第97話 知恵あるソロモンの裁判
黒須が解説した。
―「ソロモンが神様に願ったのは、テストで100点取れるようにしてくれとか、模試でAランク取りてーとか、そういう願いじゃなかった。それを聞いて、神は喜んだ」
「そんなの当たり前じゃない。そんなこと聖書に書くわけないでしょ」
黒須の解説にルカはちゃちゃを入れた。
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画面はソロモンが見た夢の場面だった。
―「おおなんと素晴らしいダビデの子よ、よくぞ言った!
お金でも長寿でもなく、知恵を求めるとは、ワンダホーな王だ。
よし! おぬしの願い通り、賢者の智慧を授けよう。もう、お主が望まなかった富と名声も、そして長寿までも全部そっくりワンセットで授けちゃおう!!」
黒須は神の言葉に興奮した。
―「なんという大盤振る舞い! この日の神は、よっぽど機嫌が良かったんだろう。実際、神はダビデの罪だってちょっと怒ったくらいに止めてたし、その怒りの原因であるバテシバとダビデの子ソロモンは、めっちゃ愛していたんだろうね。その後いろいろあるけど、歴史はこの血筋からイエスが生まれているんだから。甘―い」
ルカが黒須を睨んだ
「私的感情はほどほどにして、先に進めてください」
―「はい。愛されたソロモンは、栄華を極めるわけよ。イェルサレムに神殿を作ったのは、このソロモンちゃんだ。では、どんだけ知恵があったかというと、そのエピソードを見てみよう」
VRは裁判のシーンになった。
二人の母親役には、モブ生徒アバターが自動生成されていた。
母A―「この子は私の子です!」
母B―「いいえ、私のです!」
―「はい、有名な“ソロモン裁判”だ」
生徒たちはハッとして見入った。
「あの有名なやつ!」
ソロモン王―「では、剣を持ってきなさい。この子を半分にして、それぞれに切って渡しなさい」
ルカが慌て、黒須が止めた。
「え!?!? 本当に!?!?」
「落ち着けルカ、これは心理テストだ」
母Aアバターー「やめて! その子を切り裂くなんて! 殺さないでっ!……その子のお母さんはあの人です。だから、やめて」
母Bアバターー「……好きにすれば? さっさと分けてよ。うちの子なんだから」
ソロモン王―「子を本当に愛しているのは、そなたである。この子は母Aのものだ」
生徒たち。
「おおおおおお!!!」
「判断力すご!!!」
「ウリエル先生の声の説得力!!!」
「大岡越前か?」
「なにそれ、わかんねーよ」
ルカはつぶやいた。
「……こういうの、黒須先生は絶対できないわ」
「おい」
「……べ、別に悪口じゃないわよ。優しすぎて無理って意味だから」
「……まあ否定しねぇけどよ」
VRは古代イスラエル王国の繁栄の様子を映し出した。
黄金の装飾、豪華絢爛な宮殿、大量の商隊、各国からの贈り物。
黒須は説明した。
―「イスラエル王国は繁栄した。まずエジプトから妻をもらった。これは外交面で成功したわけだ。安全保障を確立できたからな。それで経済は発展した。神殿も立てた。ソロモン王はヒーローだ」
ソロモン王は多くの貢物にかこまれて満足そうな顔をしていた。
実際、女の先生がたから頂いたパンや、お菓子で、ウリエルは幸せそうな顔を振りまいていた。
黒須は喜んでいるウリエルを見ながら解説を続けた。
「はぁ……これが後の“外国人妻700人”の伏線だな……?」
ルカもそれに付け加えた。
「そうよ。あの子はモテるタイプ。放っておくと、あっという間に後宮ができるわ」
「こっわ……ウリエルの未来、こわ……」
「……でも大丈夫よ。“あなたほどはモテない”わよ」
「え? 俺と比べる?ってか、俺が格下?」
「前に地獄でモテてたじゃない。何勘違いしてんのよ!……地獄の女にモテまくったって話……ついでに教師としての話よ!!“生徒にモテる”って意味だから!! 勘違いしないでよ!!!」
「……いや、なんか今のは違う意味に聞こえたな……?」
「いいから、授業して!!!!」
生徒たち。
「はじまったぞ。ルカ先生、嫉妬した!?ww」
「黒須先生の方が危険らしいw」
ウリエルはソロモン王の姿のまま、教壇で生徒たちを見回した。
「えっとー、ここまでで質問ありますかー。なんでも聞いていいっすよ。答えるのは黒須先生だけど……えっとー……本日は“知恵の王ソロモン”の回ですよね……。なんか視線を感じるんっすけど」
全女性職員は、にこやかに答えた。
「見てるだけよ〜♡♡♡」
黒須はウリエルにアドバイスした。
「……お前……後で職員室行ったら色んなものもらうぞ」
ルカも大きく頷いた。
「間違いなくね……」
ウリエルは、意味が分かっていない。
「???」
生徒たち。
「「「ウリエル先生。 無自覚キラーすぎる……」」」
保健室の近藤先生(40代)が、にやにやしながら手を挙げた。
「ウリエル先生、今日も可愛いわねぇ♡ ところで……あなた、何歳ですか? 18歳くらいかしら?」
購買部の名取さんが手を挙げた。
「若すぎると悪いと思ってたんだけど……何歳なの〜? ウリエル先生」
女子生徒たちはひそひそ話始めた。
「先生たちって攻めすぎwww」
「ウリエル先生かわいそうww」
「こういう質問、いいの? 歴史と関係ないじゃん」
ウリエルは、小声で黒須に助けを求めた。
「黒須さん……助けてください……」
「俺だって助けてほしい」
すると、ルカが腕を組んだままで、“真実の刃” を降ろした。
「大丈夫ですよ、みなさん。ウリエルは……まだ1000歳です」
教室の空気が固まった。
「……え?」
そして、女性職員が驚きの悲鳴をあげた
「えええええええええ!?!?」
購買部の名取さんは、動揺しながらエプロンから電卓を取り出した。
「千!? 千って言った!? 今。人間離れしている……ってか、人間じゃないよね!? どうやって換算したらいいの?」
図書室の司書も……。
「え……でも若々しい……!!」
近藤先生も、
「天使……? まさか、本物の天使だったとは……!?」
ウリエルは涙目になって、ルカを睨んだ。
「ルカ先輩……容赦が……ない……」
「は? 何か問題でも?」
「ルカ、お前冷酷すぎないか!?」
冷酷なルカが黒須は大好きだ。
だが、いくら後輩とはいえ、ウリエルに冷たくするとなると、事情が違う。
ルカは冷静に答えた。
「事実を言っただけよ。まさか、彼女たちに“18歳と思われて口説かれる天使”を
放っておけないでしょ? 傷つくのはいつも女よ」
「口説いてねえと思うよ! たぶん!」
女性職員たち。
「年齢の問題じゃないの、愛の深さよ……!!」
「あなたの若さは永遠なのねぇ……♡」
「逆に1000歳の方が魅力あるじゃない……!」
「うーん、いけないわ。魔的な1000歳……」
「逆効果じゃねーか!! それに魔的とか……神聖なる存在天使さまだぞ。ルカ、お前罪づくりな……」
生徒のダニエルは、女性の先生たちの強さを思い知った。
「先生たちの耐性は鋼鉄であるwww」
ルカは冷静だった。
「ふむ。こうして見ると、ソロモン王が“700人の妻と300人の側女”に囲まれた理由、わかる気がするわね……」
「やめろ、歴史に説得力が生まれる。いや、いいのか。授業としては説得力が増した方が……」
ソロモン王がVRの王座へ座った。
その瞬間、周りに現れる“各国の姫アバター”たち
なんということか!
その中に女教師の顔が微妙に混ざっている仕様になっていた。
「あらソロモン王さまー♡」
「今日も素敵ね、ソロモンさま♡」
「何か私に命じてください♡」
黒須は完全にドン引き。
「うわ……完全にウリエルの現在じゃん……なあ、ルカ? 先生たちアバターなってるけど、いいのか?」
「ええ、さっきまで現実世界で囲まれてたもの。AIが最適化したら……こうなってしまったのよ。AIは学習したのね」
生徒のダニエルもドン引きした。
「これ、完全に“外国人妻700人”の再現ではないでしょうか……」
ソロモン王「……みなさん……近づかないで…… 僕……逃げたい……です」




