第96話 モテすぎた三代目、ソロモン王
ダビデの後の授業は、始まる前から、異常な来場率だった。
チャイムと同時に、いつもは静かなVR教室の廊下がザワついていた。
「おい、……なんだこの人混み。いつものクラスより多くないか? 非常ベルでも鳴ったか?」
黒須が教室に向かおうとすると、他の先生方、特に女性の姿が目立った。
ルカは、どんくさい黒須に呆れた。
「違うわよ。……黒須先生ったら、ほんと気づいてないのね」
「何を?」
そのとき、職員室側から“妙におしゃれした女性集団”が現れた。
国語の山田先生(50代)
保健室の近藤先生(40代)
図書室の松永司書(60代)
生活指導の森下先生(30代)
購買部の名取さん(たぶん永遠の45歳)
さらにその後ろから……
「さあ! 今日はソロモン王の授業よ! みなさん、気合入れて応援しますわよ!」
と、教頭先生(60代女性)が、教室までの隊列で陣頭指揮を立っていた。
キラキラしたラメ入りの団扇を持って、推し活だ。
「え……今日、女教師ぜんぶ集合してねぇか……?」
「一応言っとくね。黒須先生がこの女性軍を呼んだんじゃないから。今日のソロモン王はウリエル、でしょ。あの子、昔から……変に“おばさんキラー”だから」
「は!?ウリエルが!? あいつまだ若造だろ!」
「そういう問題じゃないのよ……。“あの少年のような顔と喋り方”が……女の母性本能をくすぐるの。それが、おばさんキラーってやつよ」
「はぁ!?どこがだよ!!」
「黒シ先生の基準じゃないから、永遠にわからなくていいわ。まあ、モテない男にはわかんないわよ、母性本能をくすぐるって意味」
ウリエルがソロモン王アバターの衣装で現れた瞬間……、教室が女性たちの黄色い歓声に包まれた。
「キャーーーーーッ!!!」
「ウリエルくーーん! 王子様みたい!!」
「こっち向いてぇぇぇ!!」
「愛らしい瞳……!」
「ソロモン王になりきってるの尊い!!」
黒須は教室の異常な熱気にドン引きした。
「な、なんだこれ……アイドルのライブ会場か!?」
ルカまで、圧倒されてしまった。
「ウリエル……わが後輩ながら、恐ろしい子……。行く行くはあの子のマネジメント会社で儲けるという手もあるわね」
「ルカ、……清貧と慈悲の心はいづこへ……」
さらに、教頭が手を振りながら叫んでいた。
「ウリエルく〜〜ん!! 今日の講義、楽しみにしてるわよ〜〜♡」
「教頭まで!? なあ、教頭ってさ、イケメンとか美少年とか大好きだよな。この学校終わってる……!」
「違うわよ。この学校じゃなくて、“ウリエルの天性”が怖いの」
「いやいや、どう見ても女たちの方が……」
「女たちの方が何だって? ちょっと! それは女性蔑視よ。女を何だと思ってるの?! 最低! こういうのは、女性側の母性本能なの。罪の意識なくこういう空気にしてしまうウリエルが、イケナイの」
「なんでウリエルが悪いんだよ!?」
黒須の声に、ウリエルが困った顔でルカに訴えた。
「え……僕、何かしましたか……?」
黒須&ルカ
「「自覚ないのが一番タチ悪い!!!!」」
女性職員たちは、次々に差し入れを持ってきた。
購買部の名取さんの差し入れは、生徒たちも欲しがるパンだった。
「今日は特別に、出来立ての“ホイップクリーム入りメロンパン”を持ってきたわ!
ソロモン王……じゃなくてウリエルくんに♡」
ちなみに、“ホイップクリーム入りメロンパン”は黒須の大好物だ。
「メロンパンのサービスは俺の時は一度も無かったんだけど」
ルカは黒須に肘鉄砲した。
「当たり前でしょ。黒須先生にそんな特典がつくわけないじゃない」
「君ってさ、ほんと容赦ねぇな。ま、そこがかわいいけど……」
保健室の近藤先生は、白衣姿でウリエルの手を両手で握った。
「ウリエルくん、この間の手の怪我はもう大丈夫? 今日もわたしはここで見守らせてもらうからね。血圧計持参よー」
黒須は、そんなウリエルをみて、羨ましかった。
「おいウリエル、なんでこんなに懐かれてんだよ……?」
「え?なんででしょうね?」
ルカは、いつものように鋭い一言。
「……はぁ……天然のタラシってこういうこと言うんだわ……」
生徒たちは、この様子を見て逆に盛り上がっていた。
「先生たちキレてるの笑うwww」
「ウリエル先輩マジ天然タラシ」
「購買部からメロンパン差し入れは草」
ウリエルが時計を見ながら、さっそく授業に入ろうと静かに立ち上がった。
その動きだけで教室に緊張が走る。
「本日の主題は“イスラエル王国の最盛期と崩壊”。ソロモン王アバターは僕です」
黒須は、ウリエルの横で生徒たちを静かにさせた。
「ほらほら、もうチャイムは鳴ってんだぞ。静かにしないとウリエル先生が、授業始められないだろ。静かに! ……まあ、賢王ソロモンならウリエルで合ってるな」
ルカもウリエルの後ろで、支援する側に立った。
「ウリエルが王って……なんか可愛いわね」
「可愛いは褒め言葉として受け取ります。先輩」
ルシファーは、面白くなさそうに教室の後ろで、足を組んでいた。
「わたしは登場するのかぁ?」
「ないっすね。サウル王は、もう死んじゃったんで」
「ふぅーん、なら、ちょっと居眠りさせていただくよ…………(不機嫌)」
ウリエルは授業をはじめた。
「今日の授業はソロモンです。ダビデとバテシバの息子さんです。彼は長子じゃなかったけど、イスラエル王国第三代の王になります」
****
VR画面が広がった。
黄金の王宮。
神殿の階段を、ウリエルアバター(ソロモン王)がゆっくりと降りてきた。
生徒たち。
「うわ……かっけぇ……!」
「王の風格ある……!」
「ウリエル先生、似合いすぎ!!」
ルカまで、ため息交じりにうっとりとした。
「……本当に賢王って感じ……」
感動する女性軍とは正反対に、黒須はいたって冷静だった。
「普段から、諸事情の分析してるからな。どう行動すればかっこよく見えるかなんて、お茶の子さいさい」
ウリエルがうっすら微笑んだ。
「ありがとうございます。僕もこの役は誇りに思います」
ルシファーは、女性陣の人気を一気にさらっていったウリエルに対して、不機嫌極まりない。
「……フン」
VRの画面が葬儀の場面に変わった。
ダビデが亡くなり、正式に王になったソロモン。
その夢枕に神が立ったところだった。
神の声が聞こえて来た。
―「お前に何を与えようか。なんでも望みを叶えてやろう。願ってごらん」
黒須は小さな声で愚痴った。
「いやー、神のこんな優しい言葉、いままで聞いたことねえや……」
そして、ソロモン(ウリエルアバター)は答えた。
ソロモン(ウリエル)―「わが神、主よ。今、父ダビデに代わって、この僕を王とされました。
でも、僕は小さい子どもで、出入りするすべを知りません。
そのうえ、僕は、あなたの選んだあなたの民の一人にすぎません。
しかも、イスラエルの民はあまりにも多くて、数えることも調べることもできないほど、おびただしい数です。
善と悪を正しく判断して、あなたの民を裁くために、聞き分ける知恵を僕にください。
そうじゃないと、誰がこのおびただしい民をまとめることができましょうか」
黒須は、授業を聞いている全員に聞いた。
―「聞いたか? このセリフ。脚色じゃねぇーぞ。聖書に書いてあるんだよ。信じられるか? このいい子ちゃん。お金も名声も願わないで、知恵が欲しいとよ!」
「黒須先生、ちょっと黙ってよ!」
「ルカに怒られたん」(ニコッ)




