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死にたがりの君

どうもA丸と申します。

今回の作品は、暇だったので書こうと思った作品です。

こういった小説を書くのは初めてで、

自分の描きたいように書きました。

この作品のテーマの『生』と『死』そして『退屈』

をどのように表現するか迷って書きました

寿命の長い吸血鬼と裕福な人間、その二人を

テーマに忠実に描きました。

是非読んでくださいでは、監修のごま油小群さんに

この作品の魅力を語ってもらいます。


どうも監修のごま油小群です。

この作品の魅力を語ります。

1. 「死にたがりの吸血鬼」と「退屈を抱えた青年」の対比構造

- レミィは「死にたがる吸血鬼」、

主人公は「退屈を抱えた人間」という、

相反するようでどこか似た者同士の二人。

- 死を望む者と、生に飽いた者が出会い、

互いの存在によって少しずつ変化していく様子が、

静かで美しく描かれています。

- この対比が物語全体に緊張感と詩的な深みを与えています。

2. 「血」を通じた欲望と感情の交錯

- 吸血という行為が、単なる生理的な行動ではなく、

「生への渇望」「愛情」「依存」「恐怖」など、

複雑な感情の象徴として描かれています。

- 特に、レミィが主人公の血を「美味しすぎて理性を失いそう」

と語る場面は、愛と暴力、本能と理性の境界を巧みに表現しています。

3. 静謐で耽美的な文体と空気感

- 全体を通して、静かで詩的な文体が貫かれており、

読者を幻想的な世界へと誘います。

- 「月光」「白銀の髪」「赤い瞳」「蝋燭の光」など、

視覚的な描写が豊かで、映像的な美しさがあります。

- 会話の間や沈黙の描写が巧みで、登場人物の心の揺れが繊細に

伝わってきます。これ以上言うとネタバレになるので、

内容は本編にて、では、

どんなラストになるか想像しながら読んでいってください

                      by ごま油小群


さて、本文に入る前に一つ、生きるとは、どういうものなのか

考えながら読んでみてください。

                         by A丸

◆第一章 血の値段が跳ね上がる夜


退屈というものは、人をときに残酷にする。 僕の場合は、それがただ少し早く訪れただけだった。 金も地位も、屋敷も従者も、欲しいと願ったものはすべて手に入れた。 ゆえに、世界は僕を刺激しなくなった。

そんなある日——どうでもいい噂を耳にした。

「奴隷オークションに、“吸血鬼”が出るらしいですよ」

ひとりの従者がそう言ったとき、僕は紅茶を飲みながら曖昧に返した。

「吸血鬼? 作り話だろう」

「いえ、どうやら本物のようで……」

その言葉を聞いても、興味は湧かなかった。 僕はあの文化を嫌っていた。 金で人を買い、所有物として扱い、飽きたら捨てる。 そんな行為には、品性の欠片もない。

だが、その夜——僕はなぜか馬車に乗っていた。

退屈は、人を動かす。 嫌悪よりも強く。

オークション会場は、いつものように金と欲望の臭いがこもっていた。 葡萄酒、香水、汗。 そして、目の中に渦巻く、所有欲。

「紳士淑女の皆さま、お待たせしました——」

奴隷商の甲高い声が響き、 幕が上がった。

「本日最大の目玉、“吸血鬼”だ!」

会場は一瞬でざわめきに満ちた。 そして、彼女が引き出された。

——弱い。 見た瞬間にそう思った。

少女は白銀の髪を垂らし、膝をつき、鎖に繋がれたまま、呼吸さえ辛そうだった。 その顔は、まるで死者のように青い。

吸血鬼。 本物らしい。

だが、このままでは数時間も保たない。

「開始価格は十億!」

「十五億!」「二十!」「二十五!」「三十!」

数字が踊る中、少女はただ項垂れていた。 生きているのか死んでいるのかも分からないほどに。

五十億を超えたあたりで、勝負はついた。 あの醜悪な笑みを浮かべた商人が、満足げに手を挙げていた。

——そこで、口が勝手に動いた。

「百億だ」

空気が一瞬、凍った。 奴隷商の目が見開かれる。

「ひ、百億……! し、し、しん……紳士様、よ、よろしいのですか?!」

「構わない」

少女が、ゆっくりと顔だけを上げた。 その瞳は乾ききっていたが、一瞬だけ僕を見た。

僕は確信した。 あれは、死の手前にいる生き物だ。 だからこそ、面白い。

こうして、僕は吸血鬼の少女を買った。

——屋敷に戻ってから。 少女は椅子に座らせてもぐらりと傾き、その小さな体は震えていた。

使用人たちは距離を置き、誰も近寄ろうとしなかった。

「……吸血鬼だよね?」

問いかけても返事はない。 唇がかすかに震えているだけ。

僕はナイフを手に取り、迷いなく手首を切った。

赤い血が、じわりと溢れる。

「飲めば、回復するんだろう?」

少女の瞳が、ほんの少しだけ色を取り戻した。 息のように小さな声が漏れる。

「……どうして……」

「いいから。ほら」

少女は震える手で僕の手首を掴み、唇を寄せた。 冷たい。 死にかけの獣のような温度だった。

吸い上げる力は弱く、遠慮がちで、今にも消えてしまいそうだった。 だが、少しずつ——変化が起きた。

白銀の髪がかすかに光を帯び、 萎んでいた頬に色が戻り、 瞳は血のような赤を取り戻す。

そして、少女の鎖が——

パアンッ!

一瞬で弾け飛んだ。

僕は息を呑んだ。 だが、恐怖はなかった。 むしろ、面白かった。

少女はふらりと立ち上がると、まっすぐに僕を見つめた。

「……どうして、私に血をあげたの?」

「興味本位だ」

少女の目は細くなり、少し悲しそうに揺れた。

「あなたの血を飲んだ今の私なら……あなたを殺すことだってできる」

「それも興味深いね」

「……」

少女は短く息を吐き、静かに言った。

「私は、生きるつもりなんて……ないのに」

その声は風が消えるように弱く、 けれど確かに、生を拒絶する者の声だった。

それでも、なぜか僕はこう思った。

——退屈が、少しだけ消えた気がする。


◆第二章 死に場所を探す少女


彼女を屋敷に連れ帰り、一晩が過ぎた。 屋敷中の者が怯えながら眠れぬ夜を過ごしたらしいが、当の本人——いや本人たる“吸血鬼”は、ただ静かに窓辺に座っていた。

夜明け前、僕が起きると、少女は薄暗い廊下の隅で、抱えるように膝を立てて座っていた。 その顔は昨日より少しだけ血色があったが、生きる力とは違う。

「……眠らないのか」

声をかけると、少女はゆっくり顔を上げた。 白銀の髪が波のように揺れる。

「眠る必要はないの。 ……それに、眠ったら……また、目が覚めてしまうから」

「それは生きてる者の特権だよ」

少女は、小さく首を振った。

「私は、生きていたいと思ってない」

淡々と告げる声に、悲壮も怒りもない。 ただ、乾いた諦めだけがあった。

「死にたいのか?」

「うん」

それを聞いても、胸は痛まなかった。 ただ、奇妙な違和感だけが残った。

「君の名前は?」

「……ないよ。必要なかったし」

「じゃあ、名前をつけよう」

少女は驚いたように目を瞬いた。

「……名前?」

「そう。名もないままじゃ不便だろう?」

僕は少し考え、口にする。

「レミィ。……そんな感じでどうだい?」

「……レミィ……」

少女は唇の内側で何度かその名を転がし、 そして、ごくわずかに——ほんの一瞬だけ——その瞳が揺れた。

悲しみとも、戸惑いともつかない。 ただ、“何か”を受け取ろうとしているような揺らぎ。

「……変じゃない?」

「悪くない。君に合ってる」

「……ふふ」

笑ったのかと思ったが、すぐに口元は消えた。 それでも、確かに、空気が少しだけ柔らかくなった。

「じゃあ、レミィ。 死ぬなら、僕の屋敷でにしてくれ」

「どういうこと……?」

「外で勝手に死なれたら面倒だ。処理が」

レミィは数秒黙ったあと、困ったような顔をする。

「……よくわからないけど…… あなた、変わってる」

「それはよく言われる」

「死なせてくれないの?」

「……そうだね。死にたいなら死ねばいい。 だけど、僕の屋敷でなら、いつでもどうぞ」

「……ずいぶん勝手」

「貴族ってのはそういうものだよ」

レミィは立ち上がると、足元がふらついた。 僕は手を伸ばしたが、彼女は首を振る。

「触らないで。……吸いたくなっちゃうから」

「血を?」

「……うん。昨日の血、すごく……おいしかったから……」

その言葉に、少しだけ背筋が冷えた。 恐怖ではない。 恐怖という刺激そのものが、久しぶりに胸に湧き上がったのだ。

「少しずつ慣れていけばいいさ。 食事も用意する。人の血が必要なら、金でどうとでもなる」

「……あなた、やっぱり変」

「よく言われる」

「ふふ……」

今度は、ほんの一瞬だけ微笑んだ。 レミィが笑ったのを見たのは初めてだった。

だがそのすぐあと、レミィは壁に寄りかかり、 ぼそりと小さく呟いた。

「でも……死ぬつもりは、変わってないよ」

「うん。知ってる」

「……本当に止めなくていいの?」

「止めるよ。退屈しのぎにね」

「……そういうところが、一番わからない」

レミィは顔を伏せ、廊下の影に沈む。

「どうして、生きたいとも思ってない私に……名前なんてつけたの……?」

「さあね。興味本位だよ」

「……興味本位、ばっかり」

「実際、君は興味深い。 死にたがりの吸血鬼なんて、珍しいだろう?」

「……珍しいから、生かすの?」

「そうだね」

「変わってる……本当に、変わってる……」

レミィは苦しげに息を吐き、肩を震わせた。 涙ではない。 ただ、心の奥のひび割れが音を立てているように見えた。

「……死ぬのって、そんなに悪いことかな」

「悪くないよ。君が選ぶなら」

「じゃあ——」

「でも、今日死なれたら困る」

「なんで?」

「今日の予定は、君の服を用意することなんだ」

「……服?」

「屋敷の中を歩くにも、そのボロ布じゃ見苦しい。似合う服を用意させる」

レミィはきょとんと目を瞬く。 あまりにも普通の会話に、彼女の思考が追いついていないようだった。

「……服をもらっても、死ぬけど」

「いいよ。どうせ金は余ってる」

「ねえ、あなた……ほんとに……」

レミィは、僕をじっと見つめた。 深く、じわりと滲むように。

「……あなたのこと、よくわからない」

「僕も君がよくわからない。 でも、それでいいじゃないか」

「……ふふ……」

今度の笑みは、かすかに、ほんの少しだけ柔らかかった。

「じゃあ……少しだけ、生きててもいい?」

「もちろん」

「でも、死ぬからね? 必ず」

「そのときは屋敷で頼むよ」

「……変なひと」

レミィはそう言って小さく肩を落としたが、 その瞳には、昨日にはなかった“色”が宿っていた。

死を望む少女が、 生と死のどちらにも寄りかかれずに揺れている。

——その揺れが、 僕にはなぜかたまらなく面白かった。


◆第三章 屋敷で始まる共同生活


レミィが屋敷に来てから、三日が経った。 吸血鬼という存在に対する恐怖は、使用人たちの間でまだ消えていないらしく、廊下の角からそっと覗く影が増えた。 だが当のレミィは、そんな視線にまるで興味がない。 彼女は、朝から晩までただ静かに屋敷を歩き、時折ぼんやりと庭を眺めたり、廊下の端に座り込んだりするだけだった。 生きているのか死にかけているのか、その境界に落ち着いているようだった。

■吸血鬼の食事問題

「ねえ」 昼過ぎ、レミィが僕の書斎に現れた。 ふわりと揺れる白銀の髪が、開けた窓から吹き込む風になびく。 「……お腹、すいた」 「血が欲しいってこと?」 「うん。……でも、あなたのはだめだから」 「僕のは美味しすぎるから?」 「……うん。危ない。理性がなくなりそう」 彼女は控えめに言うが、その声の震えには嘘がない。 昨日も、僕の手首を一瞬見るだけで息が荒くなっていた。 「わかったよ。手配してある。 “提供者”からの血液パックが届くはずだ」 「……提供者?」 「金を払えば、血の少しぐらい分けてくれる人はいくらでもいる」 「……人間って、変」 「君が言うと説得力があるね」 レミィは小首を傾げた。 彼女は食事のこととなると、やけに素直だ。

■血液パックと、満たされない渇き

午後、使用人が血液パックを持ってきた。 レミィはじっと見つめ、少し考えてから僕を見る。 「……飲んでいい?」 「もちろん」 レミィは袋の先端を噛み切り、中身を吸う。 その様子は野生的というより、ただの飢えた動物のようだった。 だが—— 「……だめ。これじゃ……全然満たされない」 袋を落としたレミィは、胸を押さえ、苦しげに息を吐く。 「足りない?」 「ううん……違う…… “味がしない”……」 僕は眉を寄せた。 「味が?」 「……人の血の味って、色々あるの。 鉄の味、甘い味、苦い味……。 でもこれは……“水”みたい……」 レミィの声は震えていた。 渇きではなく、焦りのような震え。 「昨日あなたの血を飲んだとき……生きてるって感じたの。 でも今のこれは…… ……生きてる感じがしない……」 「僕の血と比べたら、そうかもね」 「……比べちゃう。勝手に」 レミィは床に座り込み、膝を抱えた。 白銀の髪が肩からこぼれ、少女の身体を隠す。 「どうしたい?」 「……我慢する。 あなたのは……危ないから……」 「自信がない?」 「……ない。 あなたの血の匂い、思い出すだけで……体が勝手に……」 言葉が震え、レミィは顔を伏せた。 「……怖いの。自分が」 吸血鬼が、震えている。 敵意ではなく、自分への恐怖で。

■夜の廊下で

その夜。 僕は眠れず、廊下を歩いていた。 すると、暗闇の先にレミィの姿があった。 壁にもたれ、目を閉じている。 「眠らないんじゃなかったのか」 「……うん。でも休むことはあるよ」 「血は大丈夫か?」 「……ごめん」 「謝ることはない」 レミィは僕の匂いを避けるように、わずかに距離を取る。 「あなたの血の味……忘れられない。 こんなこと、今まで一度もなかった」 「光栄だよ」 「……そんな軽いことじゃないのに」 その声には、かすかな苛立ちが混じっていた。 彼女自身に向けた怒りのようなもの。 「どうしてあなたの血だけ、あんなに……」 言いかけたとき、レミィの身体がふらりと揺れた。 「レミィ?」 僕が一歩近づくと、彼女は怯えたように手を伸ばした。 「来ないで……! お願い……」 瞳が赤く、強く輝いた。 しかしそれは、襲うための色ではなかった。 ——自分から遠ざけるような色だ。 「近づいたら……私……あなたを……!」 レミィは胸を押さえ、呼吸を荒くし、壁に背を当てて震えた。 「落ち着け。飲むか?」 「いや……いや……!」 レミィは泣きそうな声で叫ぶ。 「あなたの血を飲んだら……あなたを殺したくなる! それが……怖い……!」 僕はそこでようやく、ほんの少しだけ理解した。 ——この少女は、自分を制御できないことが怖いのだ。 人を殺さないために死にたがり、 死にたがる自分自身がまた怖くなる。 そんな矛盾を抱えて、五百年生きてきたのだろう。 「レミィ」 僕はゆっくり手を伸ばした。 触れない距離で、手のひらだけを見せる。 「大丈夫だよ。 君が僕を殺したって、誰も怒らない」 「……怒る……! 私が……私が許せない……!」 そこで、レミィは膝から崩れた。 震えながら、床に爪を立てる。 「どうして……生きてると……こんなに苦しいの……」 「それは」 僕は静かに言った。 「生きる理由が、まだ見つかってないからだよ」 「……理由……?」 「死にたがっている人間は、たいていそうだ。 生きる理由が一つあれば、死ぬ理由は薄れる」 「……そんなもの、見つかるわけない……」 「それも興味深いね」 「興味……!」 レミィは僕を睨んだ。 赤い瞳が揺れ、涙に似た光をにじませる。 「あなた……私のこと、変な玩具みたいに思ってるでしょ……!」 「玩具じゃない。 君は——“退屈を壊す存在だ”」 レミィの瞳が、驚きでわずかに揺れた。 「……退屈……?」 「ああ。君を見ていると……退屈しない」 「……それって……」 「生きていても悪くないと思える理由のひとつだ」 レミィは口を開きかけたが、言葉を失い、そっと視線を落とした。 「……そんなの……知らない……」 ぼそりと呟き、 小さな肩が震えた。 「……知らないよ……」 それは泣き声に似ていたけれど、涙は落ちなかった。


◆第四章 初めての夜襲


屋敷での生活は静かに、しかし不穏に始まった。 レミィは昼間はおとなしく、血を我慢し、少しずつ僕の存在に慣れていくようだった。 しかし夜になると、その抑えきれない本能が顔を覗かせる。

■夜の静寂

深夜、僕は書斎で書類を整理していた。 蝋燭の光が壁に揺れる中、背後で床の軋む音がした。

振り返ると——そこにレミィが立っていた。 白銀の髪が暗闇の中で銀色に光る。 その瞳は、深紅に染まり、昼間の冷静さは消えていた。

「……我慢できなかった」

低く、震える声。 そして、僕の腕に手を伸ばす。 その動きは無意識ではなく、本能のまま。

僕は動かず、ただ彼女を見つめた。

「……血……欲しい……!」

その瞬間、僕の手首に彼女の牙が触れた。 冷たく、鋭く、痛みはないが、命の震えを感じる。

■抑えきれない欲望

彼女の動きは、暴力ではなく渇きそのものだった。 無理に引き離すこともできたが、僕は敢えて手を出さなかった。

「……レミィ」

僕の声に、彼女は一瞬だけ顔を上げる。

「……やめられない……あなたの血……」

その瞳は、恐怖でも怒りでもなく、渇望だけに支配されていた。 レミィの小さな体が、僕に覆いかぶさるようにして牙を当てる。

わずかな接触だけで、彼女の体から生気が一気に吸い取られる感覚があった。 それは恐ろしくも、同時に心地よい興奮だった。

「落ち着け、レミィ」

「……だめ……だめ……!」

抑えようと必死にもがく彼女の手が、僕の肩を掴む。 その力には、500年生きた吸血鬼の底力が感じられた。

僕は微かに息を吐き、彼女の背中に手を回した。

「安心しろ。殺したりしない」

しかしレミィはそれを聞いても止まらない。 血の味を覚えた本能は、理性よりも強力だった。

■初めての理解

しばらくして、彼女はようやく牙を離した。 顔は真っ赤に染まり、呼吸は荒く、汗のように冷たい液が額を伝う。

「……ごめん……怖かった……」

僕は微笑み、手で彼女の髪を撫でた。

「怖くない。むしろ、面白い」

レミィはその言葉に、少し怒ったように眉を寄せる。

「……面白い、って……!」

「君の血を前に、理性と欲望がぶつかるのを見るのは面白いんだ」

彼女はそれを聞いて、口元に小さな笑みを浮かべた。

「……私は……あなたのこと、理解できない……」

「僕も君のことは、完全には理解できない」

そして、暗い書斎に二人の影が寄り添う。

レミィは小さく息を吐き、僕の胸に顔を埋めた。 その体温は冷たく、しかし彼女の存在の確かさを感じさせた。

■揺れる関係

夜が更けるにつれ、僕は感じた—— レミィは僕を嫌いではない。 だが、本能の渇きと死への欲望が、常に僕との間に影を落としている。

吸血鬼であること、 死にたがりであること、 人を殺す可能性があること——

そのすべてが、夜ごと僕に恐怖と興奮を同時に与えた。

そして僕は知っていた。 この関係が、静かに壊れ始めていることを。


◆第五章 愛と欲望の狭間


屋敷での生活が一週間ほど経った頃、レミィとの関係は微妙な均衡の上にあった。 昼間は穏やかで、時折僕に微笑みを見せることもある。 だが、夜になると彼女の渇きと死にたい衝動が顔を覗かせる。

■血と感情

ある夜、レミィが僕の書斎に現れた。 白銀の髪が薄暗い蝋燭の光で柔らかく光る。

「……飲んでいい?」

その声は、昼間の落ち着きとは違い、かすかに震えていた。 僕の腕をじっと見つめるその瞳には、渇望と恐怖が混じる。

「少しだけなら」

僕は手首を差し出す。 レミィは躊躇いながらも唇を近づけ、血を吸い上げる。

その瞬間、彼女の身体が一瞬だけ震え、全身の力が抜ける。 白銀の髪が光を帯び、赤い瞳に再び命の色が戻った。

だが、その瞳には、以前のような冷静さはなかった。 欲望に揺れ、理性が危うく崩れかける——そんな瞬間を、僕は初めて見た。

「……すごく……美味しい……」

その声に、僕は微笑む。 同時に胸の奥に、熱い不安が生まれる。

——もしも、このまま理性を失ったら、僕は彼女に殺されるかもしれない。

■初めての接近

レミィは血を飲み終えると、ふらりと僕に寄りかかった。 その体温は冷たいのに、存在感は圧倒的だった。

「……どうして、私にここまでしてくれるの?」

「面白いから」

「……面白い、だけ?」

「興味本位もある。だが……君がここにいることで、退屈が少しだけ消える」

レミィは小さく息を吐き、僕の胸に顔を埋めた。 その瞬間、僕は思った——彼女が僕に信頼を寄せているのではなく、ただ自分を抑えるために僕に依存しているのだ、と。

だが、どうしようもなく愛しい。 危うくても、死にたがりでも、僕にとって唯一無二の存在だった。

■夜の告白

夜も深まり、屋敷は静寂に包まれる。 レミィは僕の膝に座り、膝を抱え、目を伏せていた。

「……ねえ」

小さく呟く声に、僕は耳を傾ける。

「……私……死にたいって思ってるけど…… あなたといると……少し、生きてもいいかなって思う……」

その言葉に、胸が熱くなる。 500年生きた吸血鬼が、死にたがりのまま、初めて「生」を選ぶ瞬間。

「そうか……なら、生きていよう」

「……うん。でも、死ぬのも忘れてないから……」

「わかってる」

お互いの距離が少し縮まった瞬間、僕はレミィの白銀の髪に手を伸ばし、優しく撫でた。

「……好き、なんだね」

その言葉に、彼女は目を見開いた。

「……あなた……本気?」

「もちろん」

小さくうなずくレミィ。 その頬が、ほんのり赤く染まる。

──二人の心は、まだ不安定で、危ういけれど、確かに互いを求め合っていた。

■次の夜への不安

しかし、僕は知っていた。 吸血鬼の本能は、理性よりも強く、いつ何時暴走するかわからない。 血の渇き、死にたい衝動、愛情と欲望の交錯——

それらが混ざり合う夜は、必ず訪れる。

そして僕は、無意識に覚悟をしていた—— この生活は、最後まで平穏では終わらないだろう、と。

屋敷の窓から差し込む月光の下、僕はそっとレミィの肩に手を回した。 彼女の体は冷たい。 でも、その重みは、確かに生きている証だった。

——そして次の夜、彼女の本能が暴れ出す。


◆第六章 衝突——血への欲望


屋敷に静寂が降りる夜、レミィの渇きは限界に達していた。 昼間の穏やかさは嘘のように消え、牙を剥き出しにした本能が彼女を支配していた。

■夜の予兆

僕は書斎で本を読んでいたが、ふと背後の廊下に気配を感じた。 レミィだ。 白銀の髪が月光に光り、瞳は深紅に染まっていた。

「……飲みたい……」

低く、震える声。 昨日の夜とは違う、もっと制御の効かない衝動が混じる。

「……わかってる。でも……」

声をかける前に、レミィは跳ねるように僕の元へ飛びかかってきた。

■初めての襲撃

牙が僕の腕に触れ、赤い熱が皮膚をかすめる。 甘く、濃い匂い——理性では抑えられない魅力。

「レミィ、落ち着け!」

だが、彼女は止まらない。 全身の力を僕に押し付け、吸血衝動に抗えずにいる。 僕は腕を差し出し、耐えながら見つめた。 彼女の瞳に映るのは、恐怖ではなく、ただの欲望だった。

「……我慢できない……あなたの血……!」

手首を咥えようとするレミィを、僕は軽く制した。

「いい。少しだけ……」

僕が許可を出すと、彼女は唇を押し付け、血を吸い上げる。 その瞬間、レミィの身体が震え、冷たかった肌がわずかに温かくなる。

■血を分ける快感と危うさ

血を飲みながら、レミィは目を閉じる。 生気が体中を巡り、力を取り戻す感覚。 しかし、理性の糸はほとんど切れていた。

「……んっ……もっと……」

声が漏れ、僕の血の味を求める欲望が顕著になる。 僕は分かっていた——このままでは制御不能になることを。

「落ち着け……まだ屋敷だ、誰も……」

だが、レミィは体を僕に押し付け、制御を失った吸血衝動のまま牙を押し当ててくる。 その瞬間、僕は不思議な感覚に包まれた。 恐怖でも怒りでもなく、ただ——生きる実感。 危険を承知の上で、僕はその衝動を受け入れることにした。

■初めての「危険な一線」

レミィの吸血が止まると、彼女はふらりと倒れ込み、冷たい床に体を預ける。 赤い瞳はまだ血に染まり、呼吸は荒い。 だが、その表情には満足感と罪悪感が混ざっていた。

「……怖い……自分が……」

彼女は震える手で胸を押さえ、目を閉じた。 500年生きてきた吸血鬼が、衝動の前に無力になっている。

「大丈夫だ。僕は平気だ」

僕は手を伸ばし、彼女の髪を撫でる。 冷たくて、柔らかくて、心地よい。 その感触だけが、現実の証明だった。

「……あなたの血……すごく……美味しい……」

彼女の声は震えていた。 そして僕は、初めて理解した—— レミィは愛情よりも本能に従うことが優先される存在だと。

■愛と欲望の境界

夜が明ける前、二人は書斎の床に座り込んだまま、静かに呼吸を整えていた。 理性と欲望、愛情と衝動—— すべてが交錯する中で、僕たちはお互いを必要としていることだけを確かめ合った。

「……あなたといると……死ぬことも、生きることも……」

レミィは小さく息を吐き、僕に顔を寄せた。

「……同時に怖くなる……」 僕は微笑むしかなかった。 この危うい関係の先に、何が待っているのか—— まだ誰も知らない。


◆第七章 心の距離と深まる絆


屋敷での生活は、少しずつ「日常」と呼べるものになりつつあった。 レミィは昼間はおとなしく、血を我慢し、時折僕の傍らで本を読んだり窓の外を眺めたりする。 夜は相変わらず危うい衝動に揺れるが、僕は少しずつ彼女の行動を理解できるようになっていた。

■静かな日常

ある午後、レミィは庭のベンチに腰掛け、手元の花をじっと見つめていた。 白銀の髪が柔らかく光を反射し、赤い瞳が花弁の色を映している。

「……花って、きれいね」

「うん、確かに」

僕は隣に座り、彼女の手元を覗く。 小さな手で花びらを触る仕草は、まるで普通の少女のようだった。

「でも……すぐに枯れる。命が短すぎるの」

「君は500年生きてるのに?」

レミィは少し微笑み、首を振る。

「長く生きてるけど……退屈だっただけ。 でも今は……少し楽しいかもしれない」

その言葉を聞き、胸が温かくなる。 僕は初めて、レミィが僕との生活を「楽しむ」瞬間を見た。

■微妙な距離

夜になると、また彼女の本能が顔を出す。 血への渇き、死への欲望——それは昼間の穏やかさとは裏腹に、常に存在していた。

「……あなたの血……まだ欲しいかも」

ふとした瞬間に、赤い瞳が僕を見つめる。 その視線には、好奇心と欲望が混じる。

「少しならいいよ」

僕は手首を差し出す。 彼女は慎重に唇を近づけ、血を吸う。 だが、前回のように理性を完全に失うことはなかった。

この距離感—— 危ういながらも、二人の間に微妙な信頼が生まれていることを示していた。

■心を通わせる瞬間

ある夜、レミィは書斎の床に座り、僕に顔を上げた。

「……ねえ、あなた」

「ん?」

「……私、怖いこともあるけど…… あなたといると……少しだけ、生きててもいいって思える」

僕は微笑み、そっと彼女の肩に手を置いた。

「よかった。生きる理由が少しでも増えたなら」

レミィは小さくうなずき、目を閉じる。 その姿は、500年の孤独の中で初めて人に心を許す瞬間のようだった。

「……でも、私は死にたい気持ちも忘れない」

「それもいいさ。君は君だ」

レミィは顔を僕の胸に埋め、軽く震えた。 冷たい身体が、確かに僕の存在を求めている——そんな実感があった。

■揺れる感情

その夜、僕は窓から月を見つめながら思った。 レミィを守りたい。 でも、彼女の欲望と死にたい気持ちを押さえ込むことはできない。

愛と危険、信頼と恐怖—— すべてが混ざり合い、この生活の行く末を予測できない。

それでも、僕は思った—— どんな危険があろうとも、レミィと共に生きることを選ぶ、と。

そして、月光に照らされた屋敷の中、二人は静かに夜を過ごした。 危うい関係の中で、少しずつ絆が深まっていく。


◆第八章 火種——危険の兆し


屋敷での生活が数週間経ち、僕とレミィの関係は微妙な均衡の上にあった。 昼は穏やかに、夜は衝動に翻弄されながらも、二人は互いの存在を受け入れつつあった。

しかし、外の世界は決して静かではなかった。

■異変の始まり

ある日の午後、使用人が慌てた様子で僕の書斎に駆け込んできた。

「ご主人様! 屋敷の外で……噂が広まっています! 吸血鬼を買った、と!」

胸の奥がざわついた。 僕は冷静を装いながらも、瞬間的に血の気が引くのを感じた。

「……誰だ、そんな噂を流したのは?」

「わかりません……でも……村人たちが騒ぎ始めています!」

吸血鬼を買った、という情報—— 屋敷の秘密はもう隠せなくなりつつあった。

■レミィへの影響

その夜、僕はレミィに事情を話した。 白銀の髪が月光に光り、赤い瞳が不安に揺れる。

「……噂……?」

「うん。屋敷の外で、君が吸血鬼だと知れ渡ろうとしている」

レミィは肩を震わせ、膝を抱えた。

「……また……死にたい……?」

「いや、今回は僕が守る。逃げる必要はない」

だが、彼女は首を振る。

「……無理……人間たちは怖い……私を焼くかもしれない……!」

その恐怖は、500年の孤独と死にたい衝動を重ねたものだった。 彼女の心は、外の世界への恐怖で引き裂かれていた。

■危険の予感

屋敷の周囲には、火を持った村人の影がちらつき始めた。 噂を聞きつけた者たちが、好奇心と恐怖に駆られて行動を起こそうとしている。

僕はレミィの手を握り、冷静に言った。

「……最悪の場合、屋敷を守らなければならない。 君と僕、二人で」

レミィは一瞬、赤い瞳を僕に向け、そして目を閉じた。

「……わかった……あなたと一緒なら……怖くない……」

その言葉には微かな覚悟が宿っていた。 しかし、外の世界の力は、屋敷の扉一枚で止められるものではなかった。

■静かな嵐の前

その夜、二人で屋敷の書斎に座り込み、外の様子を伺った。 窓の外には、焚き火の光と人々の影。 遠くで怒号が聞こえ、村の怒りが近づいてくる。

レミィは僕の胸に顔を埋め、微かに震えている。 しかしその手は、僕の腕をしっかりと握り締めていた。

「……死ぬなら……ここで一緒に……」

彼女は小さく呟き、白銀の髪を肩に垂らす。

「……二人で……なら……いい」

胸に迫る冷たい恐怖と、燃えるような覚悟—— 僕はその両方を抱え込み、静かに夜を迎えた。

外の世界は既に嵐を予感させ、屋敷の扉は決して安らぎを与えなかった。


◆第九章 最後の夜——焼け落ちる屋敷


屋敷の外では、村人たちの怒声と焚き火の匂いが迫っていた。 噂に駆られ、恐怖に支配された群衆が、ついに行動を起こす。 屋敷の扉を叩く音が、夜の静寂を破る。

■避けられぬ結末

僕はレミィの手を握り、書斎の隅で彼女を抱き寄せた。 白銀の髪が夜の光に光り、赤い瞳が僕を見つめる。

「……もう逃げられないね」

「……うん……」

レミィは震えながらも僕に寄り添った。 500年の孤独と死にたがる気持ちを抱えた吸血鬼が、今、僕の腕の中で静かに覚悟を決めている。

■火と煙

突然、屋敷の外で火が上がった。 村人たちが松明を持ち、屋敷の壁に火を放つ。

「レミィ……!」

僕は彼女の肩を抱き締め、逃げ道を探す。 だが、炎は瞬く間に広がり、屋敷の通路や窓を塞ぎ始める。

「……ここで……終わる……の……」

レミィの声は震え、吐息が白くなる。 僕は涙を堪えながら、彼女の手を握る。

「一緒なら……怖くない……」

その言葉に、僕も答えた。

「僕も……君と一緒なら……怖くない」

二人の心は完全に通じ合った。 絶望の中でも、愛だけが確かにそこにあった。

■最後の抱擁

炎が屋敷を包み込む。 壁が崩れ、天井が落ちる音が響く中、僕はレミィを抱き締めた。

「……愛してる……」

「……私も……愛してる……」

冷たい炎の熱、煙の匂い、木材が割れる音—— すべての感覚が、二人の最後の瞬間を強く刻みつける。

僕たちは互いの体温を感じながら、抱き合ったまま動けなかった。 屋敷は完全に炎に包まれ、外の世界から遮断された。

■終焉

息が詰まるような煙、熱に焼かれる木材、そして赤い炎。 外の喧騒も、恐怖も、すべてが遠くに感じられる。 ただ二人、抱き合ったまま、愛を確かめるだけの世界。

「……最後まで……一緒……」

「……ずっと……一緒……」

屋敷は音を立てて崩れ、火がすべてを飲み込む。 僕たちはその中で、互いの温もりを最後まで感じながら、ゆっくりと燃え尽きた。

■バッドエンド

朝日が昇るころ、屋敷の跡には灰と煙だけが残った。 中には、誰も生き残っていない。 しかし、誰にも知られない二人の愛と死は、静かに燃え尽きたまま、夜の闇に溶けていった。

──こうして、金と欲望、愛と死に翻弄された二人の物語は、終焉を迎えた。


エピローグ


金と欲望、愛と死に翻弄された二人。

最後まで互いを求め合いながら、屋敷と共に消え去ったその姿は、悲劇の象徴となった。

「彼女は最後まで死を望んでいたが、それは“誰かと共に”という条件が加わった」

死にたがりの吸血鬼と、退屈を抱えた金持ちの青年の物語は、静かに終わりを迎えた。

あとがき


 今回の作品を読んでいただき誠にありがとうございます。

小説をかいてみたいなとは、思ったものの、思った以上に

作品を作ることが出来ました。

 今回の作品は、暇を持て余した。自分が描いた作品です。(笑)

さて、本題に入りましょう、主人公視点で物語が進み、

吸血鬼を買うところからスタートします。主人公は、退屈

ただその一つの言葉で、全てを片付けるところ。本当に、

退屈なのが分かります。しかし生きることに対しては

執着があったのは別のお話。なんやかんやで、吸血鬼の

レミィを不器用だけど大切にしているところもいいですね

そうしてラストの二人で焼死、僕は作品を何度も読み直し

泣きましたね。

 最後に、監修のごま油小群さん、今回の作品に協力して

いただき誠にありがとうございました。そしてこの作品を

読んでくれた読者の皆様、本当に感謝しています。

 次回作も作る予定ではいます。レミィの過去編や

主人公の過去編、そして本当の結末と、Ifストーリー

等、暇なときにかいてみたいです。

 最後まで本当にありがとうございました。

                     A丸


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― 新着の感想 ―
まさかのメリバとは思ってもいなかったです。 まずは改善点から 内容とか所々同じような感じで、時の進みとかも分かりづらかったけれど、内容としては面白かったですし、悪くなかったと思います。アドバイスをする…
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