんうん。一緒に推し活しようね」
ミツキ「うす」
ブーン、ピト
ミツキ「あ、先輩の手に黒いテントウムシも来ましたよ!」
アゲハ「あ、いらっしゃい、ナミテントウさん」
ブーン「えっと、ナミテントウさんっすね。黒い身体に、赤い丸みたいな柄っすね」
アゲハ「ええ、彼もナナホシさんに匹敵する、日本を代表するアイドルね」
ミツキ「へ、へえ……」
ブーン、ピト
ミツキ「あ、また来た。赤っぽい身体に黒い斑点。これはナナホシさんっすね」
アゲハ「いいえ、こちらもナミテントウさん」
ミツキ「え?」
アゲハ「ナミテントウさんは、個人個人で柄が違うの。ほら、良く見て、色や、柄が、ナナホシさんとは似てるようで違うでしょ?」
ミツキ「そ、そうっすね……。違い……。やっぱり、ナナホシさんと同じ柄っぽいっすけど……」
アゲハ「こら、そうやって何とかっぽいって言って、カテゴライズしない!」
ミツキ「す!すんません!」
アゲハ「よく見てあげなさい!このナミテントウさんの柄!」
ミツキ「あの、ナミテントウさんの柄が全部違うって、ムズ過ぎません?」
アゲハ「あのね!ナナホシさんが個人としてのスターなら、ナミテントウさんたちはグループアイドル!みんな揃ってナミテントウさんなの!!」
ミツキ「……」




