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第十六話 アメンボさんは捕食側





雨の中を登校中。


ミツキ「雨の中、学校に行くのはだるいっすね……。ん、あれは、門城先輩の傘では?」


前方を歩く女子の傘。


ミツキ「絶対そうすね。あの特徴的なピンクの和傘。そして蝶々の柄。同じ傘なんか見たことない」


テクテクテク


ミツキ「先輩、おはよ……。いや、待てよ……」


コソコソ


ミツキ「いつも苛められてるんだから、たまには僕から攻めてもいいのでは……。よ、よし……」


道端に落ちた枝を拾い、アゲハの左側から近づく。


ミツキ(これで傘の右側をトントンと叩いて、振り返った所を、先輩おはよーって左から声をかける……。門城先輩はトントンと逆から声を掛けられてビクッっと……。完璧っすね)


そーっ、トントン!


ぴたりと足を止めるアゲハ。


ミツキ(よし、右を振り向いているな!? 左から覗き込んで!)


アゲハの傘の左側から覗き込む。


ミツキ「先輩!おは……」


アゲハの見下し顔と目が合う。

汚物を見る目。


アゲハ「あら……、ミツキ君……」


ミツキ「あ、あれ……、引っ掛かりませんでしたか……?」


アゲハ「ああ……、私をからかおうとしたのね……。ふーん……、ミツキ君の分際でね……?」


ミツキ「ぶ、ぶんざ……。そ、そんなつもりは……」


アゲハ「で……? なんだっけ? おはようだっけ?」


ミツキ「お、おはようございます。門城先輩は、本日も大変お麗しゅうございますねぇ……」


アゲハ「ええ、もちろんよ。他に言うことは無いのかしら?」


ミツキ「ふ、降り注ぐ雨粒の一つ一つも、門城先輩の美しさで、一段と光輝いて見えますなぁ……。雨も滴るいい女とは、まさに、門城先輩を表すために作られた言葉でありましょう……」


アゲハ「別に濡れてないけどね。まあ、ありがとう。褒めて遣わすわ」


ミツキ「ありがたき幸せ……」


アゲハ「しかし、先ほどの無礼な狼藉を見逃すわけにはいかないわね。放課後は、部室で昆虫図鑑の朗読3周ね」


ミツキ「この世は甘くないなどと、誰が言ったか知りませんが、わが身に降りかかってみれば、何とも深い言葉でありますなぁ……」


アゲハ「ふーん。あのね、ミツキ君。別にからかって来てもいいんだけど、その後にはちゃんと、ごめんって言わないと気持ちよく終われないじゃない?」


ミツキ「あ……。おためごかしを言えということじゃなかったんすね……。ご、ごめんなさいっす。門城先輩」


アゲハ「うむうむ。なーに?たまにはミツキ君も捕食者の側に回ってみたくなったの?」


ミツキ「ほしょ……。まあ、そんなとこっすね」


アゲハ「あのね、わかってる? 捕食するものは、自分も捕食される側でもあるってこと」


ミツキ「え、どういうことっすか?」


アゲハ「ほら、そこの池を見てみなさい」


ミツキ「は、はあ……」


スイー、スイー


アゲハ「あそこに沢山のアメンボさんたちがいるわよね? 彼らって肉食だって知ってる?」


ミツキ「知らないっすけど……」


アゲハ「ああ見えて彼らって、池に落ちた虫とかに口を突き刺して、体液を吸ってるのよ」


ミツキ「へえ」


アゲハ「しかし、池などの水辺は彼らの天敵が潜む危険極まりない場所。魚さん、カエルさん、水鳥さんなんかも、彼らを食べちゃう。つまり、危険を背負いながらも、覚悟を持って餌を待ち構えているわけ」


ミツキ「ふむふむ」


アゲハ「さあ、聞かせて頂戴。捕食者として、貴方にもその覚悟があるのか」


ミツキ「え……?」


アゲハ「食うために、食われる覚悟があるのかと聞いているのよ」


ミツキ「いや、あの……」


アゲハ「いいえ、あるはずよ。今日あなたは捕食者に回った。もう後戻りはできない。そして、より上位の捕食者に食べられるの。そう、この私に」


ミツキ「今日、早退しようかな……」


アゲハ「さあ、抗ってみせなさい。水に浮かぶ術を得た彼らのように。表面張力のような特別な力を、ミツキ君も会得して見せなさい。それが昆虫観察部員としての正しい進化という物よ」


ミツキ「表面張力も何も、既にずぶ濡れっすけどね……。冷や汗で……」


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