第98話 妻たちのこと?それはしょうがなくね?
「ソロモン王ことウリエルよ、お前、現実でもVRでもモテすぎだという自覚あるか?」
しかし、黒須とルカは助けてなんかやらない。
なぜなら、これはVR授業だからだ。
「女性に囲まれてダメになっていく王……まさに“ソロモン晩年”よね。これってわざとなら天才だわ」
黒須も頷いた。
「晩年の雰囲気めっちゃ出てきた……」
ウリエル(現実)「ちょ……ちょっと待ってください!? 僕、堕落しませんよ!?!?」
ルカ「大丈夫。あんたは大丈夫よ。でも歴史上のソロモン王は違ったのっ!」
黒須「そうだな。“モテすぎて堕落した男”ってのが歴史上の評価だ」
ルカ「現代でも、女性に囲まれたら気をつけることね。……誰とは言わないけど、他の男子教師も」
「俺!? なんでだよ!!」
「誰とは言ってない。それとも、心当たりが?……」
ウリエル「え……黒須先生どうして……? あ、チャイム鳴りました! 授業に行きましょう!」
教室に着くと。黒須は淡々と授業を進めた。
解説で史実を述べていく。
―「イスラエル宮殿を立て直し、栄華を極めたソロモン王。ただ、その一方で、民衆は重い税金と賦役で苦しんでいた。なんせ、近隣諸国と政略結婚をくり返したことで、王妃の数がすごいことになってしまった。なんと、妻700人、側女300人いた……1000人の大奥って凄いよな」
生徒たち。
「え、1000人って言った?」
「うん、聞こえた」
画面に“大量の外国人妻アバター”が出てきた。
生徒。
「うわぁぁぁ!!!」
「多すぎる!!! 700人!?!?」
「このほかに、300人?」
黒須も呆れかえった。
「やりすぎだろ、ソロモン……」
「黒須先生、もしアンタが王になったら……700人とか……作らないわよね?」
「するかバカ」
ルカは頬を赤く染め、ほっとした。
「……うん……」
生徒たち。
「はい!夫婦!!」
「黒須先生の反抗的『するかバカ』がイケメンすぎー」
ルシファーは、ため息とともに背伸びして、ストレット運動を始めた。
嫉妬ゲージ+40%になると、謎の行動を始める男、ルシファー。
黒須は言った。
―「こうして“女性人気のあるソロモン王”になってしまった。という見方もあるが……実際は、政略結婚が多かったらしい。とにかく、次々に妻を他国から娶るから、異教の妻ばかりになってしまった」
異教の妻1―「さあ、あなた、この女神を拝んで」
ソロモン(ウリエル)―「ん・・・うむ(まぁいいか)」
―「別の妻の所へ行くと、また違った神を信仰していた。ソロモンがあちこちの女のとこへ通う嫉妬も、あったのかもな」
異教の妻2―「あなた! あっちは拝めて、わたしが信じている神は拝めないとでも? そんなの嫌よ。耐えられない!」
ソロモン(ウリエル)―「あ、そういうことはないよ。君の神も拝むよ」
異教の妻3―「ほら、こちらの偶像を拝んで」
ソロモン(ウリエル)―「おお、なんかありがたい気持ちになってきた」
異教の妻4―「さあさ、わたしたちはどんどん燔祭を捧げましょうよ」
ソロモン(ウリエル)「そうするか……。も、ここまでくりゃなんでも同じだ」
―「だんだん傾倒していくソロモン。ダメだこりゃ」
ソロモン王―「うむ、なかなかいい神だな」
異教の妻5―「でしょー、王国の繁栄まちがいなしよ!」
―「ソロモンは異教を黙認してしまった」
ソロモン王―「まぁ妻たちのことだし、それはそれでしょうがなくね?」
すると、VR画面の黄金の神殿の前に、暗雲が垂れ込めた。
―「ソロモンは……多くの外国の神々を受け入れ、ヤハウェからの教えを忘れつつあった……」
雷鳴が轟いた。
天の声(荘厳)
―「ソロモンよ……他の神を拝んではならぬと、あれほど言ったのに忘れたのか。
もうよい。わしはもうお前の王国を裂いて取り上げる。
お前が生きている間だけは、はダビデに免じて待ってやるが、お前が死んだらすぐに実行する。そなたの後の代で、王国を裂く……」
生徒たち。
「こわっ……」
「神、怒った……」
「そらそうだ。異教の神を拝むんだもの」
黒須は解説した。
―「……神ってさ……ほんと、優しい時は優しいけどさ……怒ると一気に来るよな。……
俺も何度も落とされかけたしよ」
ルカは、黒須の横顔を見つめてつぶやいた。
「……黒須先生?」
「なんだよ」
「……黒須先生は……“怒り”で落とされたんじゃないでしょ? 本当は……守るためだったとか……そういう正しい理由があるんでしょ……」
「……さあな」
「知らない振りしやがって、この堕天使」
ルカが黒須に萌えキュンしているのは、ルシファーはわかっていたがわざと知らない振りして、アイスコーヒーのストローを飛ばして遊んでいた。
ソロモン王―「こうして僕は、多くの国々の妻たちに囲まれ、やがて心が揺れ……神から目を背けてしまったのです……」
VR画面が薄暗くなった。
場面が切り替わり、古代イスラエル王国の地図が二つに裂けた。
ソロモン王―「こうして、ソロモンの死後……、王国は北イスラエルと南ユダに分裂しました」
地図に
《北:イスラエル王国》
《南:ユダ王国》
が表示された。
生徒たち。
「あ、世界史で出るやつ!」
「つながった!!」
「そういうことだったんだ」
ソロモン王―「晩年、僕は……立派な王国を築きながらも、最も大切なものを失ってしまいました。それは、わが民衆です」
黒須がつぶやいた。「……モテるってのは、危険だな」
ルカ「ほんと、それよ……」
生徒。
「今日の授業、恋愛と歴史が全部つながったw」
「英雄ってのは、モテるんだよ」
「でもって、滅びゆく存在……」
女性職員たちは手を振った。
「ウリエルくーん、また授業見に来るわね♡」
「いや、もう来ないでください……!!」
黒須はウリエルの背中を叩いた。
「おばさんキラーお疲れっ!」
ルカも笑っていた。
「まぁ……いいレッスンになったんじゃない?」
黒須はふっと目を伏せた。
「……強い国も、賢い王も、油断すると簡単に崩れるってことだな」
「……黒須先生は……崩れたりしないでしょ?」
「おい、ルカ、授業中だ。そんな目で俺を見るなよ。俺はもうとっくに崩れた堕天使だ」
「違うわよ!! 黒須先生の本質は、うまく言えない……」
「……ルカ」
生徒たち。
「ひゅ〜〜〜〜!」
「今日プロポーズしそうな勢い!」
「VR授業で恋愛進むの草!」
ルシファーはストロー飛ばしをやめて叫んだ。
「ああ、やはり中止しとけばよかった! この授業」
教頭先生はまだ教室に残っていた。
「いいえ、まだ終わってませんわよ〜♡」
ウリエルはもとの姿に戻って、授業を締めた。
「これが“イスラエル王国の栄光と分裂”の全体像です。栄える時も、壊れる時も……人の心によって、歴史は動いていくのです」
*****
黒須は目を閉じて感慨深く言った。
「……歴史って、心の鏡だよな」
生徒たち。
「今日の授業、泣けたし笑えたし最高!!」
「旧約が一発で覚えられた!」
教頭先生は、授業の最後まで笑顔だった。
「黒須先生とルカ先生の夫婦役! あれが最高でしたわ」
「いや、それ、違いますから……教頭」
「ええ、わたしも、こんなのと夫婦にされたら迷惑ですから……失礼します」
そう言って教室を立ち去るルカを、ルシファーは追いかけた。
「ねー、ねー、黒須と夫婦役なんて、もう一生ないよね。ルカちゃーん」
「まぁ、うちらの一生、長いけどね……」




