第十八話 大雨の日は、奴らが解き放たれる
ザー、ザー、
ミツキ「とうとう大雨っすね……」
アゲハ「仕方ないわよ。梅雨入りしたんだし」
ミツキ「帰るまでにやまないっすよね……」
アゲハ「仕方ないじゃない」
ミツキ「帰る途中で、制服はべちょべちょ、ぐちゃぐちゃ、靴もドロドロ」
アゲハ「しょうがないって……」
ミツキ「帰ったら靴にボロ紙を入れて、明日には乾いてくれって祈るんすよ。そして、朝になっても乾いてなくて、靴下を通して、ヒンヤリとした感触が」
アゲハ「あー、もう! うっさい!」
立ち上がるアゲハ。
ミツキ「あれ、先輩、どこ行くんですか?」
アゲハ「お手洗い!」
タッタッタッタ
ミツキ「イライラしてるのかな、門城先輩……。この大雨なら、無理もないか……」
ザー、ザー
「きゃああああああ!!」
ミツキ「な、なんだ!?」
廊下に飛び出す。
ミツキ「い、今のは門城先輩の声では!?」
女子トイレに近づく。
コン、コン!
ミツキ「も、門城先輩!! ご無事ですか!?」
シーン……
ミツキ「大丈夫ですか!? あ、開けますよ!?」
ドアに手をかける。
ドーン! ゴチーン!
ミツキ「い、いてえええ!」
アゲハ「開けるな!バカ!」
ミツキ「いつつ……、門城先輩、いったい何が?」
アゲハ「話は後!」
バタン!
ミツキ「なんすか……? そんなに勢いよく閉めなくたって……」
アゲハ「ここは危険よ」
ミツキ「危険?」
アゲハ「ここは奴らに攻め込まれていたの。開けてはならないわ」
ミツキ「えっと、奴ら?」
アゲハ「闇よりの使者よ」
ミツキ「闇……、ゴキっすか?」
アゲハ「こんなことになるなんて……」
テクテク
ミツキ「あ、あの、どちらに?」
アゲハ「そこの手洗い場で洗うの! アイツが、トイレの蛇口に居座っていたから!」
ミツキ「そ、そっすか」
アゲハ「ん!? え!? あ、あああ!」
ミツキ「こ、今度はなに?」
アゲハ「こ、ここにもいる……!」
ミツキ「ええ!」
カサカサ……
アゲハ「こ、こうなったら、ムーちゃんを連れて来て……」
カサ……
アゲハ「え、う、うそ……、ひ……」
排水溝からもう一匹上がってくる。
アゲハ「ひ、ひやぁああああ!」
腰を抜かすアゲハ。
ミツキ「も、門城先輩!」
アゲハ「に、逃げるの! ここから逃げるのよ!」
ミツキ「う、うす!」
ミツキダッシュ!
アゲハ「ま、待てー! 馬鹿やろー!!」
ミツキ「え!?」
アゲハ「一人で逃げるな!か、肩をかせー!」
ミツキ「す、すいませんっす!」
肩を担いで持ち上げる。
フワァ
ミツキ(やはり、先輩の髪の匂いは甘いフローラルな香りだな……)
アゲハ「ぼ、ぼーっとしてんじゃない!」
ミツキ「す、すいません!」
アゲハ「部室へ!私達の城へ急いで!」
ミツキ「は、はいー!」
***
バタン!
アゲハ「もう扉を開けちゃだめよ!いつ攻め込まれても、おかしくないんだから!」
ミツキ「し、しかし……。これでは、家に帰れないじゃないですか……」
アゲハ「す、隙を伺って逃げるか……。他の生徒か、先生が奴らと戦っている隙に……」
ミツキ「……それって、他人をいけに」
アゲハ「ち、違うの! 他者の犠牲を望んでいるわけじゃない! でも、わかって! 私達じゃ、彼らには勝てないのよ!」
ミツキ「そっすか……。しかし、なぜ急に、それも一斉に出て来たんすかね……」
アゲハ「大雨のせいよ」
ミツキ「え、雨?」
アゲハ「梅雨時期の大雨は、彼らを呼び覚ます。封印が、大雨で解き放たれたのよ」
ミツキ「なんすか……、それ」
アゲハ「ミツキ君、わかっているわよね? 下水溝に流れている水は、雨の排水にも使われているのよ」
ミツキ「そ、それが?」
アゲハ「これだけの大雨よ。下水溝に流れ込んだ水は想像以上に多い。もう溢れんばかりの水が流れこんでいる。そうするとね、普段そこを住処にしている彼らはどうなると思う?」
ミツキ「えっと、アイツラは下水から逃げて来たんすか?」
アゲハ「ええ、きっとね……。そして、このまま雨が降り続けば……」
ミツキ「ごくり……」
アゲハ「もうわかったよね……? この学校中が、アイツラの手に落ちるのも時間の問題。時が経てば経つほど、私達の逃げ場は無くなるのよ」
ミツキ「ま、まずいじゃないすか。さっさと帰りましょうよ!」
アゲハ「し、しかし……。誰も部室の前を通らないし……。わ、私達だけじゃ……」
ミツキ「あの……、誰かの犠牲を前提にした戦略、やめません?」
アゲハ「そ、そうね……。気が動転していたわ……」
ミツキ「しっかりしてくださいっす! いつもの先輩のように、今回もガツンとやっちゃってくださいよ!」
アゲハ「わ、わかった……。ごめんね」
ミツキ「さあ、じゃあ気合を入れて、ここから逃げ出しましょう!」
アゲハ「いいえ。ただ逃げるだけじゃダメよ。私達が帰ったあとも、彼らの進軍は止まらない。私達が逃げおおせても、きっと新たな犠牲者が……。いえ、そうでなくても、大勢の使者たちのせいで、明日はパニックが起きるかもしれない」
ミツキ「でも、排水溝からアイツラが出てくるのは、どうしようもないんじゃ……」
アゲハ「ここは科学準備室よ? 策は練れるはず」
ミツキ「どうするんすか?」
ゴソゴソ
アゲハ「あった。これで抵抗を試みる」
ミツキ「えっと、ガーゼと養生テープ?」
アゲハ「これを小さく切って、四方にテープを張って……」
ミツキ「あの、先輩、いったい何を……」
アゲハ「出来た! 即席の排水溝ネット! これで排水溝を塞ぐの!」
ミツキ「な、なるほど、これ以上ゴキが出てこないように、侵入を止めるんすね」
アゲハ「そうよ! この階の排水溝全てを、これで塞ぐ! 応急処置のバリケードよ!」
ミツキ「……あの、あとで怒られたりしませんかね?」
アゲハ「もう放課後だし、明日の朝はがせば大丈夫。さ、ミツキ君も作るの手伝って!」
ミツキ「そうっすね、あ、そう言えば、ほらそこ。この科学準備室にも水場がありま」
アゲハ「闇から人の世に繋がる扉!我が力を持って、ここに封印する!ふさがれええええ!!」
ペタペタ
排水溝をガーゼで塞ぐ。
ミツキ「い、良い感じっすね!」
アゲハ「はあ、はあ、はあ……。さあ、次は手洗い場と、トイレよ……」
ミツキ「う、うす!」
アゲハ「急げ!私達しか、彼らを止められない!」
***
アゲハ「はー、はー、はー、」
ミツキ「だ、大丈夫っすか、四つん這いになってますけど……」
アゲハ「さっきまで敵がいた場所よ……。いつやられても、おかしくはなかった」
ミツキ「そっすね……。でも、これで目立つ排水溝は塞げたのでは?」
アゲハ「え、ええ……。さ、出来るだけのことはやったわ。撤退よ……」
ミツキ「うす!」
次の日。
隣の科学室では、パニックが起きて授業が進まなかったという。
排水溝を私達が塞ぎ忘れたばかりに。
カサ、カサカサカサ……




