第三話 襲来!うるさいヤツ!
ミツキ「うっす!」
アゲハ「ちわ~。ちゃんと毎日、顔を出してるね、えらいえらい」
ミツキ「まあ、部員っすからね。非公式な部活だけど」
アゲハ「大丈夫。そのうち正式な部活に昇格するから。見ていて!日の目を浴びるのはすぐそこだから!」
ミツキ「入ってくれそうな人がいるんすか?」
アゲハ「うーん……」
ミツキ「いないんすか……」
アゲハ「私はね、人を厳しく見ちゃうからさ……」
ミツキ「え?」
アゲハ「あのね、人材というものは、適当に流入させてはならないの。高い理想と理念に共感してくれることは当然として、共に走り続けてくれるだけの体力、そして高い実務能力もさることながら、最も必要なものはコミュニケーション能力よ。これらを併せ持つ優秀な人材、いえ、心の友と言ってもいい人材でなければならないの」
ミツキ「えっと、なんの話っすか?」
アゲハ「新入部員に求めている物よ。行き当たりばったりで人を雇ってはいけないの。ベンチャーの鉄則よ?」
ミツキ「あの……、ベンチャーってなんすか?」
アゲハ「はあ~、ミツキ君、そんなんじゃあ、社会で生きていけないよ?」
ミツキ「あ、はあ……、すんません。でも、部に昇格するには誰かいれないとっすよねー……。これまで、僕意外に誰か誘わなかったんすか?」
アゲハ「当然、誘ったけどね……。君が来るまでの一年、私は新たなる部員を求め続けてた」
ミツキ「あ、まじすか、その人達は?」
アゲハ「みんな、一日にして退部していったの」
ミツキ「え……」
アゲハ「虫たちの世界に馴染むことが出来ずに、辞めていったの」
ミツキ「そ、そっすか……」
アゲハ「そう、よく覚えておくことね。あなたは、そんな数えきれない屍に上に立っているという、ありがたい事実を。彼らの怨念を、あなたは引き継いでいるのよ」
ミツキ「あ、えっと、その人たち、生きてますよね……?」
アゲハ「ま、要するに、ミツキ君、頑張ってねってこと!」
ミツキ「い、イエス、インセクト……」
アゲハ「うんうん、良い心がけだね!」
ミツキ「あの、イエスインセクトって、心がけのことなんすか?」
アゲハ「え?」
ミツキ「え?」
アゲハ「まあ、いっか。座ったら?」
ミツキ「うす!あの、門城先輩」
アゲハ「なーに?」
ミツキ「ここで弁当食っていいすか」
アゲハ「え? お昼食べてないの?」
ミツキ「課題やってなかったんで、昼にやったっす」
アゲハ「ありゃま~。困った奴だね、ミツキ君は」
ミツキ「さーせん」
アゲハ「いいよ、食べな」
ミツキ「うっす!」
鞄からお弁当箱を出す。
アゲハ「わ!おっきなお弁当箱!育ち盛りだねぇ」
ミツキ「めっさ腹減ってました!」
アゲハ「ふーん、中身は何かな~」
ミツキがお弁当を開ける、とんでもないニンニク臭。
アゲハ「え!? ぐ、ぐはっ!!」
ミツキ「やったぜ!母さん特性の、ニンニク漬け唐揚げだ!」
アゲハ「な、なに、うぐ!なに、それ?」
ミツキ「バリウマの奴っすよ!くあぁ~、この臭い、たまんねえ!!」
アゲハ「よ、よか、うぷ!よかったね……、うぐっ!」
ミツキ「いただきまーっす!」
アゲハ「ご、ごめ、窓開けるね」
ミツキ「押忍!気温も上がってきましたもんね」
アゲハ「そ、そうだね」
ガラガラ
ブイイイイイイィィィィィィン
アゲハ「な!? しまった!」
ミツキ「なんすか?」
アゲハ「来てほしくない奴が、ここに入って来てしまったのよ」
ミツキ「来てほしくない奴? あ、こら!シッシ!」
ブイイイイイイィィィィン
ミツキ「ハエかよ……、うっとしいな」
アゲハ「そいつのことよ」
ミツキ「え?」
アゲハ「匂いのある物に引き寄せられ、何処からともなくやってくる。騒音をまき散らしながら、人の頭の周りを飛び回って不快感を与える。基本は単独行動、でも、そいつらの考えていることは同じようなもの」
ブイイイイイイィィィン
ミツキ「シッシ!あ、あの、何の事っすか?」
アゲハ「気づいたら1匹、2匹、3匹。居心地がいいとわかれば、長時間のタムロ。周りに迷惑をかけ続けることに罪悪感を持たず、騒音をまき散らすだけ。反吐が出るわ」
ミツキ「え、えっと、ハエの話しっすよね……?」
アゲハ「わからせてあげなければね。ここは危険な場所だと。愚か者が好きにしていい場所ではないということを」
ミツキ「ど、どうしましょう。殺虫剤とか置いてます?」
アゲハ「置いてるはずがないでしょう。ここを何処だと思っているの?」
ミツキ「えっと、じゃあ、新聞紙とかで叩けば……」
アゲハ「その必要な無いわ。あなたはただ、そこで見ているだけでいい」
ミツキ「門城先輩が倒してくれるんですか?」
アゲハ「いいえ、もっと優秀な方がいるわ。この部屋のポリスともいえる存在が」
ミツキ「ポリス?」
スタッ
机の上に飛び出すハエトリさん。
ミツキ「あ!ハエトリさんだ!」
アゲハ「お手間をお掛けいたしますが、どうぞ、よろしくお願い致します」
ミツキ「え、ハエトリさんに?」
アゲハ「そう。その名の通り、ハエトリさんはハエをとる名人。その小さな身体からは想像も出来ない凄腕のハンター。プロである彼の前では、実力不足の者など、束になっても敵うはずがない」
ブイイイイイイイイィィィィィン、ピタ
アゲハ「愚かな者よ。羽を休める場所など、この部屋には無いと知れ」
タッタッタッタッタ
ハエトリさんが小刻みにジャンプして、
ハエに近づく。
アゲハ「さあ、理解しなさい。抗えない実力の差を。己の行いを恥じるのよ」
ハエと、ハエトリさんが睨み合い。
ハエ「ブ……、ブブ……」
ハエトリ「……サッ」
ハエ「ブ、ブブブ!」
ブイイイイイイイイイィィィィン
飛び立つハエ。
アゲハ「あらあらあら。どこに行こうと言うの?この部屋にあなたの安息の地は無いというのに」
ミツキ「この部屋……、そんなにやばいんすね」
ブイイイイィィィィン、ピタ
窓に張り付く。
ミツキ「あ、また止まった」
アゲハ「うふふ、もう彼は随分と自信を失ってしまったようね」
タッタッタッタッタ
ミツキ「あ!ハエトリさんが向かって行く!」
アゲハ「当然でしょう。ハエトリさんは目がいいのだから、この部屋の何処に行こうと逃がすはずがない」
タッタッタッタッタ、ピタ
窓に張り付いて、再度の睨み合い。
ハエ「ブ、ブ……」
ハエトリ「……」
ジリジリと間合いを詰めるハエトリさん。
ハエ「ブ、ブブブ!」
ハエトリ「……」
ハエ「ブブ!ブブブ!」
ハエトリ「……」
ハエ「ブ、ブ、ブブブ!ブイイイイイイィィィィィィィン!」
窓の外へ消えていくハエ。
ミツキ「や、やった!追い払った!すごいハエトリさん!」
ハエトリ「サッサッ」
アゲハ「……飛んで行った彼は、この場所では厄介者だった。でも、きっと彼を受け入れてくれる場所が、この星の何処かにある。心から彼が求めれている場所。そこへたどり着いてくれたらいいのだけど」
ミツキ「えっと……、もしかして泣いてます?」
アゲハ「まさか。子を送り出す、母の気持ちを知っただけよ」




