第二十話 夏を知らせるニイニイゼミさん
ミツキ「雨が降らなくなって喜んでたら、あっついっすねー」
パタパタ
アゲハ「空調も期間が始まってないしね」
パタパタ
ミツキ「こんなに暑いんだから、早めたらいいのに」
アゲハ「ルールが厳しいんだよ、きっと」
ミツキ「ルールは破るためにあるって、誰かが言ってたらしいです! 誰か忘れましたけど」
アゲハ「それは、かの大女優マリリンじゃないかな? ルールを全て守っていたら、何も成し遂げられないって」
ミツキ「いやいや、言葉が違います。僕が言ったのは、ルールは破るためにあるってやつです」
アゲハ「あーはいはい、ごめんごめん……」
ムシムシ、パタパタ
アゲハ「と言っても流石に暑いわね……」
すくっと立ち上がる。
ミツキ「ん?」
ヌギヌギ
ミツキ「え、えー!門城先輩!」
スポッ
アゲハ「なに?」
ミツキ「い、いえ、突然脱ぎ始めたので、驚いて」
アゲハ「セーター脱いだだけだって」
ミツキ「それは、わかるのですが。部室で二人きりで、その……、密室で二人で、その」
アゲハ「え、鍵、開いてるけど」
ミツキ「あ、はい。まあ……」
ドキドキ
アゲハ「ふふ、今日は一段と変なミツキ君だね」
ミツキ「あ、まあ、はい」
パタパタ
アゲハ「あ、ほら、耳を澄ましてみて?」
ミツキ「え?」
アゲハ「ほーら、静かに」
ミツキ「うす……」
ニィー……、ニィー……
アゲハ「聞こえる? ニイニイゼミさんの声」
ミツキ「え、聞こえないっす」
アゲハ「静かに聞いてみて、ニーニーって鳴いてるの」
ニィー……、ニィー……
ミツキ「……ちょっとだけ、聞こえたかも」
アゲハ「ね、彼らも土から出て来たんだね」
ミツキ「あの、今更っすけど、ニイニイゼミってセミですか?」
アゲハ「え? セミじゃん。知らない?」
ミツキ「聞いたことないかなって……」
アゲハ「まあ、セミの鳴き声って言えば、ミーンミンミン、ジーコジーコって感じだよね」
ミツキ「ミンミンゼミは知ってます」
アゲハ「ニイニイゼミさんは、彼らよりも静かに鳴くからね。身体も小さくて、目立たないんだ」
ミツキ「へー」
アゲハ「でもね、夏の早い時期に出てくるの。だから、多くの人が一年で最初に聞くセミの鳴き声はニイニイゼミさんなんだよ。いわば一番槍、先駆者、イノベーター」
ミツキ「一番槍?」
アゲハ「そういうこと。一番に殻を脱ぎ捨てて、鳴き始めるの。季節に敏感なのかもね。雨があがった。夏が来た。殻を脱ぎ捨てようってね」
ミツキ「ふーん、せっかちなんすかね?」
アゲハ「さあ、どうだろう。こう考えてみたらどうかな? 誰もが、行こうかどうか迷っているときに、颯爽とスタートをきれる彼らは、他のセミたちよりも行動力も、勇気もあるの」
ミツキ「勇気?」
アゲハ「だって、ニイニイゼミさんは静かに鳴くし、身体も小さい。だからこそ、他のセミたちが出てくる前の、争いがまだ起きてない所を攻めていく。結果的にそこはブルーオーシャンってわけ」
ミツキ「ふーん。他のセミより、さくっと衣替えしちゃうタイプっすね」
アゲハ「ま、まあ、そうなるかな……」
ミツキ「暑がりなんすね、きっと」
アゲハ「……そうかもね。まあ、これだけ暑いと、私もセーター着ない日の方が多くなるかな」
ブラウスの上を持ってパタパタ。
ミツキ「そ、そのほうが……、いいかもっすね……」
アゲハ「えっと……、なんか、付いてる?私の服」
ミツキ「い、いえ!なにも!」
アゲハ「本当に、今日は一段と変……」
ミツキ「そ、そんなことないっす!」
アゲハ「ま、いっか」
立ち上がって、窓から外を覗く。
キラキラ
アゲハ「夏が始まるだ、もうすぐ……」
ミツキ「っすねー」




